川柳えむ

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3/21/2024, 10:48:55 PM

 僕はふらふらりと宇宙を漂っている。
 そう、僕は惑星。
 この宇宙にはいろんな星がたくさんたくさん散らばっている。
 その中でも僕は珍しいんじゃないだろうか。
 僕らの名前は『JuMBO 24』。
 僕と弟、二人(二星)あわせてそんな名前をしている。
 僕らは他のみんなとは少し違うところがある。
 それは、僕らは誰かの周りを回ったりなんかしない。地球という星は太陽という恒星の周りを回っていると聞いたことがある。つまり、僕らはそういうものではない。誰かに縛られて生きていない。
 自由で、孤独に、宇宙を漂う『自由浮遊惑星』だ。恒星からはぐれてしまった、別名『はぐれ惑星』とも呼ばれている。
 誰かに縛られないのは気楽だ。好き勝手できるし。
 でも宇宙は、暗くて、広くて、たまに寂しくなる。
 そんな時に思い出す。僕と一緒にいる弟のことを。
 他の浮遊惑星ならそうはいかない。あいつらは大体みんな一人ぼっち。二人ぼっちの僕らは特別なんだ。
 もしも、この宇宙の遠く遠くに広がっている全ての星々が消えてしまったって、僕には弟がいる。
 僕らだけの特別。


『二人ぼっち』

3/20/2024, 10:53:54 PM

 小さい頃から兄と比べられてきた。
 天才肌で何でも卒無くこなす兄に比べ、努力してようやく一人前だ。コミュニケーション能力だって持ち合わせている兄、僕も頑張っているが上手く出来ている自信はない。
 僕の一番好きな時間は夜だった。夜というより、夢の中にいる時間が好きだ。
 いつからだったか、夢の中を自由に動けるようになっていた。明晰夢と言うやつだ。元々夢を見るのが好きだったが、それからより楽しくなった。
 夢の中でなら、好き勝手できる。僕も優秀でいられる。兄と同じくらい、いや、超えるくらいに上手くいっている。
 今日も寝る前に薬を飲んだ。早く眠りに就きたいし、なるべく長く眠っていたいから。
 夢の中に好きな人が出てきた。現実の彼女は、兄の恋人だった。
 夢の中では、兄と彼女は付き合っていなかった。むしろ僕と仲が良い。
 気付けば彼女と良い雰囲気になっていて、僕は今だと告白しようとした。
 なのに、そこで目が醒めた。いや、起こされた。よりにもよって、兄が起こしに来た。邪魔をされた。
 あれが夢だと理解っている。だからこそ、せめて夢の中だけでも良い思いをさせてくれたっていいじゃないか。
 僕を起こすと、兄は部屋を出て行った。
 その背中を見送り、再び眠りに就こうとしたが、今度はなかなか眠れない。すっかり目が冴えてしまった。
 なぜ夢の邪魔をするんだ。許せない。現実が、何もかもを邪魔をしてくる。
 薬をたくさん飲んだ。深く眠れるように。
 今度こそは夢が醒める前に伝えたい。夢が醒める前に兄を殺してやりたい。夢が醒める前に、いや、夢の中で、優秀な僕と僕のことが好きな君とずっと一緒にいたい。
 どうか、このまま夢から醒めませんように。


『夢が醒める前に』

3/20/2024, 8:17:28 AM

 たまたまだ。それはたまたま、偶然だっただけで、決して、故意に覗き見しようとしたとかそんなわけではない。断じてない。
 帰ろうと教室を出て玄関まで行ったはいいものの、スマホを机に置いてきたことに気付いて、慌てて戻ってきた。そしたらどうだ。幼馴染の男子が、放課後の教室で、女子に告白されていた。
 え、えぇぇぇぇ!?
 あいつ、告白とかされるの!? でも、そういえばクラスの女子に、あいつが意外とモテている話を聞いたことがある。
 怖い顔をしているが、困っていればすぐ声を掛けたり、誰かと一緒の仕事だとさり気なく大変な方を担当してくれたり、結構、いや、かなり気は利くし、そりゃまぁモテてもおかしくないのかもしれない。
 昔はその顔のせいでよく怯えられていたから、ようやくあいつの良さをわかってくれる人が現れてくれたか。と、嬉しい気持ちになった。私はずっと昔から知ってたけど。
 そう。私はずっと昔から知っていた。私だけが、ずっと。
 扉の裏に隠れて、二人の様子を窺う。
 たまたま教室に戻ってきたらこんな状況になってたから、わざとじゃない。スマホを取りたいだけだ。でも、今取りに行くのは違う気がするから、こうやって陰にいるだけだ。
 あいつは、なんて返すんだろうか。
 なぜかこちらまで心臓が大きく鳴り出した。なんでこんなにうるさいんだろう。聞かれてしまったらどうしよう。
 私がドキドキするところじゃない。もし二人が付き合い出したなら、幸せなことじゃないか。ガサツで取り柄もない私なんかよりずっとお似合いだし。そう、胸が鳴ってるのはきっと、この素敵な瞬間に居合わせてしまったからだ。あいつの良さをわかってくれる人が現れたからだ。そういうことに胸が高鳴っているんだ。きっとそうだ。
「…………ごめん」
 あいつが謝る声が聞こえた。
 え、フるの!?
 今まで女の子に怖がられてたくせに、あんなにかわいい子を!? なんで!?
「好きな奴がいるんだ」
 ……え。なにそれ、初耳なんだけど……。
 胸がズキンと痛んだ。何、これ。
「好きな子って誰か聞いていい?」
 女の子が尋ねる。
 勇気あるな。私なんて、なぜだか聞くのが怖いって思ってしまっているのに。
「……ずっと昔から一緒にいる奴。一番俺のことをわかってくれてるのに、俺の気持ちには全然気付いてくれない奴」
 思わず走り出していた。
 昔からあいつの傍にはずっと私だけがいた。何かあるたび、「おまえのことを一番わかってるのは私だからね!」「そうだな」なんて笑い合っていた。だから、それはつまり――。
 顔が熱い。胸が苦しい。
 心臓が飛び跳ねている。そのまま高くまで飛んでいってしまうんじゃないのかというくらいに。
 でも、さっきと違う胸の高鳴りが、なんだか心地良い。
 この心地良さに、気付いてしまったんだ。自分自身の気持ちに。


