川柳えむ

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 浮かれた男とは対象的に、女は沈んだ表情をしていた。
「こんな日なのに、もっと笑えよ」
 男が咲き乱れる桜と『入学式』の看板を背景に、女に向かって言った。
 女は溜息交じりに答える。
「笑えないよ。だって、やっぱり、違うもん」
 彼女は元々別の学校を受験していた。しかし結果は桜散り、滑り止めで受けていたこの学校に通うことになってしまったのだ。
 変わらず暗い表情をしている女に、男は少し苛ついてしまった。
「笑えって! 俺がいるだろうが! 俺がおまえを笑顔にしてやるから」
 思わず告白していた。
 男は内心喜んでいた。彼女が受験に失敗したことに。
 俺は嬉しい。おまえも喜べよ。一緒にいられるんだ。絶対に楽しくなる。楽しくする。おまえを笑顔にする。
 女が顔を上げた。
「何言ってんの。あんたは希望の学校に浮かれて嬉しいのかもしれないけどさ。落ちた人の隣でずっとヘラヘラしてて不快だったわ。あんたの隣で笑顔になれるわけないじゃん」
 冷たい表情を向けている。
 風が強く吹いて、桜の花弁が勢い良く散っていった。


『桜散る』

4/17/2024, 9:00:58 PM