川柳えむ

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4/10/2024, 10:42:14 PM

 その日はとても晴れていた。
 温かい春の日で、桜は元気良く花を咲かせていた。
 私はその日電車に乗っていた。
 ぼーっと窓の外を眺めながら、視線の先に広がる桜の木々に、春だなぁ……と改めて感じていた。
 電車はトンネルに入った。長い長いトンネルだ。
 窓の外は暗闇で、だからといって特に視線を変えることもなく、ただただぼーっとしていた。
 そして、トンネルを抜けた。その瞬間。
 桜の花びらが視界を覆った。
 まるでカーテンのように、桜の花びらが辺り一面を舞っている。
 驚いている間に、電車は次の駅に到着した。ここでしばらく停車するらしい。本来この駅で長く停車することはないので、何か調整があったんだと思う。
 ホームには止むことなく花びらが降り注いでいて、あまりにも幻想的な光景に、しばし見惚れてしまう。
 カメラを向けてみても、この光景は上手く写らない。私は心にこの光景を焼き付けた。
 あの日ほどの光景には、それ以来出会っていない。もしかしたら夢だったのではないかと疑うくらいの、美しい春の日だった。


『春爛漫』

4/9/2024, 10:43:12 PM

 ふざけた友達に手錠をかけられた。
 演劇部の劇で使った小道具だ。
「鍵がないってどういうことよ!?」
「いやー……なくしちゃって……? 昨日まではあったんだけど、たぶん、今日部室の整理をしている時にね?」
 しどろもどろで目を泳がす友達。
 正直、俺は特に困っていなかった。困っていたのは、もう一方の手錠の先に繋がれた幼馴染の女子だった。そう、俺達は一つの手錠で繋がれていた。
「探してよ! こっちはこの状態で、探すのもままならないんだから!」
 怒られて、一生懸命探す友達。
「あなたも怒ってよ!」
 そして、怒りの矛先は俺の方へ。
「えー? 俺は別に困ってないしなー」
「そうよね。あなたはそういう奴だもんね。すぐ私をからかうんだから」
 別にからかっているつもりなどない。事実を言ったまでだ。
 だって、俺はこのままでも構わない。
「み、見つけましたぁ……」
 下校時刻ギリギリまで捜索して、ようやく見つかった。友達はもうへろへろだ。
「ようやく外せる〜」
 鍵を回す。カチャリと小さな音がして、手錠が外れた。
「なーんだ、残念だな」
 笑いながらそんなことを言ってみる。
「何言ってんのよ。ふざけてないで帰るわ、よ……?」
 ガチャンと良い音が響いた。
 お互いの手には先程と同じように手錠がはまっていた。
「な、何やってんの!?」
 彼女が驚いた声を上げる。友達はそんな俺達の様子を目を丸くしながら見ていた。
「残念だって言ったじゃん」
 俺が再び手錠を自分達にはめたのだ。更にそのまま、手錠の鍵を窓の外に投げ捨てた。
「何考えてんの!? どうすんの!」
「おまえ、とうとう狂ったのか?」
 友達にまでそんなことを言われる始末。
 だって、これなら物理的に君と一緒にいられるだろう?
 君となら、ずっと一緒にいられる。これからも、ずっと一緒にいたい。誰よりも、ずっと一緒に。


『誰よりも、ずっと』

4/9/2024, 6:36:23 AM

 突き抜けるような青空に、白い雲が心地良さそうに漂っている。暖かい風が優しく吹いて、もうすぐ春が来ることを告げている。
 あぁ。なんて素敵な、お別れ日和だろうか。
 今日という日、僕らは別々の道へ旅立つ。それぞれがそれぞれの胸に、様々な想いを抱いて――。

「もう卒業かぁー。早いねぇ」
「そうだね。なんだかあっという間だったな」

 こうやって、教室でみんなとわいわい会話するのももう最後。
 そんなことを考えてしまうと、鼻の奥がツンと痛み、目の端から何か零れ落ちそうになる。
 それを気付かれないように、あえて元気良く振る舞う。

「卒業だしさ、せっかくだから今月中にどこかみんなで集まって、一日遊ぼうよ」
「おー」
「いいねぇ」
「そういやここ行ってみたいと思ってたんだけど」
「みんなで夜タコパしたい」

 そうやって、遊ぶ計画を立てていく。みんなの楽しそうな顔を眺める。

 大切な仲間。楽しい時間。忘れたくない。絶対に、忘れない。
 寂しさはあるけど、大丈夫。だって、お別れしたって、何もかもが終わるわけじゃない。きっとみんなわかっている。こうやって集まって話したり遊んだり、そういったことが簡単にはできなくなってしまうけど。
 この青い空は繋がっていて、その下にみんないるんだ。僕らは違う道を、果てしなく広がる世界を、それぞれに希望を持って旅を続けていく。それでもお互いを思う心はきっと一緒だ。
 これからも、ずっと――。


『これからも、ずっと』

4/8/2024, 7:37:33 AM

「姫は私のだ!」
「いや、俺のものだ!」
 私はこの国のお姫様。
 今、私を取り合って、隣国の王子達が争っている。お城の外でバッタリと二人に出くわし、こうなってしまった。
 わかってる。私が美しいのがいけないんだって。私は間違いなくこの物語のヒロイン!
「私の為に争うのはやめてー!」
 止めに入ってみるが、一向に止む気配はない。
 そして、それはそのうち殴り合いの喧嘩にまで発展してしまった。
 どうしよう……。
 それは結局、二人の気の済むまで行われることになった。
 殴り合いに疲れ、倒れ込む二人。
「はぁ……やるじゃないか、おまえ……」
「そっちこそ……」
 沈んでいく夕日が二人を照らす。
 お互いに支え合い、立ち上がる。夕日を背に、二人は熱い握手を交わした。
「まさかここまでやるとはね……気に入ったよ。どうだ? これから一緒に食事でも」
「いいね。俺もおまえの話を聞いてみたい」
 そして、二人はそのまま夕日に溶けるように、行ってしまった。私を置いて……。
「って、ねぇ! 私がヒロインじゃないの!? どういうことなの!? いつの時代の漫画よ!」

 ハッピーエンド♡

「ハッピーエンドじゃないわよ!」


『沈む夕日』

4/7/2024, 4:10:14 AM

 横顔が美しいなと思った。後ろ姿も、静かに佇むその様子も、どんな仕草でも。
 一目惚れだったんだ。
 だから、君の目をじっと見てみたいと思った。
「ずっと好きでした」
 君の目をじっと見て、そう伝えた。
 君の目を見つめると、動けなくなる。正面から見た君に、その瞳の美しさに、思わず固まってしまう。思っていたより、ずっとずっと綺麗だ。
 たとえこのまま固まって、動けなくなって、死んでしまったとしても、本望だ。
 美しい。僕の愛するメドゥーサ。


『君の目を見つめると』

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