崩壊するまで設定足し算

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1/7/2025, 7:02:29 AM

▶67.「君と一緒に」
66.「冬晴れ」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---

それは人形たちの知らない物語


とある部屋の中。
豪奢な椅子に座る男が、
その前に跪いている男に向かって話し始めた。


「さて、____よ。私はねぇ、君と一緒にワルツを踊りたくなったんだよ。誘いを受けてくれるかね?」

「はい」

「従順なのは良い事だなぁ。イレフストとフランタにも参加してもらうつもりだ。ま、最後まで立っているのは私だがね。君は」


この仕事が最後だ。

言われた____は、体も心も固くして反応を見せないようにした。

「従順すぎるのもつまらんのぅ。まぁよい、出発は半月後。この国には戻らぬつもりで一切を処理せよ。支度の者が迎えに来る。そのまま待っておれ」

椅子に座っていた男は、やがて去っていった。
残された方は、迎えのものに腕を取られるまで跪いていた。

1/6/2025, 7:51:20 AM

▶66.「冬晴れ」
65.「幸せとは」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
人形とナナホシは、あれからも何度か似たような問答を、
思考学習のようなものを繰り返しながら南へ、南へと向かっていた。

人と会うことを目的にしなければ、
疲れることを知らない人形たちの移動速度はぐんと上がる。


何日か経った冬晴れの朝。

人形が日光浴をしていると、大きな鳥が飛んで行くのが見えた。

人間たちは、鳥が空を自由に飛んでいると考えたり、
自由の象徴のように扱ったりしている。

風に乗っているのだろう、
山をも超えるような高さで翼を広げたまま進んでいく。

実際は、数々の制限を乗り越えて飛行を実現している。
骨を変え消化機能すら落として身体を軽くし、
羽ばたきに必要な筋肉を付け、
その矛盾を解消するために高いエネルギーを欲する。

かつて人形は、自分と鳥が似ていると思ったことがある。

だが今は、小さくなっていく鳥の姿を見ながら、
花街の子猫を思い出していた。

自由に希望を持つ人間。

「あれは、春を待っているだろうな」
「ドウシタノ?」
「いや、何でもない。待たせたな、出発しよう」

1/5/2025, 9:57:41 AM

▶65.「幸せとは」
64.「日の出」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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‪✕‬‪✕‬‪✕‬とナナホシは翌日のサボウム国への出発に備え、
自身のメンテナンスをしながら、太陽の位置変化を見たり、
とるべき進路について話したりしている。

「旅の中で、イレフスト国とフランタ国、それとサボウム国の位置関係は、
両目と口になぞらえて説明される事が多い」

人形は背負い袋の中を整理しながら、ナナホシは知ってるかもしれないがと前置きしつつ、話し始めた。

「イレフスト国が左目でフランタ国が右目、間には鼻のように山岳地帯が続く。
それらの南、顔で言えば口にあたる位置に、サボウム国が小さく弧を描くように存在している」

「ウン。僕ノ知ッテル通リダ」

ナナホシは脚を器用に動かして体のあちこちを触っている。
時々ぐいぐい引っぱっている。
ナナホシは元々主人となる一人の人間の寿命だけ活動する前提で設計されている。また創作者も異なり、人形と違って自己修復機能は備わっていない。


「戦乱以前は3国の首都はお互い近いところにあり、交流も活発だったらしいが、
現在はそれぞれから離れるように遷移され、国レベルの交流は途絶えているようだ。…どこか引っかかるのか?」

「問題ナイ」
「そうか」

夜は星の位置を確認しながら動力確保に努め、
翌日予定通りに出発した。

まずは下山し、その後は南へ向かって山沿いに進み、
サボウム国の中央に出る予定である。


人形はナナホシを定位置のひとつである肩に乗せて、進んでいく。
無言の時間が続いたあと、ナナホシが話しかけてきた。

「ネェ、何カ話ソウ」
「何か、というからには、この旅路以外のことなんだろうな」
「ソウ」
「では、人間の自由について、でいいか」
「イイヨ」

「私は、フランタ国のみではあるが、色々な人間を見てきた。過ごしてきた時間も一人ひとり違ければ、好むものも違った。だから人間にとっての自由が何であるか、私には分からないんだ。ナナホシは分かるか?」

