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▶97.「heart to heart」
96.「永遠の花束」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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heart to heart
(訳:率直な、正直な、腹を割った話)


イレフスト国の国境警備を担当する第三隊は、街道の治安維持も担っており、大きく東西南北に分かれて活動している。
技術保全課から報告が出されたF16室の異変。それが人為的に起こされたものだと判明してから第三隊の業務は一気に忙しさを増した。
人形たちが入国した日。南部の詰所では、夕方になって今日の出入国審査の受付業務を終了し、以前なら日誌を提出するだけだったのだが、報告会が行われていた。
「では、出国者の報告から」
「はい、本日の出国者は…

将軍に目をかけてもらえるのは嬉しいが、以前なら審査も緩ければ終業時間も早かったのに。そんな率直な気持ちを抱えて、報告は順調に進んでいく。
入国者の分が終われば帰り支度ができる。
この場にいる者たちの誰もが、そう思っていた。

「入国者のうち、初入国は3名。うち2名は親と共に来た子供でしたが、1人は観光目的の旅人でした。以前はフランタ国にいたそうで、容姿は…あれ?」
「どうした」
「申し訳ありません、顔に大きな特徴がなかったせいか思い出せなくて…シルバーブロンドとでも言うのでしょうか、独特な色だったのは覚えているのですが」

おいおい、嘘だろう?
下っ端たちから、ひそひそと声が上がる。
上司がふぅ、と一息ついた。
発言の雰囲気を感じた者たちから静かになっていく。
「たまたま、という可能性はもちろんある。そして、憶測だけで判断してはいけない。分かるな?」
容姿に特徴がなく記憶に残りにくいということは、
日陰者にとって1つの技能だ。
「私は隊長に報告に行く。半数は各門衛の詰所へ、残りは宿屋に片っ端から聞き込みを始めるんだ」
「「「はっ」」」

翌日。
第三隊南部は、門衛から、特徴の一致する者が東門を出て南東方面の街道を歩いていったという情報を昨夜のうちに得ており、朝から街道の捜索も始めた。さらに街の警らを行う第四隊に要請して街中でも聞き込みを始め、行動を探っている。
「市場は引っかからなかった」
「こっちもだ。どこにも寄らずに街を出たのか?」
「あとは…滞在時間から考えると可能性は低いが洗濯屋も当たってみるか」




「銀と金の間くらいの髪色?あぁ、うちに来ましたよ」
「その客は洗濯に?」
「いいえー、そこのカゴにあるオリャンが気になったってねぇ。初めて見たみたいですよ。ナトミ村で育ててるって話したら満足して帰られましたよ」
「そうか。その人から受けた印象は?率直に聞かせてくれ」
「礼儀正しくて、良い人そうでしたよ?あぁ、でも顔が思い出せないねぇ…優しそうな顔をしてたと思いますけどね」
「それで十分だ、ありがとう」
「ねぇ、その人どうしたんだい?」
「すまないが業務上答えるわけにはいかんのです。では失礼」


(方角も一致。行き先はナトミ村だ)
目的地が絞られている方が捜索もやりやすい。
第四隊に所属する班員は報告のために小走りで班長の元へ向かった。



一方、人形たちは。
宿屋の主人に使用料を払ってタライを借り井戸水を汲んで、洗濯を始めていた。
残りのオリャンを使い切る為である。

南部とはいえ朝は冷えるが、人形にはどうということもない。
できるだけ多く洗濯するため薄着になり、
朝日から動力を取り込みつつ不自然でない程度に体を温める。

「お客さん、盛大にやってるねぇ」
「ああ。このオリャンは良い匂いがするから」
「そりゃ、この村の者としては嬉しいねぇ、干場は好きに使ってくれて構わないよ。昼間も良い天気が続きそうだ。きっとすぐ乾く」
「ありがとう、それはとても助かる」


宿屋の主人が去った後も、ギュッギュッと汚れを落としていく。
人形に体表面の代謝はないが砂埃を吸い込んでいるため、
すぐに水が黒くなっていく。

「ナナホシ、この後だが。ちょっと腹を割って話さないか」
「オ腹?僕ノ割レタラ壊レチャウ」
「そうではなく、隠し事はせず率直に話し合おうということだ」
「人間ノ言葉、難シイ」
「そうだな。で、ひとまずフランタ国まで戻るとして。イレフスト国入りした時の様子が気になっているのだ。妙に緊張していたように感じている」

「何カ探シテイルミタイ」
ナナホシが脚で触覚をひと擦りしながら応える。

「そうだ。だから、すぐに南下してサボウム国へ抜ける方が良いのかと思ってな。そこで気になるのがナナホシ、あなたの体だ。正直なところ、損耗具合はどうなんだ」

「ン…」
人間で例えるなら言いづらいことがあるときに髪を触るように、
ナナホシはしばしの間、触覚を脚で擦っていた。

「良クハナイ。イズレ何ラカノ支障ガ出ル、ト思ウ。サボウム国ニ行ケバ、ソレハ早マッテイク」
「そうか…あの地下施設に、修復できるような設備があるだろうか」
「ドウダロウ」

ナナホシは‪✕‬‪✕‬‪✕‬と違って自己修復機能がない。

「行って調べなければな。今の私では技術不足だが、習得すればいいだけの話だ」
「僕、施設ノアル方向、分カル」
「よし、これを干して、乾いたら出発だ。私たちも日光浴をして過ごそう」

春が近づいてきている。
ぽかぽかとした陽気が、人形たちに降り注いでいた。

2/6/2025, 9:00:48 AM