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12/20/2024, 9:46:47 AM

▶49.「寂しさ」
48.「冬は一緒に」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
寂しさどころか、楽しみも苦しみもない。
あるのは、感情とも呼べない程わずかな揺らぎ。
それが‪✕‬‪✕‬‪✕‬という名の人形。

日の出予想時刻に合わせて覚醒した‪✕‬‪✕‬‪✕‬は、
研究所から外へ出た。周りに人間の姿はない。
空はからりと晴れ、朝日がのぼり始めている。
昨晩は光源も乏しい中で動き回り、かなりエネルギーを消耗している。
人形は出てきた穴のすぐ横に座り、岩に寄りかかって日光浴を始めた。
その間、人間の足音にいち早く気づけるよう耳をすませる。

この土地特有の風により、木々が揺れて葉が擦れ、
ざぁ、ざぁ、と音を立てる。

遠くに鳥の鳴く声がする。
返すように、もう一羽。


(眼瞼の瞬間的開閉、胸郭の膨張と収縮、体表面の放熱、思考と表情の連動…)

‪✕‬‪✕‬‪✕‬は日光からエネルギーを取り込みながら、
人間的動作をひとつひとつ確認、ルーティンから停止もしくは手動に切り替えていく。

村人に知られている山であるから、遭遇する可能性がないわけではないが、
それでも、人形はいつも人間の住む場所を渡り歩いてきた。
誰かと一緒にいることの方が少なかったものの、
その道は人間がつくり、人形の通った後にも、誰か人間が同じように辿り歩いてくると理解している。
ここには、それが無い。

だからここは、人間のいる所ではない。

12/19/2024, 8:08:23 AM

▶48.「冬は一緒に」
47.「とりとめもない話」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
「冬はいいわねぇ」
「そうか?こうも寒くちゃ仕事にならねぇよ」
「だからこそよ」
「ああ?」

「この季節はあなた、ほとんど仕事に行かないでしょ?
だから冬は一緒にいられる。それが嬉しいの」
「そうかよ。さっさと買い出し行くぞ」

耳が少し赤いのは、照れか寒さか。

12/17/2024, 1:19:06 PM

▶47.「とりとめもない話」
46.「風邪」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
年月不明
とある技術者の手記

○月‪✕‬日
研究所での日々を記録として残していく。
とりとめもない内容もあるだろうが、個人的な記録だから問題ない。
今日、私はフランタ国の山中にある専門技術研究所の局長に就任した。
我がイレフスト国とフランタ国、サボウム国の三つ巴戦争が激化したことによるものだ。戦争は嫌だが、フランタ国の自律思考回路は徹底的に調べてみたいと思っていたのだ。この機会をものに出来て良かった。しかし、戦争以前は技術革新に切磋琢磨し合う関係だったはずなのだが、どうしてこうなったのだろう。

△月○日
フランタ国に来て初めての冬が来た。乾燥と吹き降ろしの風が強いが、研究所内の人間関係はあたたかい。とりとめもない話にも花が咲いている。
イレフスト側では大量の雪が降っていたから、両国の間に連なる山々に雲がぶつかっているということだろう。この乾燥こそがあの繊細な技術を可能にしているのだ。このまま解析をどんどん進めていこう。

□月○日
研究は順調だ。夢中になりすぎてクリ・ス・マスをすっかり忘れていた。局員の1人など同じ日に誕生日を迎えるというのに。来年は盛大に祝おう。

‪✕‬月△日
最近、局員たちの間で郷愁の念が強くなっているようだ。研究所の雰囲気が暗い。戦争はいつ終わるのだろう。地下通路で我が国と繋がっているとはいえ、研究を放って行く訳にはいかない。局員を励ますにも限界がある。

○月△日
そうだ、クリ・ス・マスだ。次こそは盛大にやろうと思って、毎年キリが悪くてお流れになっていた。今年こそ、今こそやろう。プレゼントは、ちょうど出来上がったばかりの研究内容を応用すれば良いものができそうだ。技術の横流しにあたるかもしれないが普段国のために働いてくれているのだから、このぐらいいいだろう。

○月‪✕‬日
みな私の提案に賛同してくれた。本人に知らせるかどうかで少し揉めたが、内緒で準備を進めていくことになった。久しぶりの祝い事に局員たちに笑顔が戻って、私も嬉しい。本人には悪いが、フォローしてくれると言っているのだ、信じよう。

○月□日
研究所に最初の頃の雰囲気が戻ったことで気が緩んだのだろうか、風邪をひいたみたいだ。しかしここで水を差したくない。このくらいすぐに治るだろう。当日が楽しみである。

