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2/6/2025, 9:00:48 AM

▶97.「heart to heart」
96.「永遠の花束」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
heart to heart
(訳:率直な、正直な、腹を割った話)


イレフスト国の国境警備を担当する第三隊は、街道の治安維持も担っており、大きく東西南北に分かれて活動している。
技術保全課から報告が出されたF16室の異変。それが人為的に起こされたものだと判明してから第三隊の業務は一気に忙しさを増した。
人形たちが入国した日。南部の詰所では、夕方になって今日の出入国審査の受付業務を終了し、以前なら日誌を提出するだけだったのだが、報告会が行われていた。
「では、出国者の報告から」
「はい、本日の出国者は…

将軍に目をかけてもらえるのは嬉しいが、以前なら審査も緩ければ終業時間も早かったのに。そんな率直な気持ちを抱えて、報告は順調に進んでいく。
入国者の分が終われば帰り支度ができる。
この場にいる者たちの誰もが、そう思っていた。

「入国者のうち、初入国は3名。うち2名は親と共に来た子供でしたが、1人は観光目的の旅人でした。以前はフランタ国にいたそうで、容姿は…あれ?」
「どうした」
「申し訳ありません、顔に大きな特徴がなかったせいか思い出せなくて…シルバーブロンドとでも言うのでしょうか、独特な色だったのは覚えているのですが」

おいおい、嘘だろう?
下っ端たちから、ひそひそと声が上がる。
上司がふぅ、と一息ついた。
発言の雰囲気を感じた者たちから静かになっていく。
「たまたま、という可能性はもちろんある。そして、憶測だけで判断してはいけない。分かるな?」
容姿に特徴がなく記憶に残りにくいということは、
日陰者にとって1つの技能だ。
「私は隊長に報告に行く。半数は各門衛の詰所へ、残りは宿屋に片っ端から聞き込みを始めるんだ」
「「「はっ」」」

翌日。
第三隊南部は、門衛から、特徴の一致する者が東門を出て南東方面の街道を歩いていったという情報を昨夜のうちに得ており、朝から街道の捜索も始めた。さらに街の警らを行う第四隊に要請して街中でも聞き込みを始め、行動を探っている。
「市場は引っかからなかった」
「こっちもだ。どこにも寄らずに街を出たのか?」
「あとは…滞在時間から考えると可能性は低いが洗濯屋も当たってみるか」




「銀と金の間くらいの髪色?あぁ、うちに来ましたよ」
「その客は洗濯に?」
「いいえー、そこのカゴにあるオリャンが気になったってねぇ。初めて見たみたいですよ。ナトミ村で育ててるって話したら満足して帰られましたよ」
「そうか。その人から受けた印象は?率直に聞かせてくれ」
「礼儀正しくて、良い人そうでしたよ?あぁ、でも顔が思い出せないねぇ…優しそうな顔をしてたと思いますけどね」
「それで十分だ、ありがとう」
「ねぇ、その人どうしたんだい?」
「すまないが業務上答えるわけにはいかんのです。では失礼」


(方角も一致。行き先はナトミ村だ)
目的地が絞られている方が捜索もやりやすい。
第四隊に所属する班員は報告のために小走りで班長の元へ向かった。



一方、人形たちは。
宿屋の主人に使用料を払ってタライを借り井戸水を汲んで、洗濯を始めていた。
残りのオリャンを使い切る為である。

南部とはいえ朝は冷えるが、人形にはどうということもない。
できるだけ多く洗濯するため薄着になり、
朝日から動力を取り込みつつ不自然でない程度に体を温める。

「お客さん、盛大にやってるねぇ」
「ああ。このオリャンは良い匂いがするから」
「そりゃ、この村の者としては嬉しいねぇ、干場は好きに使ってくれて構わないよ。昼間も良い天気が続きそうだ。きっとすぐ乾く」
「ありがとう、それはとても助かる」


宿屋の主人が去った後も、ギュッギュッと汚れを落としていく。
人形に体表面の代謝はないが砂埃を吸い込んでいるため、
すぐに水が黒くなっていく。

「ナナホシ、この後だが。ちょっと腹を割って話さないか」
「オ腹?僕ノ割レタラ壊レチャウ」
「そうではなく、隠し事はせず率直に話し合おうということだ」
「人間ノ言葉、難シイ」
「そうだな。で、ひとまずフランタ国まで戻るとして。イレフスト国入りした時の様子が気になっているのだ。妙に緊張していたように感じている」

