あめのみ

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9/13/2023, 4:30:00 AM

あの子のことがただ気になる。
それを好きっていうんだよ。そうなの?
好きっていうのは、もっとこう、、、
その後に言葉が続かない。好きってなんだ?
その瞬間にふと頭を過った、初恋の感覚。

晩夏の正午はとても過ごしやすいとはお世辞にも言えない。講義終わり、ランチを並べて束の間の休息だ。
この夏は何もしないで終わったよ。
それな。
部活とバイトで潰されたわ。
他愛もない会話。
気になる人がおんねや。
ほう。
燦々とした日差しから遠ざけられ、心の奥底から少しの熱気がふんふんと。
おれはその人のことがもっと知りたいんよ。秋はそこからや思てる。
何が言いたかったんだろう。自己完結しただろう。自分が一番理解できない、さっきの流れを切ってまですることか。
好きなんな?
かな?いやちゃうやろ。
好きやないん?
好きっていうか、ただ気になってるだけやから。
そうか、それを好き言うんやけどな~
そうなん?
やろ。
わかんねー
これが「好き」なのか?これが「恋」なのか?
分からない。

顔を思い出す。可愛いが、忘れられない、というわけではないし、ずっとその子のことを考えているというわけでもない。ただ、周囲から半分ちゃかされて、そう意識しているようにも思えてくる。

本気で恋をするって、どんな感じなんやろ。
わからん。

あんた、こんな部屋によく居られるね。切るよ?
知らん。もうわからん。リビングにぐでる僕をよそに空調を切る姉。
あつい。気になれば気になるほど、そうではないような気持ちと錯覚を連鎖的に起こしていく。

ぐでんな。起きろえ。
開けっ広げで焼けた肌は、そのたくましさ、羨ましい。
                     あめのみ

8/29/2023, 2:50:25 PM

カーテン側に顔を埋めるようにして佇むテーブルヤシ。電気を点ける気力がなく、レモンサワーをテーブルの上に置いたままソファーで力尽きた私。幸い今日は休日だ。からだを思う存分だらけさせる。

ふと、ヤシが静かに揺れたように感じる。
ヤシは昨日帰りに買った、偶然。思い返してみれば、不思議なものだった昨日。

商店街を行く人の影も東に大きく背伸びをしていた。久々の定時帰りに、ケーキ屋さんで、今日のオリジナルケーキを買って帰るのが小さな楽しみ。
ケーキ屋さんでお手伝いをしているくーちゃんは、小さい頃からの顔なじみだ。今では滅多に会わないが、繁忙期前は帰りに顔を見に行ったものだ。
話しがてらケーキを買う。そんなひとときが何よりの癒やしだった。

久し振り、くーちゃん!
麻智さん!え、すごいお久しぶりですね!
そうなのよ~、もう仕事が立て込んじゃって全然帰れなくて。でも、今日は久々に早めに帰れたからくーちゃんに会いにきたよ!それと、、
今日のおすすめは、このコーヒー風モンブランです!心か落ち着きますよ!今の麻智さんにピッタリじゃないですか?
そうかな、そんなに顔に出てる?
まあ、そうですね。でも、これを食べて元気注入してくださいね!
そうね、そうさせてもらうね。
あ!そういえば、この近くに新しくお花屋さんができたらしいですよ!
お花屋さん?
そうです、なんでもちょっと変わったお花屋さんらしくて。

商店街から少し離れた住宅街にあった。店主は若く、20代後半の好青年に見える。こじんまりとした外見とは裏腹に、店内には様々な草花があちこちから顔を出す。たくさんの花々があるにも関わらず、その香りは喧嘩せずに共存している。
なにかお探しですか?
いえ、ただ気になっただけで。
そうですか、是非店内見ていってください。
そう言って、いつの間にか現れたと思ったその優しい声の主は、溶け込むように草花の中に消えていった。
観葉植物や、一般的な苗木まで、幅広く扱っているようにも見える。
ひと回りしてふとあることに気がついた、その半分が見知ったことのない草花だった。
ところどころ水が引かれており、緑と水とカラフルな光景が見ていて癒やされる。
お客様はそちらの子がよろしいようですね。
そう言って、いつの間にか現れた店主。
見るとわたしの目の前には小ぶりなヤシが置かれていた。たしかにかわいらしい見た目で好みだが。
わたし別に、そういうわけでは、、、
店主の青年は何も言わずただ微笑むだけだった。わたしもつい黙ってしまった。すると、彼は徐ろにその鉢を取り、しばらく見つめると店の奥に引っ込んでいった、戻ってくるとその手には、程よくセットされたヤシが据えられ、ビニール袋の中に収まっていた。
あの~これは?
わたくしからお客様へのささやかなプレゼントです。
店主はにこやかにそう言うと、またどこかに消え去ろうとした。
あ、あの!
とっさにわたしはそう口を開いていた。
どうかなさいましたか?
店主はにこやかにそう言った。
その、わたし、これ別に、、、
わたしの言葉のつまりに感じて、こう話し始めた。
植物は、人の心をうつしとります。憂鬱な空気では植物は弱ります、反対に気分が晴れやかだと生き生きとして、葉や茎もハリツヤやしなやかさが感じられます。
あなたにこれを来店記念にプレゼントいたします。そしてしばらくこの子を生活の彩りとして隅に添えてみてください。次に会う日をお待ちしております。
そう言うとスーッと草花の間に消えていった。

