川柳えむ

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 ふざけた友達に手錠をかけられた。
 演劇部の劇で使った小道具だ。
「鍵がないってどういうことよ!?」
「いやー……なくしちゃって……? 昨日まではあったんだけど、たぶん、今日部室の整理をしている時にね?」
 しどろもどろで目を泳がす友達。
 正直、俺は特に困っていなかった。困っていたのは、もう一方の手錠の先に繋がれた幼馴染の女子だった。そう、俺達は一つの手錠で繋がれていた。
「探してよ! こっちはこの状態で、探すのもままならないんだから!」
 怒られて、一生懸命探す友達。
「あなたも怒ってよ!」
 そして、怒りの矛先は俺の方へ。
「えー? 俺は別に困ってないしなー」
「そうよね。あなたはそういう奴だもんね。すぐ私をからかうんだから」
 別にからかっているつもりなどない。事実を言ったまでだ。
 だって、俺はこのままでも構わない。
「み、見つけましたぁ……」
 下校時刻ギリギリまで捜索して、ようやく見つかった。友達はもうへろへろだ。
「ようやく外せる〜」
 鍵を回す。カチャリと小さな音がして、手錠が外れた。
「なーんだ、残念だな」
 笑いながらそんなことを言ってみる。
「何言ってんのよ。ふざけてないで帰るわ、よ……?」
 ガチャンと良い音が響いた。
 お互いの手には先程と同じように手錠がはまっていた。
「な、何やってんの!?」
 彼女が驚いた声を上げる。友達はそんな俺達の様子を目を丸くしながら見ていた。
「残念だって言ったじゃん」
 俺が再び手錠を自分達にはめたのだ。更にそのまま、手錠の鍵を窓の外に投げ捨てた。
「何考えてんの!? どうすんの!」
「おまえ、とうとう狂ったのか?」
 友達にまでそんなことを言われる始末。
 だって、これなら物理的に君と一緒にいられるだろう?
 君となら、ずっと一緒にいられる。これからも、ずっと一緒にいたい。誰よりも、ずっと一緒に。


『誰よりも、ずっと』

4/9/2024, 10:43:12 PM