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3/7/2025, 9:37:21 AM

▶124.「風が運ぶもの」
123.「question」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
イレフスト国ナトミ村にて

この村では、オリャンという果樹が多数植えられている。一面のオリャン畑は圧巻であり、観光客が訪れることも多い。
酸味が強すぎて生食用には適さないが、洗濯の補助剤としてイレフスト国内では広く使われている。
村人は熟した実をジャムに加工し食べている。また、観光客向けに瓶詰めとして販売している所もある。

オリャンは柑橘類で天候の変動に強く、一年中花が咲き、また結実する。
洗濯に熟し具合は関係ないため、日持ちがするよう若い実を収穫し、これを国内各地に出荷している。


ここ、ナトミ村で風が運ぶものといえば、もちろんオリャンの香りだ。
爽やかな香りが村全体を包んでいる。

そんな場所に、ある噂話が届いた。

「『シルバーブロンドの男に気をつけろ?』おめ本気で言ってんのか」
「だぁって出荷で行くとこ行くとこ持ち切りなんだもんよ」

話を持ちかけた方はタジタジになりつつも、自分の得た情報を必死に伝えている。

「だからっておめーよォ。シルバーブロンドつったら、前に村来た旅人さんだろ?出処はどこなんだ出処は」
「それがどうも軍が流してるらしんだ」
「それじゃ軍がクロに決まってら。長んとこ行くか」


「また軍か」
「どうします?やっちまいます?」
「おめは何でそう血の気が多いんだっ」
「いてっ!なんだよー血の気が多いのは長だろー!」

「茶番は置いといて、だ。風は我らにとって良いものを運ぶが、時に良くないものも運ぶ。人の業だな」
「茶番で人を叩くなよ」
「とはいえ、とはいえだ」
「聞けよ長」

ナトミ村はオリャンの生産によって規模を大きくしてきた。
国からは町に昇格して高い税金を納めろと言われているが、
何の利益も見い出せないため断り続けている。

(のどかな村だからこそ良いオリャンを作り続けられるというに)

「ま、日頃の鬱憤を晴らすくらいなら」
「長?」
「ちょっとだけだぞ。オリャンの実は作り続けねばならんのだから」
「よしきた、みんなを集めてくるぜ」

3/6/2025, 9:20:36 AM

▶123.「question」
122.「約束」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
「残ってるとこには残ってるもんなんだな」

過去の遺物ってやつがよ。
いや、こいつらにとっては過去じゃねぇんだな。

過去と現在との連続性の不思議に思いを馳せながら、
シブは、今聞いたばかりの話を噛み砕いて考えていた。



花街の女、子猫のところから出発した人形たちは、請け負った配達をこなしつつ、仕入れ屋シブのいる町まで来た。
シブはまだ仕事始めをせずに家で過ごしていたため、簡単に会うことができたのだった。

人形としては、自分の不注意で発生した怪我の修復に付き合わせた上、正体を周りには秘密にするという重荷を背負わせてしまったので、まだ蟠りがあるかもしれないとも考えていたが、

当のシブ本人は、
「おう、久しいな。入れよ」

軽く迎え入れてくれた。


‪✕‬‪✕‬‪✕‬が土産であるサボウム国で購入した香辛料をシブに渡すと、
さらにイレフスト国のナトミ村で購入したオリャンの花びらで作られた押し花の作品を取り出した。
「これは、シブの奥方に。長期保存が可能なため『永遠の花束』という記念品として購入されるらしい」
「あら!まぁ小さくて白い花びらがなんて可憐な花束なんでしょう!私にまで、わざわざありがとうございます」


少々旅の話に花を咲かせたあと。

「クロア、悪いが2人で話したいから外してくれ」
シブが自分の妻に香辛料を渡しながら頼むと、

「ええ、ごゆっくりなさってください。お酒は飲まれますか?」
という質問が返ってきた。
チラッと人形を見たシブは「いや、要らない」と答え、
クロアは、部屋から出ていった。

そして、人形は子猫の時と同じようにナナホシを紹介しつつ、これまでの旅について説明したのであった。

それに対するシブの第一声が冒頭の言葉である。

ちなみにナナホシはシブから要求がなかったため、机の上を自由に歩いている。フチを歩くのがお気に入りらしい。

「お前んとこの博士が、どうしてイレフストんとこの指紋を知っていたのか、生きてたらquestion、質問してみたかったな」
「そうだな。私はあまりにも自分自身のことを知らな過ぎた。とはいえ今更疑問を持ったところで…」

意味はない。本当にそうだろうか?