呆気にとられてしまった。軽く夢見心地なまま足取りは変わらず家路についていた。

あの店員さん、不思議な人だったな~
ふと思い出す。植物は心の鏡。ふとヤシをみると少し頭をもたれている。
カーテン開けるか
間から差し込む日の光が徐々に大きくなっていく。
はぁ~、朝かー
そう言いながら、ぐっと背伸びをする。胸が広がり朝の空気が肺を満たしていく。
なんか久しぶりにスッキリしたかも。
酔のさめていく感覚を側に。
気持ちも晴れ、心もこころなしか軽くなっている。
                     あめのみ

8/28/2023, 11:03:21 AM

父さーん、これもう片付けちゃっていい?
おー、ちょっと待ってなー
この街に引っ越してきた今朝。海の見える高台に置かれた一軒家に子供と妻を連れて帰ってきた。ここまでなにかの流れにのせられるようにして辿りついた。
どうした?
これ、何?
あー、それ、父さんの小さい頃の日記帳だな。懐かしいな、こんなとこにあったのか。
なれた革表紙をさすりながら、何気なくその表紙をめくってみる。
途端、目頭があつくなり、じっとしていられなくなる。
いつの間にか遠くのほうに置き去りにされていた記憶が溢れ出てきて、気を抜くと涙がこぼれてしまう。

ちょうど、今の時期、初夏過ぎ、鮮明に蘇る映像を。突如として走馬灯のように駆け抜けていく。

お父さんー、こっち手伝ってよー。
陽太の声で目を覚ます。

懐かしさが残る風景。日記片手にあの頃を辿ってみようと思う。

                     あめのみ

8/26/2023, 2:01:14 PM

まひろと十里君って兄弟みたい。
目は口ほどに、というよりは頬は口ほどに。顔が赤らんでいくのが自分でもわかる。
うれしい。
えー、やめてよ。ウー気持ちわり。
俺だって嫌だよー。
嘘だ。そんなわけない。
ただ、相手からのそういう嫌悪感があることが、僕は知りたくなかった。
僕はゲイか?いや、ストレートだ。
いや、ゲイを嫌っているわけではないし、僕は自分を腐男子だと認めている。世間はメディアが盛んに布教しているように、セクシュアリティの多様性、を狂ったように叫びまくっているが。それでも、そんなのは上辺談話。好き、それだけで通じる世の中ではないのだ。
ある意味、腐男子、というのは逃げなのかもしれない。

この子かわいい、
最初にまひろにあったときに後ろに自然について行ったのも、僕の性的嗜好なのかもしれない。
最初話し時は彼と気が合うのがうれしくて、そして、彼から、僕らは似た者同士だ、と言われたときには無性に嬉しかった記憶がある。
だから、当然のように、喜んでくれるものと、ある意味わかった気になって期待していたのかもしれない。

兄弟みたいな仲で。恋人でなくてもいいから。

兄弟コーデを嫌われた日、向かい合わせの僕と君、その間にあったはずの鏡は、突如として透明な板に様変わりしていた。

                     あめのみ

8/25/2023, 10:40:43 AM

会は終わった。
やるべきことをすべて、出し切れたら、その分だけ達成感も半端なかったんだろう。
次のクラスが歌い始める。
あぁ、あの曲か。
そう思っても拳に力を入れ、肩を縮こめるしか、今できることはない。
金賞はムリだな~、オレがあそこで躓いちゃったからだよな~、はぁ~ごめんな、ホントに
そう言って、上目で合唱を聴く。誰かが、お前のせいじゃない、そう言ってくれることを祈っていたのかもしれない。とにかく、自分のことを認めて、慰めて欲しかったんだろう。

オレに任せなよ、今までずっと金だったんだ。今回もイケるだろ。
盛大なフラグだった。
負い目。感じざるを得ない。
プライドの高い自分にはあまりにも辛い仕打ちだった。

あいつどうしたんだ?
合唱コンよ。でも、あの子の気持ちもわかるわ。友達のお母さんから聞いたんだけど、遠目から見てても、うちの子は一際口を大きく開けて歌ってたんだってね。そのお母さんも、見てて可哀想になったんですって。

どうしてなんだ。何がいけなかった。あそこで躓いたからか。
突っ伏したクッションに顔を埋めて。親の話し声を背にどうしようもない言葉ばかりが脳内を埋め尽くす。
心の鬆が疼いてキューっと苦しくさせていく。

今日はあいつの好きなやつにするか。
父さんの言葉に動いた耳を隠して、僕はまたふてくされた。

                     あめのみ

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