▶74.「まだ見ぬ景色」
73.「あの夢のつづきを」
:
66.「冬晴れ」※更新しました。
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
---
人形たちは温泉のあった村から離れ、
サボウム国で昔、王城があったらしい場所に向かっている。
単純に今の首都より、そちらの方が近いので、先に調べる予定となっている。
「ナナホシ、損傷具合はどうだ」
「皮膚ガ、ホドケカケテ弱ッテル。今日ハ、早ク休ンダ方ガイイ」
「やはりか…どこか見つかればいいが」
次の村でも温泉に出くわす可能性があるとして、
人形たちは道を逸れることにした。
時たまナナホシが触覚で風を見て、それを頼りに濃度の低い方へ行くと、
小さいが森を見つけることができた。
少し奥に入り、木登りして太い枝の上に身を伏せた。
「国を超えると、こうも変わるのだな」
「イレフスト国ニモ、温泉ナイ」
「サボウム国の特徴なのか…それとも」
イレフスト国にも、まだ見ぬ景色がある。
「イレフスト国にも、行かなければな」
「みかん」
「そう、その…うむ。柑橘類という話だったな」
フランタ国から遠くに行けば行くほど、それは増えるだろう。
「こうして旅を続けたら、博士の国にも辿り着けるだろうか」
「手ガカリ、ススキ」
「博士から聞いていた特徴に当てはまる植物は見当たらなかったな…」
「✕✕✕、眠イ?」
「ああ、そろそろ意識が落ちる…では、明日」
人形は翌朝までの予定で休止形態に入った。
「オヤスミ、✕✕✕」
ナナホシも手袋の中に潜り込んだ。
▶73.「あの夢のつづきを」
72.「あたたかいね」
:
▶65.「幸せとは」※更新しました。
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
---
〜人形たちの知らない物語〜
____が王城から離れ、いくつか町を過ぎた、とある夜。
宿屋の一室に、誰かが一人忍び込んできた。
「遅いぞ」
「悪い。尾行されていないか確認するのに手間取った」
大した驚きもないのは、その誰かを待っていたから。
入ってきた男は、今の____とほぼ同じ容姿をしていた。
「そりゃ明日は我が身だな。間に合ってくれて助かった」
「おう。それでな、やはり外側だけのレプリカがやっとだった。代わりに2つ仕上がった。確認してくれ」
男が取り出したのは、王城を出る際に渡された『ワルツ』、ただし見た目だけのレプリカだ。
「上出来だな。あと一つは」
「手筈通り、仲間に預けてある」
「すまないな。もっと私に技量があれば本物を持たせてやれたのに」
「それを言うなよ。大丈夫だ、お前か王ほどでもなければ見破れないさ」
「今の私たちのようにな」
「そういうことだ。技術棟への手引きも王城から2つ前の町に準備できている」
王自ら作り出した強力催眠機器『ワルツ』。
これを複製し、サボウム国王城に仕込む。
王の計画ではイレフスト国とフランタ国の首脳陣に催眠を掛ける予定であるが、
サボウム国も巻き込み、戦乱を望む奴らを一網打尽にする。
これが____たちの計画だ。
戦乱や政治に使われるのは嫌だ。
ただ己の技術を磨き、熱く語り合っていた頃に戻りたい。
そういう仲間の集まりだ。
____は、それに賛同する形で共に行動している。
「いつか、あの夢のつづきを」
「ああ。あの夢のつづきを」
忍び込んできた方が宿に留まり、
____は、入ってきたルートを辿って外に出て、
仲間と合流するため町に向かった。
▶72.「あたたかいね」
〈前話までの投稿案については時間のある時に更新します〉
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
---
サボウム国に入ってしばらくすると、
