崩壊するまで設定足し算

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12/28/2024, 8:51:40 AM

▶57.「手ぶくろ」
56.「変わらないものはない」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
フランタ国 東の辺境 とある山中にて。

人形の‪✕‬‪✕‬‪✕‬と虫型メカのナナホシは、地面と上空の二手に分かれて昔の鉱山もしくは軍事施設を探していた。
遭難が問題にならないので、ずんずん進んでいたのだが。

「寒イ」
そう言ってナナホシが‪✕‬‪✕‬‪✕‬の所に降りてきた。
人形は手を差しのべて迎えた。
「どうした?」
「僕、動クノニ熱ガ必要」
「ナナホシの動力は光ではなかったのだな。それは確認不足だった」

「‪✕‬‪✕‬‪✕‬モ冷タイ…」

ナナホシは人形の手の上で丸まってしまった。
普段の人形は人間の体温を再現するために意図的に放熱を起こしているにすぎず、そして周りに人間がいない今は放熱を停止している。
ひとまず両手でナナホシを覆い隠し、手だけ温度を上げながら思案する。
今まで熱供給なしに動いていたのだから、常に温める必要はないはずだ。
少しすると、ナナホシが動き出した。
「暖カイ。モット欲シイ」
「少し待て」
‪✕‬‪✕‬‪✕‬はナナホシを一旦頭に乗せてから、
背負袋から手ぶくろを出して片手にはめた。
ただし、手首部分を締めるボタンを外したまま。
「応急処置だが、ここに入れ」
「ウン」
ナナホシがそろそろと歩き、手ぶくろと手の隙間に収まった。
潰さぬよう、そっと保持する。
辺境に来る前に新調した手ぶくろが厚手でちょうど良かった。
「鉱山が見つかれば、温石に使えるものもあるだろう」

温めるのを止めたもう片方の手は、あっという間に冷えていった。

12/27/2024, 8:55:18 AM

▶56.「変わらないものはない」
55.「クリスマスの過ごし方」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
資料のアーカイブが終わり、
地下通路も、局長からのメッセージで隣国に繋がっていることが分かった。

再度施設内を捜索したが、
やはり年数が経ちすぎていたために劣化が激しく、
それ以上の収穫はなかった。


そして今。
人形は、大型機器の前に立っていた。
目線は開始ボタンに向けられている。
ナナホシは人形の肩に乗っている。

「押すぞ」
「ウン」

‪✕‬‪✕‬‪✕‬は手をのばし、
しかしボタンに触れる直前で下ろした。

「ドウシタノ?」
「今の私は隣国に行くつもりはないが、この先に何があるか分からない。選択肢は多い方がいい」
「壊サナイノ?」
「ああ。電源を落として、見つからないように穴も塞ごう」
「ソウシヨウ」

人形とナナホシは一旦施設から出た。
「飛べるか?」
「デキル」

指先から羽を広げ空へと飛んでいく。
施設の動力源を探すためだ。

出入りに使っていた穴のある岩の上に、レンズ状の突起物があった。
人形と同じように日光を取り込んでいるとみていいだろう。

岩は側面から登るのは難しく、人間には上から見る手段もない。
人形が投げた布をナナホシが広げ、取り込み装置に被せた。

「僕、フンコロガシ違ウ」
重りとなる石も同じようにして乗せた。
人形には、ナナホシの言う言葉が理解できなかった。
聞こうとしたが、嫌がる素振りを見せたために止めた。

施設に戻って、崩れた家具をひとまとめにしながら
機器の電源が動力切れで落ちるのを待ち、

触っても起動しないことを確認してから施設を出た。
岩の穴には外から大きい石を置いて塞いだ。

「変わらないものはない、と人間はよく言うが」
「ウン」
人形は岩に背を向け、歩き出した。
ナナホシは肩から首を伝って頭の上に移動した。

「それは本当だった。人間と離れるだけの予定だったのだが」
「僕モ、変ワッタ。コレカラ、ドコ行ク?」
ナナホシは触覚の手入れをしながら聞いてきた。

「フランタ国の村人によると、この山に鉱山か武器製造所か残っているようだ。それを探すのはどうだろう」
「探ソウ」

12/26/2024, 5:59:23 AM

▶55.「クリスマスの過ごし方」
54.「イブの夜」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
人形は、研究施設の資料を次々とデータ化して取り込みながら、ナナホシに質問した。