「そういえば、ナナホシと私は動力に互換性があったのだ」
「動力?ごかんせい?」
「人間で言えば同じ食事を食べていたということだ」
「ああ、なるほどな。じゃあ案外作った人間が同じだったのかもな」
「つまり、博士が?」

人形がハッとしたようにナナホシの方を見る。ナナホシは机からずり落ちそうになっていたので、そっと戻してやった。

「そりゃま、俺の知るところじゃねえがな。偶然にしちゃ出来すぎてるってことだ」

「ナナホシのいた施設は破壊措置を取ったが、資料はデータとしてナナホシと私の中にある。ただ、取り込み中に、ナナホシに関する記述は見つからなかったが」
「そうなんだな。何にしろ、イレフスト国には行かにゃならんのだろ?」
「ああ」

「冬がキツいだけなら、ウチに入れてやっても良かったんだがなぁ。まぁクロアが何と言うか分からんが」
「いや、夫婦だろう?気持ちだけで充分だ」

「まぁなんだ、戦乱やその前のことを調べるのがタブーってわけじゃない。仕事のついでに知り合いに聞いといてやる。たまには確認しに来い」

「ありがとう、シブ。そうさせてもらう」
「ナナホシもな、うまくやれよ」
「ウン、コノ机、歩クノ楽シイ。マタ来ル」

「ところで、今日もらった香辛料だがよ、次も買えるか?もちろん金は払う」

3/5/2025, 9:50:02 AM

▶122.「約束」
121.「ひらり」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
「なぁに?見てほしいって」
「旅の途中で出会ったんだ。ナナホシというメカだ」

虫型なので、驚かないで欲しいが。

そう前置きしながら、‪✕‬‪✕‬‪✕‬は服の中に隠れているナナホシをそっと捕まえる。
されるがままに出てきたナナホシは、人形の手の上で丸まっていた。

「…僕、ナナホシ。自律思考型メカ、ダカラ、本当ノ虫ジャナイヨ」
「そうなのね。ナナホシちゃんって呼んでもいいかしら?」
「イイヨ」
「ありがとう、ナナホシちゃん。そして初めまして。私のことは子猫と呼んでちょうだい。見ての通り人間よ。‪✕‬‪✕‬‪✕‬に、こんなに素敵な仲間ができたのね。嬉しいわぁ」

「ありがとう、子猫」
「ふふ、ねぇナナホシちゃん。私の手の上にも乗ってみない?」

子猫の発言を聞いたナナホシはチラッと触覚を人形の方へ向けてきた。
「大丈夫だ、ナナホシ」
「ウン」

あの施設の時、ナナホシは極度の動力不足に陥っており、熱源を求めてホルツの手の上に乗った。今は、意志もはっきりとした状態で自ら子猫の手の方へ歩いていく。

先に触覚で子猫の手に触れて安全か確かめる。
そうしてから、そろそろと手のひらへと移動していく。

「うふふっ、ちょっとくすぐったいわ」

小さなメダルほどの大きさであるナナホシは、子猫の手の中にあると人形のそれよりも、子猫には大きく見えた。ほっそりとした手が落ち着かないようで、もぞもぞと位置を変えている。

やがて、丁度いいところを見つけて大人しくなった。

「まぁ、なんてかわいいのかしら」
「コネコ、ヒンヤリシテル」
「ちょっと冷え性なの。寒かった?」
「ダイジョウブ。コネコ、‪✕‬‪✕‬‪✕‬ノトモダチ?」
「ええ、そうね。私が小さな子供だった頃、泣いていたら声をかけてくれたの。今の私は自由に外へ出られないから、時々旅の話を聞かせてもらっているのよ」
「ソッカ」
「ねえ?あなたの話、もっと聞きたいわ」
「イイヨ。‪✕‬‪✕‬‪✕‬モ、手伝ッテ」
「分かった」

人形とナナホシは、かいつまんで冬の間の出来事を話していく。
子猫は瞳を輝かせて聞いていたが、終盤のイレフスト国の追っ手がかかった辺りから、真剣な表情に変わっていった。

「何よ、随分無茶なことして。危なかったのね…ナナホシちゃん、体はどう?」
「マダ平気」
「そう…でも、あなたたちは毎年イレフスト国に行かなくちゃいけないのね」
「ああ、そうだ。できるだけサボウム国を通るのは避けたいところだが」
「ノンバレッタ平原を通れればいいけれど、その様子だと軍が見張ってる可能性もあるわね」
「私もそう考えている」