人形とナナホシはそれぞれ別の変化に気づいた。
「アタタカイネ」
「木が減った」
人形は防寒具を減らし外套を緩め、
ナナホシは触覚を動かしながら日光浴をしている。
「この変化は気候によるものなのか?」
「風ノ成分モ、フランタ国トハ違ウ。分カラナイケド別ノ原因ト考エタ方ガイイ」
「そうか。風は、受け続けると私たちの体に支障があるものなのか?」
「長期的ニ浴ビルト良クナイ。✕✕✕ハ修復デキル、問題ナイ」
「分かった。ナナホシは手袋に入っていた方がいい」
「ワーイ」
歩いていると、温かさの原因が人形の目に見えてきた。
寄ってみると池のようだが、湯気が立っている。
人形が周辺の地面を触ると、高い温度を検知した。
「これが原因で間違いないだろう」
手袋の中からくぐもった声で返答があった。
「ウン。風ノ成分トモ一致シタ。濃度ガ高イカラ、離レテ」
池から離れ、元の進路、すなわち首都方面へ歩き出す。
「このまま首都方面へ向かいつつ、この辺りの地理について聞いてみたいのだが、どうだろう」
「僕モ気ニナル。ソレデイコウ」
熱い池から離れるほど気温は下がっていくが、フランタ国ほどではない。
天候も悪くなく、人形にとっては良い気候といえる。
やがて小さな村に着き、さっそく村人に話しかけた。
「すまない、旅の者だが。来る途中に見た熱い池について尋ねたい」
「はぁ、お若いの。サボウム国は初めてかぁ。ありゃ、この国では珍しくも何ともねぇんだ。どこにでも湧いてるだよ」
「そうなのか。昔からあるのか?」
「いんやー、あの戦乱の後からだぁ。あっこから吹く風のせいでな、お偉いさんの建てたもんが、みぃーんな壊れちまったってよぉ、いい気味だヒッヒ」
村人は興に乗ってきたのか喋り続ける。
「オラのじーさんとそのまたじーさんは、お偉いさんに連れてかれちまったんだってよー!父ちゃんがいつも言うんだぁ、元の顔も分がんねぇほど変わり果てた姿で帰ってきたってよぉ…」
「お前さん、あっちから来たんだろ?」
急に調子が変わった村人があっち、と指差す方を軽く振り返りつつ、
人形は、そうだと肯定を返した。
「こっちぃ来い。オラの話聞いてくれた礼だぁ」
人形がついて行くと、来る前と同じように湯気の立つ池があった。
「これは…」
何かと尋ねようと村人に顔を向けると服を脱ぎ始めている。
「お前さんも入れ、気持ちいいぞー」
「ああ…」
自身の防水性能が高いことは知っているし、
汚れを落とすのに水浴びもしたことがある。
しかし、『これ』は経験がない。
外套を脱ぐフリをしつつ、ナナホシに小さく声をかける。
「ナナホシ、大丈夫か?」
「サッキヨリ濃度ガ低イ。水ガ混ザッテル可能性アリ。短時間ナラ、✕✕✕ハ耐エラレル」
「ありがとう」
あとは博士を、信じよう。
人形は村人に倣うことにした。
村人に続き、そっと熱い池に入る。
その温度は人間の体温より高い。
温度センサーがかつてないほどに反応している。
「は〜〜気持ちよかぁ。これはオラたちが、温泉って呼んでるもんだ。地下で色々あってな、それが湧き出してるんだぁ。場所によっちゃ、こうして入れるのもあるってぇわけよ。しかしお前さん、根性のある旅人さんだぁなぁ…村のモンでも熱がる湯だぞ?」
「旅をしていると、様々な困難がある。耐えるのは慣れているんだ」
「ハッハ!そういうもんかぁ…」
じっと湯に、温泉に入り、体の変化を注視する。小さな気泡が出てきたのを確認し、人形は村人に声をかけ出た。
衣服を元の通りに身につけつつナナホシを袖口から忍ばせる。
「ここの濃度と成分、それから私が入っていた時間、体の変化をデータに取っておいてくれ」
「アッタカ…分カッタ」
「では、ご老人。私はこれにて失礼する。話をありがとう」
「おうおう、気ぃつけてなぁ」
▶71.「未来への鍵」
