川柳えむ

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『大切なもの』というタイトルで、書き続けていた長編の外伝を書いたことがある。
 あの頃の小説を読み返してみようとすると、まぁ拙い文章で直視できない。恥ずかしさに、薄目で流し読みしてしまう。
 あの頃の自分は、このタイトルでどんな話を書いていたんだろうか。何を伝えたくてこのタイトルにしたんだろうか。内容はたしか、家族を失った少女の話だった気がする。
 今の自分なら、このタイトルでどんな話を書くだろうか。
 あの頃の自分は、たしかに文章が上手ではなかったかもしれない(今も上手いわけではないが)。しかし、きっと情熱はあった。勢いがあった。自分の書きたいものを書いていた。
 今はどうだろうか。整ったものを書きたい。ただ綺麗な文章を。誰かに評価される文章を。そういったことに取り憑かれ、あの頃のような文章は書けないのではないだろうか。きっと、あの頃の方が楽しんで書いていた。
 書きたい。自分が楽しいと思えるものを。またあの頃のような情熱を。
 書くのに大切なものは、きっとまだ失っていないと信じたい。


『大切なもの』

4/2/2024, 10:46:26 PM