「そう…」

少し考え込む様子を見せた子猫は、やがて首を振った。
「今の私に出来ることは無さそうだわ。フランタ国のお偉いさんに繋ぎを取るまではできそうだけど、イレフスト国やサボウム国との国交は途絶えているから」

「いいんだ、子猫。ありがとう」
「‪✕‬‪✕‬‪✕‬、旅で何かあったの?表情が、んー…なんだか柔らかくなった気がするわ」
「そうなのか?自分では分からないのだが」
「私の気のせいかもしれないわね。あ、そうだわ」

ぱっと思いついたように手を合わせ打ち、部屋の隅にある小さな引き出しへ向かう。
「渡そうと思っていたのがあるのよ。えーと…あったわ」

差し出されたのは、小さな小包。子猫に促され、人形が開けてみると、出てきたのは暖かそうな襟巻きだった。
「また冬に出るのでしょ?持っていって?」
「いいのか?」
「ええ。代わりにまた話を聞かせてちょうだいね?」
「ありがとう。約束する」
「ナナホシちゃんには…ちょっと待っててね」

襟巻きと同布の巾着袋と裁縫道具を取り出し、更に部屋の奥に小部屋となっている衣装たんすを漁り始めた。やがて持ってきたのは、袖口に防寒として付ける毛皮のつけ袖であった。
「これね、以前お客さんに貰ったんだけど。多分一緒に外へ出ましょうってお誘いね。要らないからあげるわ」

子猫は椅子に腰掛け、話しながらも容赦なくハサミを入れる。毛皮は加工するには固いはずだが、苦にした様子はない。

「いつか外に出られたら、‪✕‬‪✕‬‪✕‬のように旅をして、自分の目で見て良いと思った素材で服を作りたいの。もらった布も、自分で仕立てるつもりよ」

針を通し、巾着袋の内側に毛皮を縫い付けていく。

やがて裏起毛の巾着袋が完成した。

「はい、ナナホシちゃんにはこれ。専用の寝袋ってところね。こっち側は毛皮と巾着袋の間に何か入れられるように、縫わないでおいたわ」

「アッタカソウ…!アリガトウ、コネコ」
「ナナホシちゃんも、必ず私のところに会いに来てね。約束よ」

3/4/2025, 9:29:37 AM

▶121.「ひらり」
120.「誰かしら?」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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これまでのあらすじ
舞台は、遠い遠いどこかの大陸。ここに、長き戦乱によって当時の技術を喪いつつも存続している3国があった。
この物語の主人公である人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬は、光と熱を糧に人間のフリをしながら、3国のひとつであるフランタ国内を旅してまわっていた。数十年そうして過ごしていたが、今年の冬は動力節約のため戦乱中の施設があると噂があった山で冬ごもりをすることに決めた。
しかし、たどり着いたのは戦乱中に敵国であったはずの隣国イレフスト国が建てた研究施設であった。人形は施設機器の起動に成功し、ナナホシと名乗る自律思考可能な虫型メカを手に入れる。
その後、施設を出た人形たちはサボウム国、イレフスト国と旅をしていく。イレフスト国ではナナホシを盗んだとして追っ手がかかり逃亡する。なんとかフランタ国へ戻ってきたのであった。






「ココガ花街?」
「いや、もっと奥にある。花街とは芸を売る店が集まった一角を指す。街の名前は別にある」

人形たちは、山を下りたあと街道に入って東の辺境を抜け、首都のすぐ北にある街にやってきた。ここの花街で人形の知り合いである子猫が働いている。子猫が幼少の頃から知り合いであり、‪✕‬‪✕‬‪✕‬が人間ではないことを知っている数少ない人間だ。

「ソッカ。他ヨリ、大キイ街ダネ」
「ああ、首都を姉とするなら、この街は妹にあたる。だから発展していて、モノも人もたくさん流れてくるのだ」
「コレガ‪✕‬‪✕‬‪✕‬ノイタ街…」

人形は旅をするようになってから、この街含め、どこにも家を構えたことはない。だからナナホシの発言は正確には違うのだが、興味深げにヒクヒクと触覚を動かす様子を見た人形は訂正しないでおくことにした。目的を持って何度も通っていたことは間違いない。

時は昼間。花街はまだ眠っている。

「先に配達屋へ行ってもいいか?進路に沿うものがあれば受けたい」
「ウン」

フランタ国における配達は、首都と周りにある妹分にあたる大きな街との間で主にやり取りがされる。だが金を払って内容審査さえ受ければ、国民の誰でも国内に限り配達を依頼することができる。そして遠方への仕事を受けるのは、人形のような旅人や商隊たちだ。