70.「星のかけら」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
---
どの国も、最初は平和だった。
国民は働き者で実りも良かった。
のんびりと発展していけばいい、そんな長閑な雰囲気があった。
技術者たちが好きにできていたのは、そのせいかもしれない。
人間の友が欲しかったフランタ国の技術者は自ら考える機械を作り出した。
イレフスト国の技術者は勤勉家で様々な不思議に挑み、やがて技術の転用と小型化を得意とするようになった。
サボウム国の技術者は人体の限界を押し上げることに夢中だった。それは体に手を加える技術、心に影響を及ぼす技術へと発展していった。
しかし、純粋だったはずの向上心は、人の闇に呑まれた。
それは野心を生み出し、野心は疑心を生み、
そして戦乱へと進んでいった。
〜人形たちの知らない物語〜
サボウム国王城、裏口にて
「これが、『ワルツ』か」
「そうだ」
____が出発する間際になって、やっと渡された手のひら大の機械。
禍々しい紋様が彫られている。しかし宝石のようなものが散りばめられているので、出処さえ知らなければ美しい宝物に見えなくもない。
王に呼び出された後、身支度と称した人体改造により、____の見た目はイレフスト人に多い容姿になっている。特に指紋の変わりようは見事という他ない。
「効果は?」
「知る必要はない、との仰せだ。お前はイレフスト国の王城に行き、見つからぬ場所に置くなり埋めるなりすれば、それでいい」
「そうか」
「では、あー…」
と、ここまで居丈高に話していた方が姿勢を崩し、
チラチラと周りを窺い始めた。
「こら、近くにはいない。大丈夫だから」
それを見て____は小声で、暗に姿勢を崩すなと注意を促す。
「そうか。『それ』な、一定条件を満たした者に強い催眠を掛ける効果があるらしい。いけるか?」
「おや、私を見くびってもらっては困るね。そっちこそ、すり替え。しくじるなよ」
「おう。コホン…では行け」
____は城に背を向け歩き出した。
「これが未来への鍵、ね…」
知らず、皮肉げな笑みが浮かんだ。
あの国王にはバラ色の未来しか見えてないんだろうな。
だが、悪いな。
私たちの未来への鍵として使わせてもらう。
▶70.「星のかけら」
69.「Ring Ring ...」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
---
人形とナナホシは合流を果たし、
フランタ国とサボウム国の国境付近にたどり着いた。
同時にそこは、イレフスト国との国境地帯でもある。
しかし、この地域には、見張りも住む人もいない。
ただ荒れ果て自然に飲み込まれた姿があるだけである。
これには、当時の戦乱によって賛成派が一掃されたことが理由にある。
特に得るものなくただ巻き込まれた形となった国民たちの中には、戦乱に嫌気が差した者も多く、
王の権威も奪われはしなかったものの、かなり下がった。
それは、子孫に引き継がれ、現在も風潮として続いている。
3国共に、そのような状況なので、
一種の空白地帯となっているのだった。
人形とナナホシは、
関所に様子を見に行くか、
このまま人目につかぬよう入国するかと話し合いながら、
戦乱末期に大きな戦いがあったらしい辺りを探索していた。
すると、人形が黒くゴツゴツした石を見つけ拾い上げた。
「ソレ、星ノカケラ」
「星のかけら?」
「夜空ニ光ル星ジャナイ。流レテ消エル星ノ方。空気ト擦レテ燃エテ、殆ド燃エ尽キル。タマニ燃エ残ッテ落チテクル」
ナナホシは人形の肩から腕を伝って、
人形が手に持つ星のかけらを触覚でつついている。
「持ッテイコウ。僕ノ材料ガ入ッテル」
「そうか」
「関所、ドウスル?」
「無理に探す必要もないだろう。街に入る時に聞かれたら迷って分からなかったと答えればいい」
「ソウダネ」