「フランタ国には、クリスマスという文化はないのだが、どういうものだ?」
「クリ・ス・マス。イレフスト国ノ建国記念日。庶民ハ日頃ノ感謝ヲ込メテ贈リ物シ合ウ、ソシテ建国記念ヲ祝ッテ、オイシイモノ食ベル」

ナナホシも崩れた木材に乗って上から取り込んでいる。ただ、資料のページをめくれないので、そこは代わりに人形がやっている。
お互い機械だからこそ出来る無言の連携技だ。

「初代王様ガ側近3人ヲ労ッテ贈リ物シタ。ソレガ始マリ」
「ではクリ・ス・マスの語源は側近達の名前か?」
「違ウ」
「ではなんだ?」
「本当ノ由来、王様ノ好キナモノ。クリスタル・ストロベリー・マス(math:算数)。忙シイ王様ノ休日ダッタ。デモ側近二贈リ物シタ、ソレモ本当。」
「本当の由来、ということは一般には広まっていないんだろう。どうして知っているんだ?」
「局長ガ、研究所ヲ作ルノニ必要ト言ッテ、全テノ資料閲覧許可モギトッタ。ソノ時二取得シタ情報」

「ナナホシは知識のデータが豊富なんだな」
「ウン」
「ここの資料は入ってないのか?」
「入ッテナイ」
「そうか」

それからしばらくの間、紙をめくる音だけが続いた。

12/25/2024, 8:56:31 AM

▶54.「イブの夜」
53.プレゼント
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---

人形は、機械の中から、____へのプレゼントとして開示された小さくて丸いものを取り出した。
コインくらいの大きさで半球体、色は白い。表面は滑らかで軽い。

ひっくり返すと裏も平面ではなく、表面張力のように少し膨らんでいる。

足があったら虫のようだと気づいた瞬間。
「助ケテー戻シテー」
白いものが喋った。

半球体の方が上になるようにひっくり返すと、
6本の足が生え、縁が一部欠けて頭部になった。やはり昆虫のようだ。

「僕ハ自律思考型メカ・タイプインセクト。アナタガ僕ノゴ主人?」

「いや、すまないが本来の受け取り主は他にいる」
「ソノ人、ココニイル?」
「ここにはいない。あなたが作られた年代と、この大陸の人間の平均寿命を考えると、恐らくもう死んでいる」
「モウイナイ…」

前脚で器用に触覚をこすった。
「僕ハ主人ガ死ヌト壊レル設計。僕モウ壊レル?」

「家族や子孫なら、国にいるかもしれない」

今度は背中から羽を出し、後ろ脚で手入れをしている。

「見ツカル?」

「私に隣国に行く予定は無いので分からない」

手の上でしばらくクルクルと歩き回った。

「アナタ、僕ノ仲間?」

「ここではないが私も作られた人形だ。あなたの名乗りに合わせて言うなら、自律思考型機械人形の✕‬‪✕‬‪✕‬」

「‪✕‬‪✕‬‪✕‬、ゴ主人ニナッテ?」

「私も、主人がいる身なのだが。もう亡くなっているが」

「アナタ丈夫ソウ。アナタ壊レナイ、僕壊レナイ。助カル」

ヒクヒクと触覚を動かし、言い募っている。

「その主人とは、今決めないといけないものか?また、一度決めると変更できないものか?」
「…一度決メタラ変更デキナイ。後デ決メル、デキル」

「では、私たちは対等な立場でいこう。どうだ?」

「対等…ソレデイイ」

「では、これからよろしく。名前は?」

「ナナホシ」
「ナナホシ…七星か」
白かった体に色がついた。紺地に小さな星型の斑点が7つだ。

「ここの局長は、施設に自壊装置があると言っていた。私はそれを実行しようと考えている。いいだろうか?」

「イイ」

「ではナナホシ、まずは状況確認と今後の話をしながら資料をアーカイブしよう。破壊の前に、この研究施設を徹底的に調べ尽くす」

そこからは認識の擦り合わせをしながらのアーカイブの夜、施設破壊の前夜祭となった。

「ところでナナホシが作られた目的はあるのか?」
「アル。予定ダッタ主人、人間調ベテタ。進化、起源、最初ノ人間。目的、ソノ手伝イ」

12/24/2024, 3:16:48 AM

▶53.プレゼント
52.「ゆずの香り」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
50話を超えましたので、あらすじを挟んでおきます。
本編開始は下方の◇◆◇からです。

