友達ができた。
私は口下手で、上手く喋れない。台本を用意して、ようやく喋れるくらい。
そんな私だけど、友達ができた。その子は友達がたくさんいた。正直、別の世界の人だと思っていた。
でも、その子もいろんな悩みを抱えてるんだって偶然知った。当然だ。悩みを抱えていない人なんていなかったんだ。
そして、私達は友達になった。まだ上手く話すことはできないけど。
でも、これだけは言っておきたい。言葉にするのは苦手だけど、伝えたい。
友達に。友達になってくれて、
「ありがとう」
『言葉にできない』
その日はとても晴れていた。
温かい春の日で、桜は元気良く花を咲かせていた。
私はその日電車に乗っていた。
ぼーっと窓の外を眺めながら、視線の先に広がる桜の木々に、春だなぁ……と改めて感じていた。
電車はトンネルに入った。長い長いトンネルだ。
窓の外は暗闇で、だからといって特に視線を変えることもなく、ただただぼーっとしていた。
そして、トンネルを抜けた。その瞬間。
桜の花びらが視界を覆った。
まるでカーテンのように、桜の花びらが辺り一面を舞っている。
驚いている間に、電車は次の駅に到着した。ここでしばらく停車するらしい。本来この駅で長く停車することはないので、何か調整があったんだと思う。
ホームには止むことなく花びらが降り注いでいて、あまりにも幻想的な光景に、しばし見惚れてしまう。
カメラを向けてみても、この光景は上手く写らない。私は心にこの光景を焼き付けた。
あの日ほどの光景には、それ以来出会っていない。もしかしたら夢だったのではないかと疑うくらいの、美しい春の日だった。
『春爛漫』
ふざけた友達に手錠をかけられた。
演劇部の劇で使った小道具だ。
「鍵がないってどういうことよ!?」
「いやー……なくしちゃって……? 昨日まではあったんだけど、たぶん、今日部室の整理をしている時にね?」
しどろもどろで目を泳がす友達。
正直、俺は特に困っていなかった。困っていたのは、もう一方の手錠の先に繋がれた幼馴染の女子だった。そう、俺達は一つの手錠で繋がれていた。
「探してよ! こっちはこの状態で、探すのもままならないんだから!」
怒られて、一生懸命探す友達。
「あなたも怒ってよ!」
そして、怒りの矛先は俺の方へ。
「えー? 俺は別に困ってないしなー」
「そうよね。あなたはそういう奴だもんね。すぐ私をからかうんだから」
別にからかっているつもりなどない。事実を言ったまでだ。
だって、俺はこのままでも構わない。
「み、見つけましたぁ……」
下校時刻ギリギリまで捜索して、ようやく見つかった。友達はもうへろへろだ。
「ようやく外せる〜」
鍵を回す。カチャリと小さな音がして、手錠が外れた。
「なーんだ、残念だな」
笑いながらそんなことを言ってみる。
「何言ってんのよ。ふざけてないで帰るわ、よ……?」
ガチャンと良い音が響いた。
お互いの手には先程と同じように手錠がはまっていた。
「な、何やってんの!?」
彼女が驚いた声を上げる。友達はそんな俺達の様子を目を丸くしながら見ていた。
「残念だって言ったじゃん」
俺が再び手錠を自分達にはめたのだ。更にそのまま、手錠の鍵を窓の外に投げ捨てた。
「何考えてんの!? どうすんの!」
「おまえ、とうとう狂ったのか?」
友達にまでそんなことを言われる始末。
だって、これなら物理的に君と一緒にいられるだろう?
君となら、ずっと一緒にいられる。これからも、ずっと一緒にいたい。誰よりも、ずっと一緒に。
『誰よりも、ずっと』
突き抜けるような青空に、白い雲が心地良さそうに漂っている。暖かい風が優しく吹いて、もうすぐ春が来ることを告げている。
あぁ。なんて素敵な、お別れ日和だろうか。
今日という日、僕らは別々の道へ旅立つ。それぞれがそれぞれの胸に、様々な想いを抱いて――。
「もう卒業かぁー。早いねぇ」
「そうだね。なんだかあっという間だったな」
こうやって、教室でみんなとわいわい会話するのももう最後。
そんなことを考えてしまうと、鼻の奥がツンと痛み、目の端から何か零れ落ちそうになる。
それを気付かれないように、あえて元気良く振る舞う。
「卒業だしさ、せっかくだから今月中にどこかみんなで集まって、一日遊ぼうよ」
「おー」
「いいねぇ」
「そういやここ行ってみたいと思ってたんだけど」
「みんなで夜タコパしたい」
そうやって、遊ぶ計画を立てていく。みんなの楽しそうな顔を眺める。
大切な仲間。楽しい時間。忘れたくない。絶対に、忘れない。
寂しさはあるけど、大丈夫。だって、お別れしたって、何もかもが終わるわけじゃない。きっとみんなわかっている。こうやって集まって話したり遊んだり、そういったことが簡単にはできなくなってしまうけど。
この青い空は繋がっていて、その下にみんないるんだ。僕らは違う道を、果てしなく広がる世界を、それぞれに希望を持って旅を続けていく。それでもお互いを思う心はきっと一緒だ。
これからも、ずっと――。
『これからも、ずっと』
「姫は私のだ!」
「いや、俺のものだ!」
私はこの国のお姫様。
今、私を取り合って、隣国の王子達が争っている。お城の外でバッタリと二人に出くわし、こうなってしまった。
わかってる。私が美しいのがいけないんだって。私は間違いなくこの物語のヒロイン!
「私の為に争うのはやめてー!」
止めに入ってみるが、一向に止む気配はない。
そして、それはそのうち殴り合いの喧嘩にまで発展してしまった。
どうしよう……。
それは結局、二人の気の済むまで行われることになった。
殴り合いに疲れ、倒れ込む二人。
「はぁ……やるじゃないか、おまえ……」
「そっちこそ……」
沈んでいく夕日が二人を照らす。
お互いに支え合い、立ち上がる。夕日を背に、二人は熱い握手を交わした。
「まさかここまでやるとはね……気に入ったよ。どうだ? これから一緒に食事でも」
「いいね。俺もおまえの話を聞いてみたい」
そして、二人はそのまま夕日に溶けるように、行ってしまった。私を置いて……。
「って、ねぇ! 私がヒロインじゃないの!? どういうことなの!? いつの時代の漫画よ!」
ハッピーエンド♡
「ハッピーエンドじゃないわよ!」
『沈む夕日』