「何カ探シテイルミタイ」
ナナホシが脚で触覚をひと擦りしながら応える。

「そうだ。だから、すぐに南下してサボウム国へ抜ける方が良いのかと思ってな。そこで気になるのがナナホシ、あなたの体だ。正直なところ、損耗具合はどうなんだ」

「ン…」
人間で例えるなら言いづらいことがあるときに髪を触るように、
ナナホシはしばしの間、触覚を脚で擦っていた。

「良クハナイ。イズレ何ラカノ支障ガ出ル、ト思ウ。サボウム国ニ行ケバ、ソレハ早マッテイク」
「そうか…あの地下施設に、修復できるような設備があるだろうか」
「ドウダロウ」

ナナホシは‪✕‬‪✕‬‪✕‬と違って自己修復機能がない。

「行って調べなければな。今の私では技術不足だが、習得すればいいだけの話だ」
「僕、施設ノアル方向、分カル」
「よし、これを干して、乾いたら出発だ。私たちも日光浴をして過ごそう」

春が近づいてきている。
ぽかぽかとした陽気が、人形たちに降り注いでいた。

2/5/2025, 9:39:10 AM

▶96.「永遠の花束」
95.「やさしくしないで」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
イレフスト国に入国して最初の街で見つけたのは、
洗濯屋のカゴに入ったオリャンの実。

人形たちは店主から聞いたオリャンの名産地であるナトミ村へ向かった。

「ネェ、ドウシテ手ニ入レナカッタノ?」
「さっきの洗濯屋か?」
「ウン」
「なんでだろうな…買うなり譲ってもらうなり、あそこで一つ手に入れることが最適だと、私も考えはしたのだ。だが…」

ナナホシは話を続きを待ったが、人形は伏し目がちに軽く首を振った。

「ソッカ」
「すまないな」
「イイヨ、行コウ」


冬とは言っても少し涼しいくらいの天候で、人形の動力も減りが緩やかだ。
一晩野宿して南東方面に続く街道をさらに歩いていく。

やがて、人形の嗅覚センサーに爽やかな香りが届き始めた。
遠くにたくさんの木々も見える。

「そろそろのようだ」
「ウン」

木々の間を抜けてたどり着いたナトミ村は、聞いていた通り町と呼ぶ方が相応しい規模の大きさであった。
「まずは村の中で、見つからなければオリャン畑で捜そう」
「ソウダネ」

所有者は何人もいるようだが、判明した家で近いところから向かう。
1軒目2軒目は不在だったが、
3軒目は土産物屋もやっていて話をすることができた。

「オリャンは酸味が強い柑橘ですが、冬でも収穫することができます。村では風邪引き防止にジャムにして食べるんですよ。あなたのようなポツポツと来る客のために細々やっております」

瓶に詰められたオリャンのジャムは透き通った黄色で皮も入れられている。

「あの絵のようなものは?」

人形が指さしたのは、額へ平面状に収められた小さく白い花でつくられた花束。
手のひらに乗るほどの小さなサイズだ。

「これは娘が作ったものです。実を大きくするために間引きした花を一つ一つ押し花にして毎年貯めておいたのを、ああして花束に見えるようにしたのです。長期保存が可能なので、「永遠の花束」として記念に買われる方もいますよ」
「永遠の…そうなのか。では、それと瓶詰めを一つずつ、それからオリャンの実を生のまま一つ欲しいのだが」

「毎度ありがとうございます。実は裏の庭のもので良ければすぐに出せますが」
「それで十分だ」

買い求めたものを持って、
人形たちは村に一つだけあった宿屋に泊まることにした。

「マタ、オミヤゲ?」
「買った理由は、店への礼儀みたいなものだ。行き先はナナホシの言う通りだがな」

部屋に入った人形たち。
‪✕‬‪✕‬‪✕‬は瓶詰めと額を丁寧に梱包して背負い袋にしまい、
オリャンの実は、備え付けの机に置いた。

「これは、どうすればいい?中身を取り出す必要があるならナイフを出すが」
「調ベテミル」

ナナホシはオリャンの実に取り付き、
ウロウロ歩き回っては触覚をぺたぺたつんつん触れさせている。
人形は転がらないようにオリャンの実を押さえて待つことにした。

「皮ガ厚クテ、ヨク分カラナイ」
「少し削いでみるか」
人形はポーチから小さなナイフを取り出して、
ヘタを避けて人間で言えば肩先の部分だけ、
果肉が少し露出する程度に皮を削いだ。