フランタ国内を旅して回っている人形‪、✕‬‪✕‬‪✕‬。博士から遺言として託された「人間とは、自由とは何か」という問いの答えを探している。

かつてこの国は技術が発展し、隣接した2つの国と切磋琢磨し合う関係にあった。しかし、その3国間で戦乱が起こり、その高度文明は喪失した。
現在、もう戦争はこりごりとばかりに、のどかな国として存在している。

博士によって数十年前に作られた人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬は、‪普段から人間のフリをしながら過ごしているが、寒い冬は色々と障りがあって難しい。

今年は人間から離れた場所で冬ごもりをして乗り切ることに決め、人間の少ない東の辺境にある山岳地帯を訪れた。

そこで村人に戦時中の施設があるという噂を聞き、
実際その山に訪れると、大型機器のある施設を見つけた。


無事に大型機器は稼働できたが、準備ができるまで時間がかかるため、施設を探検することに。資料によると、その施設はフランタ国のものではなく、隣国イレフストの技術者たちが暮らしていたようだ。
地下には長い通路もあったが、途中で危険と判断し引き返した。
そのタイミングで大型機器より準備完了の知らせがあり、
人形は音声の指示に従い開始ボタンを押した。


◇◆◇

人形が開始ボタンを押すと、
とある一点から、光線が出た。
人形が避けると、それは人形の後ろまで伸びて像を結び、
1人の男となった。
‪✕‬‪✕‬‪✕‬は振り返って確認したが、男は人間に見えるが実体はない。

「____、まずはここに来てくれてありがとう。君がこれを聴いているということは、私は無事にみなを国に帰せたということなんだろう」

男は喋り出した。大陸で使われるのは共通の言語ではあるが、その細部は国によって異なってくる。とはいえ隣国程度なら差異も少なく何とかなる。
✕‬‪✕‬‪✕‬は資料を読み込んでいたこともあり聞き取りも問題がない。しかし、話
しかけても男から反応が返ってくることはなく、ひたすら一方的に喋っている。
加えて施設が使われていた頃からすると、男の見た目が若すぎる。今話しているものではなく、資料と同様、残されたものだろう。


メッセージを私が代表して伝える。これから渡すものは、私たちから____への誕生日とクリ・ス・マスを兼ねたプレゼントだ。
最近局内の雰囲気が暗かったのでな、すまないがダシにさせてもらった。
それと、秘密にしていて悪かった。
急に周りの奴らが元気になって____を構い出したから戸惑ったろう。
遠く国から離れた場所に押し込められて、国への不満もあったのだろうな。
みんな嬉々として乗ってくれたぞ。
国にバレれば、機密の私用化、個人への技術流出、ああ、材料もくすねてやったから横領も付いてくる。
これを受け取れば、晴れて君も共犯者だ」

ここまで楽しげに話していた男の様子が一変、真面目なものに変わった。

「この施設は廃棄処分したと、国には伝えておくつもりだ。ここにあるものは何でも持って行ってくれて構わない。技術を継ぐも継がぬも君の自由だ。施設が必要なくなった時には開始ボタンをもう一度、今度は長押ししてくれ。地下通路を抜けるであろう3日後に自壊するよう設定してある。しかし、政府の考えることは分からないな。あんな計画を立てるなんてなぁ。おかげで今年もクリ・ス・マスが祝えなくなってしまったが、せめて君には贈ろう。では、そろそろメッセージを終わらせるとしよう。遅くなったが誕生日おめでとう。それから良いクリ・ス・マスを。おっと、くれぐれもプレゼントは持って行ってくれよ?」

最後に85年前の日付けを言い、男は消えた。

消えた男の先、大型機器を稼働させる時に触れた柱状の機械から軽快な音楽が流れてくる。
天井からぶら下がる明かりの装飾もあり、祝いの雰囲気が醸し出されている。

やがて機械の下部分が開き、中から小さく丸いものが現れた。

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