看板に手紙の絵が描かれた配達屋の建物の中に入る。
ドアを開けると、入り込んだ風がひらり、掲示板に貼られた依頼書をめくり上げた。


「ちょうどあったな」
1人つぶやくように発した人形は、依頼書を1枚取り、書物台で請書を記入するとカウンターへ持ち込む。

「これを受けたい」
配達の受け取り主にサインを書いてもらい、実績を示すのに使用する証明カードと共に出せば、
「ありがとうございます」

そもそもの数が少ないため、すぐに荷物が出てきた。

「確かに。必ず届けよう」

ひらり、人形は身を翻して配達屋を後にした。




「これを全部私に?」

その後、市場で外套を春物に買い替えたりなどして夜まで待った人形たちは、
子猫のもとを訪ねた。


ひらりと軽やかに広げられた薄紅色の布は、
サボウム国の新首都で購入した温泉を使った染め物だ。
若草色や他の色のものも並べて置かれ、ここだけ花畑のようだ。

「新調する時期から少し遅れてしまったが」
「ううん、それは大丈夫よ。それより、こんなに綺麗なものを、こんなにたくさん」

まだ来ないまだ来ないってやきもきしていたのに、笑っちゃうわ。

子猫はコロコロと呆れたように笑いながらも、嬉しそうに染布を抱きしめていた。
「これ、サボウム国のものでしょ?ひと冬で行って帰ってこられるなんて、さすがね。無茶なことはしていないかしら?」

「私は大丈夫だ。それより見てほしいことがある」
「あら、何かしら」

3/3/2025, 9:08:12 AM

▶120.「誰かしら?」
119.「芽吹きのとき」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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〜人形たちの知らない物語 小話〜

「冬は雨が降らないから虹も見れないって、とーちゃん言ってたぞ!」
「違うもん!見たもん!」

「じゃあ明日見せてみろよ!」
「いいよ!見せてあげるから!」

これが昨日の私。

「はぁ…なんであんな嘘ついちゃったんだろう…」

膝を抱えてションボリ。

「どうしたんだ?具合が悪いのか?」
「あ、おじさん!帰ってきたの!?」
「そうだよ。それより大丈夫なのか?」

「うん…実はね」

おじさんは、私の幼なじみのお父さんの弟。
人形づくりをしてる家では珍しいけど、旅をしながら色々学んでいるんだって。
時々帰ってきては、私にも優しくしてくれる。

事情を話してみると、おじさんは笑うことも無く話を聞いてくれた。

「ふむ、虹か。瓶詰めに使う、空の瓶はあるか?」
「うん、お母さんに借りれば、あるよ?」

「上手くいくかは分からないが、虹を作ってみよう」



水をいっぱいに入れた瓶を見せると、案の定、

「これが虹?こんなの嘘じゃん」

幼なじみは呆れ顔。

「まぁ、そう言わずに。今日は晴れてる。私は運が良かった」


苦笑しながらもおじさんは私から瓶を受け取り、太陽に透かす。

すると時折、

「あ、虹だ!」

思っていたより、ずっと小さいけど、虹だ。

「すごいな。嘘つきって言って悪かったよ」
「ううん、私も意地張って変な嘘言っちゃった。ごめん」

「2人とも、仲良くするんだぞ」
「ありがとう、おじさん!」

瓶を私の手の中に置いたおじさんは、私と幼なじみの頭を撫でて去っていった。
きっと幼なじみの家に帰るんだろう。

「おい、もっとやってみようぜ!」
「あ、うん!」







雨上がりの空に大きな虹を見つけた。

「わぁ!大きい〜!」

子どもたちにも知らせてあげよう。

私が小さい頃なんて、虹が見られなくておじさんが…

「あれ?」




君と見た虹。
私がおじさんから教えてもらって作った小さな虹。

とびきり大きな思い出のはずなのに。

私は誰と見たんだっけ?
お隣さんの子?

昔住んでた家のお隣は人形づくりしてて、お店もやってて、
私は人形を見るのが大好きで通ってたけど、
でも跡継ぎがいないからって、畳んじゃった。


だから、違う。

でも、そこの子じゃないなら、本当に誰かしら?



____の故郷にいた幼なじみの話。
違う大陸かもっと遠くなのか、細く細く繋がっていたチャンネルが、博士が最期を迎えたことで途切れてしまった瞬間。

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