そこにナナホシが触覚を触れさせる。
「コレデイイミタイ。食ベテミル」

微かにチュッと音がした。

『自動破壊までの期限がリセットされました。残り、1年です』
「ワァ、僕ジャナイ声ガ出タ」

「オリャンの実だったんだな」
「ン…」
ナナホシは返事もそぞろに脚でしきりに腹を擦っている。

「残りは、洗濯に使ってみるか」
人形も同じところから味見をしてみると、
味覚センサーが見たことの無い数値をたたき出す。
酸味が突き抜けていた。

「ふむ、これは人間にはキツいな」
‪✕‬‪✕‬‪✕‬は何でもない顔で呟いた。

2/4/2025, 8:58:43 AM

▶95.「やさしくしないで」
94.「隠された手紙」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
イレフスト陣営、対フランタ技術局にて
「おお、来おったか」
「助かりましたね、課長」

バタバタと大きくなっていく足音の後に、王宮へ送り出した部下2人と応援だろう軍服8人組が飛び込んできた。

「課長、遅くなりました!」
「局内設備の起動に成功したんですね!」
「わしは何もしとらんがの」

「技術保全課課長とお見受けします、私は第二隊5班の班長ライラ。他に6班が地下通路入口に待機しています 」
「いかにも、わしが技術保全課課長のホルツじゃ。早速じゃが状況説明をするぞ」

聞いている部分もあるかもしれんが、わしも整理したいからの、と前置きしつつ簡潔に今までの状況、目の前で起こったことを説明する。

「では、ホルツ課長はここに収められていたものも持ち去ったとみているのですね」
「うむ、その人物、まぁここの埃が少なくて足跡もよく見えんから単独か複数かも分からんがの。ともかくイレフスト国の技術に詳しい奴の仕業じゃ」

「意図は不明ですが、侵入者であり窃盗の容疑者には変わりありません。しかも、持ち去られたものが兵器である可能性まであります。国境の検問は既に強化されていますが、施設を破壊することも容易であったのに隠蔽工作を行っているということは、ここに戻ってくる可能性も十分にあります。侵入者など優しくしないで良いでしょう。人員を増やすよう進言しましょう」
「うむ、それがよいじゃろ」





読者に優しくしないで作者の書きたいように書いてしまった結果、
人形たちの旅路とイレフスト陣営の動きの時系列が分かりづらくなってしまいました。申し訳ないです…。

整理すると、こんな感じです。

①人形、技術局に着いて早々設備を起動させる。
➡︎イレフスト王宮施設のF16室に起動通知の点滅
(無操作によるスリープ状態だったと思っていただけたら)
気づいた王宮陣営が動き始める。

②用が済んだ人形とナナホシ、動力取り込み装置を覆って強制的に動力切れを起こさせる。
➡︎点滅が消える。技術保全課長一行が技術局に向けて出発

③人形たち、地下通路は避けてフランタ国を南下してサボウム国へ。
➡︎一行の調査により技術局の異変が人為的なものであると確定、王宮にいる軍へ報告。
➡︎報告を受け、将軍が国境警備の強化と技術保全課への応援派遣を決定する。
➡︎動力切れを起こしていた技術局の設備が回復。何かしらの物体(実はナナホシ)が持ち去られていることに気づく。

④王宮陣営が網を張り終わった状態で、人形たちはイレフスト国に入国。

今ココ➡︎さあ、この後どうなる!?