「幸セ」
「幸せ……幸せとは何だ?」

「オキシトシン、ドーパミン、他ニモ色々。人間ノ体内デ作ラレル成分」
「そうか…それは私には無いものだな。ナナホシはあるのか?」

「僕ハ、人間ノ友トシテ作ラレタ。
世話ガ楽シクナルヨウニ、擬似的ナ機能ガ付イテル」

「確かにプレゼントだったものな。どういう時に幸せを感じる?」
「アッタカイ時」

「なるほど…結局、人間全体で考えるのは無理があるのだろうな。一人ひとりの違いが大きすぎる」
「博士ハ?」
「博士にとっての自由、幸せとは…か」

人形は、目覚めてからの一年半程度の博士と過した日々を、
特に博士の表情や声音について、思考領域の一部で検索していく。

「分からないな。嘘は言っていないのだと思う。ただ他の人間と比べて、思慕や望みといったものがひどく読み取りづらい」

「博士ハ、不思議ナ人ダネ」
「そうだな」

1/4/2025, 6:46:33 AM

▶64.「日の出」
63.「今年の抱負」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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日の出を堪能し終えた人形は、
ほら穴の入り口から奥の焚き火の跡まで戻り、

「情報を整理しよう」

頭ひとつ振り、そう言って座った。
出るはずのないもの、感じるはずのないものを消し払うように。
ナナホシは飛び立ち、人形の肩に止まった。

「まずナナホシ、動力は」
「ンー、モウ少シ欲シイ」
「分かった。火を起こす」

火起こしは人形にとって何年も何回も繰り返しやってきた行為だ。
てきぱきと進んでいく。

「私たちの知らない情報は」
「博士ノ素性、‪✕‬‪✕‬‪✕‬ヲ作ッタ動機」
「それから、ナナホシが目覚めるはずだった80年前から、私が目覚めるまでの間の国の動き。大きくはこの二つ。では、どこから調べるか」

「研究施設ノ地下通路ハ?」
「あそこはイレフスト国と繋がっている、ということだったな。ただ、出た先の情報が何も無い。そのことによるリスクは大きい」

「火、アッタカイ…フランタ国ノ首都」
「そもそも人から隠れるために、ここに来たんだが…となると」

「戦乱デ、モウヒトツノ相手ダッタ、サボウム国」
「ここからだと、かなり南に行かなければならないが。南は基本的に温暖だ。丁度いい」

ぴょん、とナナホシが人形の肩から飛び降り、
より火に近いところに位置どった。

「サボウム国、情報少ナイ」
「研究施設にも殆ど資料が無かったな…ひとまず国境付近まで行って入国できるか調べることにしよう」

「イツ行ク?」
「明日の出発にしよう。今日はメンテナンスに徹する」

1/3/2025, 9:46:27 AM

▶63.「今年の抱負」
62.「新年」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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「これから…」
‪✕‬‪✕‬‪✕‬にしては珍しく、途方に暮れたような声が出た。

ナナホシは聞いているのかいないのか、
脚を使って体の手入れに勤しんでいる。

今まで旅をしながら、ほどほどの距離感で人間を観察してきた。
ただただ、データを集めてきた。

博士の遺した問い『人間とは何か、自由とは何か』に答えるために。

だが、その答えを受け取るべき博士は、旅立つ前に死んでいる。
そのことに、今ここで向き合わなくてはいけない。
人形は、そう感じていた。


なぜ、博士は人形に託したのだろう。
穴あきばかりで中途半端な記憶を残したのだろう。


「どうして、先に死ぬと分かっていて、」

人形は一度言葉を詰まらせたが、抑えられぬというように続けた。
「私を目覚めさせたのだろう…」

発する声がだんだん小さくなっていくと共に、目線も下がっていく。


「探ソウヨ」
その先には、いつの間にやら手入れを終えたナナホシが、
ごく小さな眼を人形に向けていた。

「イレフスト国デハ、新年ニ目標、立テル」
「ああ、それならフランタ国にもある」

「ドウセ僕タチ、先ガ長イ。少シ、自分ノタメニ寄リ道シヨウ」
「寄り道…」
「ソウ、寄リ道。博士ノ痕跡ヲ、探シニ行コウ」


博士の、痕跡。
あの人は、意味のないものを残すだろうか。
否、そんなことはしないはずだ。

では、本当は何を残したかったのだろう。


‪✕‬‪✕‬‪✕‬が膝をついて手を差し伸べれば、
ナナホシはすぐに乗ってきた。

「一緒に探してくれるのか」
「モチロン」
「…ありがとう」

するりと出てきた礼の言葉に、
常よりも熱を感じた‪✕‬‪✕‬‪✕‬だった。

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