『胸が高鳴る』

3/18/2024, 10:53:13 PM

「情けは人の為ならず」
 これは、人に情けをかける――親切にすれば、巡り巡ってその親切が自分に返ってくるという意味。
 小さい頃は勘違いしていた。情けをかけてあげるのはその人の為にならないからやめよう。そんな意味だと思っていた。
 だから、その言葉の本当の意味を知った時、今までしてこなかった親切をたくさんの人にしよう。そう思って、みんなに優しくできる人を目指して、実際に行動に移して生きてきた。
 それがどうだ。
 そうしてみれば、人に騙され、裏切られ、社会の荒波に揉まれ、ぼろぼろだ。
 今の俺には何の財産も残っていない。残っているものといえば、多少周りに俺に懐く人がいるくらい。
 この世は不条理だ。親切は自分に返ってくると聞いていたのに、そんなこと全くないじゃないか。なぜ優しい人が損をしなくてはならないのか。この世は腐っている。
 それならば、この世の不条理をなくすために、悪い人間共々、ぶっ壊してやる。
 次に目指すものが決まった。


『不条理』

3/18/2024, 5:00:33 AM

『あの子海外に行っちゃうって!』
 仲間からメッセージが飛んでくる。それに『知ってるよ』と一言だけ返す。
 続けて、他の人からも同じようなメッセージが飛んできた。
『海外行くってマジ?』
『寂しいね』
『いいの?』
 なんでみんな俺にメッセージを送ってくるんだ。本人に送ればいいじゃないか。あと『いいの?』って何が?

 少し前にそのことは聞いていた。
 一緒に晩ご飯に行っていた時だ。親友である彼女が「海外に行くんだー」と何でもないことのように言った。
「へぇ、いいじゃん。どれくらい?」
「うーん、わかんない。一生……?」
 その返答に椅子から転げ落ちそうになった。
 そんな様子を悟られないように心を落ち着けて、極めて冷静に――
「『一生』って何!?」
 ――冷静にできていたかは置いておく。
 どういうことかと彼女に問い詰める。
「んー。世界を回って、いろんなところでいろんな経験してみたいなって思ったの。だから、どれくらいかわかんない。飽きるまで!」
「そうなんだ……」
 寝耳に水。青天の霹靂。
 少なからず――いや、大いにショックを受けている。そりゃそうだ。親友なんだから。親友が遠くに行ってしまったら寂しい。
「応援してくれるよね?」
 彼女が笑顔で言う。
「もちろん。応援するよ」
 親友だからね――と、なんとか笑って返した。
 そして帰り道。
「お土産買ってくるねー!」
「おー楽しみにしてるわ」
 終始楽しそうな君。
 そんな君に対して「行くな!」なんて言えるはずもない。恋人でもあるまいし、そんな資格はない。
 仮に、もしも君を引き止めたとして、きっと君は行ってしまうだろう。知っている、君はそういう人だって。自分の決めたことは貫き通す、真っ直ぐな人だって。
 前を歩く君の背中を見つめる。
 その背中が、遠くで輝く明かりに滲んで、このまま本当に消えていきそうだ。
 君がくるっとこちらを振り返った。
「え、泣いてんの!?」
「泣かねーよ!」
 そこで初めて気付いた、涙が零れていることに。
 いや違う。これは汗だ。額から流れる汗とかに違いない。まだ冬で寒いけど。
「かわいい奴〜」
 君が俺の頭をわしゃわしゃと力いっぱい撫でる。
「泣かないでよ。死ぬわけじゃないんだから。こっちでもやりたいことあるし、飽きたらすぐまたあなたのところに帰ってくる。そしたらまた一緒に遊ぼ!」
「だから泣いてねーって」
 涙を拭いながら言う。全くもって格好がつかない。
 本当は、笑いながら送り出したい、大切な君を。でも、今はまだ心の整理がつかない。
「じゃあ、次会う時は笑顔で頼むわ」
「おう。任せとけ」
 ぐしゃぐしゃな顔のまま、サムズアップで君を送り出す。
 こうして、君とこの国での最後の日が終わった。

「今日旅立っちゃうんでしょ? 見送り行かなくていいの?」
 仲間にそう聞かれた。
「大丈夫。今はまだ」
 大分整理がついたとはいえ、あの日思わず泣いてしまったことへの恥ずかしさは消えていない。だから、今はまだ会うのは憚られる。それに、仕事もあるし、無理して会いに行くこともない。
 だって、あの日君は言っていた。「すぐまたあなたのところに帰ってくる」と。だからその時まで、ほんの少しの「さよなら」だ。
 次会った時は、絶対に泣かない。約束通り笑顔で迎えるよ。
 そう君を想って空を仰いだ。


『泣かないよ』

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