▶96.「永遠の花束」
95.「やさしくしないで」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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イレフスト国に入国して最初の街で見つけたのは、
洗濯屋のカゴに入ったオリャンの実。
人形たちは店主から聞いたオリャンの名産地であるナトミ村へ向かった。
「ネェ、ドウシテ手ニ入レナカッタノ?」
「さっきの洗濯屋か?」
「ウン」
「なんでだろうな…買うなり譲ってもらうなり、あそこで一つ手に入れることが最適だと、私も考えはしたのだ。だが…」
ナナホシは話を続きを待ったが、人形は伏し目がちに軽く首を振った。
「ソッカ」
「すまないな」
「イイヨ、行コウ」
冬とは言っても少し涼しいくらいの天候で、人形の動力も減りが緩やかだ。
一晩野宿して南東方面に続く街道をさらに歩いていく。
やがて、人形の嗅覚センサーに爽やかな香りが届き始めた。
遠くにたくさんの木々も見える。
「そろそろのようだ」
「ウン」
木々の間を抜けてたどり着いたナトミ村は、聞いていた通り町と呼ぶ方が相応しい規模の大きさであった。
「まずは村の中で、見つからなければオリャン畑で捜そう」
「ソウダネ」
所有者は何人もいるようだが、判明した家で近いところから向かう。
1軒目2軒目は不在だったが、
3軒目は土産物屋もやっていて話をすることができた。
「オリャンは酸味が強い柑橘ですが、冬でも収穫することができます。村では風邪引き防止にジャムにして食べるんですよ。あなたのようなポツポツと来る客のために細々やっております」
瓶に詰められたオリャンのジャムは透き通った黄色で皮も入れられている。
「あの絵のようなものは?」
人形が指さしたのは、額へ平面状に収められた小さく白い花でつくられた花束。
手のひらに乗るほどの小さなサイズだ。
「これは娘が作ったものです。実を大きくするために間引きした花を一つ一つ押し花にして毎年貯めておいたのを、ああして花束に見えるようにしたのです。長期保存が可能なので、「永遠の花束」として記念に買われる方もいますよ」
「永遠の…そうなのか。では、それと瓶詰めを一つずつ、それからオリャンの実を生のまま一つ欲しいのだが」
「毎度ありがとうございます。実は裏の庭のもので良ければすぐに出せますが」
「それで十分だ」
買い求めたものを持って、
人形たちは村に一つだけあった宿屋に泊まることにした。
「マタ、オミヤゲ?」
「買った理由は、店への礼儀みたいなものだ。行き先はナナホシの言う通りだがな」
部屋に入った人形たち。
✕✕✕は瓶詰めと額を丁寧に梱包して背負い袋にしまい、
オリャンの実は、備え付けの机に置いた。
「これは、どうすればいい?中身を取り出す必要があるならナイフを出すが」
「調ベテミル」
ナナホシはオリャンの実に取り付き、
ウロウロ歩き回っては触覚をぺたぺたつんつん触れさせている。
人形は転がらないようにオリャンの実を押さえて待つことにした。
「皮ガ厚クテ、ヨク分カラナイ」
「少し削いでみるか」
人形はポーチから小さなナイフを取り出して、
ヘタを避けて人間で言えば肩先の部分だけ、
果肉が少し露出する程度に皮を削いだ。
そこにナナホシが触覚を触れさせる。
「コレデイイミタイ。食ベテミル」
微かにチュッと音がした。
『自動破壊までの期限がリセットされました。残り、1年です』
「ワァ、僕ジャナイ声ガ出タ」
「オリャンの実だったんだな」
「ン…」
ナナホシは返事もそぞろに脚でしきりに腹を擦っている。
「残りは、洗濯に使ってみるか」
人形も同じところから味見をしてみると、
味覚センサーが見たことの無い数値をたたき出す。
酸味が突き抜けていた。
「ふむ、これは人間にはキツいな」
✕✕✕は何でもない顔で呟いた。
2/5/2025, 9:39:10 AM