横顔が美しいなと思った。後ろ姿も、静かに佇むその様子も、どんな仕草でも。
一目惚れだったんだ。
だから、君の目をじっと見てみたいと思った。
「ずっと好きでした」
君の目をじっと見て、そう伝えた。
君の目を見つめると、動けなくなる。正面から見た君に、その瞳の美しさに、思わず固まってしまう。思っていたより、ずっとずっと綺麗だ。
たとえこのまま固まって、動けなくなって、死んでしまったとしても、本望だ。
美しい。僕の愛するメドゥーサ。
『君の目を見つめると』
ママはどこへ行ったのか聞いたら、パパは「ママはお星様になったんだよ」って言った。
だから、夜、星がよく見える公園まで行って、空を見上げながら、どれがママだろうって探した。
僕を探しに来たパパにはいっぱい怒られた。
でも、ママに会いたかったんだ。
僕は寂しいよ。ママは寂しくない?
泣きながら、今度はパパと二人で空を見上げた。
空にはいっぱいの星がある。それなら、ママはきっと寂しくないね。こんなに友達がいるんだから。
ねぇ、ママ、見えてる? 今はまだ寂しいけど、パパと二人で頑張るよ。僕も友達いっぱい作るよ。
星空に向かって手を振った。
『星空の下で』
私とあなたとの関係に名前を付けないで、今はそれでいいと、自分に言い聞かせる。
それでいい。それでもいい。それがいいわけじゃないけど。
そうやってずっと言い聞かせてきた。いつかあなたが私の前から消えてしまう瞬間まで。
そしてそこで初めて、それでいいわけなかったと、強く後悔をしたんだ。
『それでいい』
「無人島に一つだけ持っていくとしたら」
放課後の教室。
そんな他愛もない話を、友人達と始める。
「ゲーム。今やってるやつ、展開がアツくて」
「ゲーム!?」
「前にゲーム内のアンケートであったな、何を無人島に持っていくかってやつ。あれ、持ち物『ゲーム』に投票したのおまえか」
「だったらスマホですよ、絶対。ゲームだってできるし、助けもすぐ呼べる」
「スマホ持ってったところでネット繋げなくない?」
「あ、そっか……」
「とりあえず当面の食料」
「ナイフ……か?」
「サバイバルする気満々だね」
「そうだなー……彼女? でも物じゃないしなぁ」
「何言ってるのよ、もう!」
「余所でやれバカップル」
「私はー……」
ふと顔を上げると、好きな人と目が合った。
慌てて首を振る。
「わ、私もナイフかな! でも、チョコレートとかも非常食には良いんだっけ? ならチョコレートを一欠ポケットに忍ばせて、ナイフは普通に持ち物として」
「それは二つじゃん! ズル!」
「あはははは」
本当は、彼女の名を上げる、あのカップルがちょっと羨ましかった。私も、好きな人が一緒なら、きっと他に何もいらないから。
たった一つだけ、君だけがいれば。
『1つだけ』
『大切なもの』というタイトルで、書き続けていた長編の外伝を書いたことがある。
あの頃の小説を読み返してみようとすると、まぁ拙い文章で直視できない。恥ずかしさに、薄目で流し読みしてしまう。
あの頃の自分は、このタイトルでどんな話を書いていたんだろうか。何を伝えたくてこのタイトルにしたんだろうか。内容はたしか、家族を失った少女の話だった気がする。
今の自分なら、このタイトルでどんな話を書くだろうか。
あの頃の自分は、たしかに文章が上手ではなかったかもしれない(今も上手いわけではないが)。しかし、きっと情熱はあった。勢いがあった。自分の書きたいものを書いていた。
今はどうだろうか。整ったものを書きたい。ただ綺麗な文章を。誰かに評価される文章を。そういったことに取り憑かれ、あの頃のような文章は書けないのではないだろうか。きっと、あの頃の方が楽しんで書いていた。
書きたい。自分が楽しいと思えるものを。またあの頃のような情熱を。
書くのに大切なものは、きっとまだ失っていないと信じたい。
『大切なもの』