※人形たちの知らない物語群は、80〜90年前くらいの出来事として書いています。
人形たちがいる世界は、人間の平均寿命が現代日本より短く記憶の風化が早い(設定)です。また、戦乱の原因を進みすぎた技術革新のせいと考えた人々の手によって、その技術は後世には伝えられず風化を意図的に促進させています。
となると、知らない物語の主人公____のことは何もわからずに終わってしまうな…と気づいたところから始まった突発的な閑話です。

プロットも無く、
(そんな先のこと考えられない作者の技量不足です)

また、3つの時系列を同時進行させるという、
(お題と、それに対する私の書きたい衝動のせいです)

無茶なことをしているせいです。
重ねてお詫び申し上げます。

2/3/2025, 8:52:32 AM

▶94.「隠された手紙」
▶93.「バイバイ」※加筆修正済みです。
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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〜人形たちの知らない物語〜


____がサボウム国からの仲間と別れてから、10日ほど経った。

「では、今日から私は室長ではなく局長だ。皆も、そう呼んでくれ。多少メンバーが分かれただけで変わり映えしないから、名前だけでも変えないとな」

あちこちから笑いがこぼれる。
ここは、対フランタ技術局。
戦いの中で奪取あるいは鹵獲した兵器はイレフスト国内で解析されていたが、
仕組みは分かっても特に回路に関しては同様の品質を再現出来ずにいた。
その原因に気候の違いがあると考えて山をくり抜き作られたのが、この技術局であった。

イレフスト国とフランタ国の境は山岳地帯となっており、イレフスト国は積雪が多く湿度が高いのに対し、フランタ国は山に遮られ、適度に乾燥しているのだ。
特に吹き下ろしの風が吹く山中や麓に軍事施設があることが調査で分かっている。

その恩恵に、こっそりあずかろうというわけだ。

「外には出られるが、ここは既に敵地であると心得よ」
「はっ」
異口同音に返事の声が聞こえた。
「お、やる気は十分なようだな。よろしく頼むよ、では解散」

ひとまず私室で荷物の整理をしようと、ぞろぞろ引き上げていく。
「____、顔色悪いな。大丈夫か?」
「あ、ああ…緊張して眠れなかったんだ、大丈夫だよ」
「はは、無理もないな。しばらく休めばいい」
「そうさせてもらうよ、ありがとう」

長い共同生活を強いられる技術局では、プライベートを確保するために1人1つずつ私室が与えられている。狭い部屋ではあるが、____にとっては貴重な空間であった。

「緊張、ね…我ながらスラスラと嘘がつけるものだ」

あながち嘘ではない。でも本当ではない。
こっそり『ワルツ』に細工をしていたのだ。
しかも、要ともいえる共鳴石に。
複数の術具や機械を対として認識させるのに必要なのが共鳴石だ。
今回の『ワルツ』は3国の王を一箇所に集めるのに共鳴石の波長を利用している。

チャンスは1度きりで失敗は許されない。
結果が出るのは、来年の冬。
なぜ1年も猶予を置いたのか、あの粘着質な王のことだ。
自分にも相手にも揺さぶりをかけて愉しみたいんだろう。


「もう置いてきたんだ。忘れよう…」
少し、少しの間だけ。そう自分に言い聞かせて、浅い眠りについた。


この最先端ともいえる施設には、王宮からひっきりなしに注文が入った。
____はもちろん局長も、それに応えるために必死であった。


技術開発競走は、いたちごっこも同然だった。出し抜いたと思っても、すぐに追いつかれ、またそれ以上の結果を見せつけてくる。
____たちは、次第に疲弊していった。
瞬く間に一年が過ぎていった。

(この冬で終わる、やっと)

長く続いている戦乱は、年の終わりに差し掛かると休戦して、それぞれの軍は引き上げていく。それぞれの根城に引っ込んだ、そのタイミングを狙って『ワルツ』は発動するのだ。どんな結果であれ、終わる。そのことを望みにかけて____は日々をなんとかこなしていた。


ところがある日、雰囲気の暗くなっていた局内がにわかに活気づいた。しかし、理由を誰も教えてくれない。
(どういうことだ?まさか『ワルツ』の存在が明るみに出たのか)
何日も続くそれに、不安に駆られ、どうしようもなくなった____は、こっそり局長たちの隠し事を暴くことにした。
そこにあったのは…。

「これは、私に…?」
作られていた小さなメカ。そして隠された手紙。

「まさか、誕生日とはな」
覚えられているとは思っていなかった。____は気恥ずかしさから、腹いせにメカへ小さな細工を施した。

「これで良し。みんな、どんな反応をするだろうな」
メカの他国流出を防ぐために付けられた制限、年1回のオリャンの摂取。
その名前を____の故郷の発音に置き換えたのだ。

また会えたら。こっそり隠された手紙に気づいて貰えたら。
その時は、真っ正直に全てを打ち明けよう。

「もし受け入れてもらえたら、故郷の人形づくりを教えたいな」
あの人たちなら、きっと喜んでもらえる。

メカと手紙を元通りに戻し、____は部屋に戻った。

2/2/2025, 9:44:00 AM

▶93.「バイバイ」
92.「旅の途中」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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〜人形たちの知らない物語〜

____が王宮の仕事に就いて幾日も過ぎたある日。

技術開発課F16室に辞令が下った。
それは新しい技術局の立ち上げ。
フランタ国にギリギリ入った所にガワだけ完成したらしい。
今後はメンバーを立ち上げ組と居残り組とに分けて仕事にあたるそうだ。

「長く国から離れることになるが、ついてきてくれるか?もちろん、ここに残っても構わない」

____は、少し考えさせて欲しいと答えた。
そしてサボウム国の仲間、密入国の際荷馬車で引き入れてくれたニーシャとすり変わって先行潜入していたセナに相談しに行ったのだが。


「実は俺たちな、『身支度』の期間がもうすぐ終わるんだ。さすがに素顔で王側のやつに見つかるのはやべーからな。ここでバイバイだ」
「そうなのか?私と同時期に受けたのではないのか」
「時期はな。施術を受ける時間がなかったから簡易版なんだ」
「そうだったのか…」

「俺たちのことよりさ。新参なのに、もうそんなに信頼されているんだな。せっかくの機会じゃないか、行ってこいよ」
「ただ、あんまり入れ込むなよ?あとで辛くなるぞ。お前の『身支度』も、いずれ剥がれるんだからな」
「ああ、そうだな。ありがとう、お前らも無事でな」

「じゃ、俺呼ばれてるから」
「セナ、どこに?」
「前にレプリカ渡した反抗グループだよ」



「これ、やっぱり返す」

呼び出してきたリーダーの手にあったのは、『ワルツ』のレプリカ。
「他人からもらった力でカタつけるのって、何か違う気がして。それでも力が必要な時はあると思うけどさ。でも今は、おれたちはおれたちなりのやり方でがんばるよ」
「そうか、そんじゃこれはバイバイだな」

セナは内ポケットから工具を取り出して、受け取ったレプリカを無理やり開ける。
開封通知が脳内に響くが無視した。

「え?あ、おい!そんなことして…空?」
リーダーが慌てているのをいいことに素早くヘッドロックをかけて引き寄せる。
「いいか、よく聞け」

ーこれは、俺からのリークだ。
○○月○○日に王宮で変事が起こる。その日は絶対近寄るな。

「え?」

雑に解放したせいでよろめくのが視界に入るが、構わず背を向ける。
「死にたくなきゃ覚えとけ。いいな」
「あ、ちょっと」

「じゃあな」

拠点を後にして、歩き出す。
国が違っても路地裏の雰囲気が薄暗いのは変わらない。


「セナ、終わったか」
「来てたのか、ニーシャ。ああ、この通りな」
チラッと『ワルツ』のレプリカの残骸を見せる。
「優しいな」
「ニーシャほどじゃないさ。さて、サボウムまで戻るか」
「おう」



コトン。
王宮に戻ってきた____は、
日陰の倉庫と呼ばれるガラクタ置き場に『ワルツ』のレプリカをそっと隠し置いた。これはレプリカと言ってもセナの持っていたような空っぽではなく、王の作った機構を完全に再現した、いわば贋作である。

サボウム国とイレフスト国、さらにフランタ国の3国で発動すれば、
それぞれの根城にいる王たちは、思考を失って猛る獣と化しお互い潰し合うだろう。
城にいる人たちも巻き添えにして。

(本当にそれでいいのか?)
ぐるぐると思考が回る。

何か、手はないのだろうか。
目標を達成できても更なる悲しみを生むような、
ひどい物語とバイバイできるような、
救いの手が。

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