○月○日
風邪は中々良くならない。それどころか悪化しているようだ。幸い、局員たちに感染している様子はない。それより、戦争の様子が変わってきている。場合によっては研究の破棄も考えられる。より一層の情報収集に努めなければ。

日付未記入
最悪、最悪だ。一体私たちは何のために。直ぐにここを撤収しなければ。研究は破棄するしかない。仕方ない。やるせない。局員への誕生日プレゼントはまだ持ち出せない。時間が必要、ということは破棄?いやだ。あれには、みなの気持ちが詰まっている。いつか、いつか取りに来られるかもしれない。これだけは残していこう。私の体では国までとてももちそうにないが、みなを国に帰せるだろうか。いや、弱気はいけない。必ず帰すんだ。

12/17/2024, 4:13:14 AM

▶46.「風邪」
45.「雪を待つ」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
岩に隠れるようにして造られた施設。
家具が劣化して崩れるほどの年月が経っているのにも関わらず、
メインルームと思しき部屋の大型機器は稼働した。
何か準備している様子なので、ひとまず人形は中を探検することにした。

この階で見ていないのは隣の部屋が最後のようだ。
向かいには下へ降りる階段が見える。

‪✕‬‪✕‬‪✕‬が部屋に入ると、そこは資料室のようであった。
ぴっちり戸が閉められた棚が規則正しく並んでいる。
素材も今までの家具とは違うのか劣化は少ない。

貼られていたラベルの文字は読めなくなっていたので、
人形は手近なところから開けた。

中には製本された冊子が収められており、見たところ無事なようである。
表題は人形には意味のわからない言葉もあるが、
この国の名であるフランタ国と、山を超えた先にある隣国のイレフスト国に関するものが多いようだ。

ちらっと見ては閉めてを繰り返し、‪✕‬‪✕‬‪✕‬は奥へと進む。
ひらけたスペースに出ると、
書き物をするためであろう机が床に崩れていたが、
その近くにある棚はまだ形が残っている。
先程までと違って収められているものも劣化が進んでいる。

慎重に取り出し、最初の部屋に戻って読むことにした。

どうもこれは日誌、というか日記に近いものらしい。
その日のことが短く綴られている。

「ここフランタの山は、イレフストと違って雨雪が少ない」
「早く帰りたい」
「フランタの○○‪✕‬に関する技術は素晴らしいが、私たちだって負けていない」
「また冬がくる」
「研究は順調だ」
「局員の1人がクリ・ス・マスに誕生日を迎えると知った」
「最近研究所の雰囲気が暗い」
「普段国のために働いてくれているのだから、このぐらい」
「みんな賛同してくれた」
「風邪をひいたみたいだ」
「当日が楽しみ」
「なかなか良くならない」

その先は劣化が進んでいて読めなかった。
ここに居たのは、隣国、当時は敵国の人間だったようだ。

大型機器の方は進みがゆっくりで、まだ時間がかかる。
人形はエネルギーの残量を確認すると、部屋の隅で休止形態に入った。

12/15/2024, 1:34:47 PM

▶45.「雪を待つ」
44.「イルミネーション」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---

人形が作動させた、あの大きな機器は主要な役割を果たしているのだろうか。
足元に明かりがつき歩きやすくなったので、‪✕‬‪✕‬‪✕‬は暗視を止めて探検を始めた。

長い年月が経っている割りには、全体的な劣化は少ない。
ただ部屋の所々に朽ちた家具であろうものが転がっている。
左右からひとつずつ廊下がのびていて、人形は右から入ることにした。
天井や壁をよく見ると、足元や最初の部屋でぶら下がっていた明かりに似たものが半分埋め込まれている。ここには何か足りないものがあるのだろう。

廊下は緩やかなカーブになっていて、人形は扉があるたび中を覗いていく。
劣化が激しいものもあるが、ここで生活していたことが窺えた。
どうやら共同生活のようで、つくりの似た部屋が続いている。
途中で大きい部屋もあったが、食堂か台所のようだった。

そのまま進んで、もうすぐ元の部屋に出る頃になって、
今度は先程よりも小さな機器が並んでいる部屋を見つけた。
それでも、この国の中枢からしたらどれほどの価値があるのか。
人間の欲望はいつも人形の想定を上回り、追いつくことがない。

(どこがとは分からないが、博士の研究室と似ている)

この部屋は元の部屋よりも劣化が進んでいるようで、
稼働しているものは一つだけだった。

小さく透明な扉の奥に、何かが置かれている。
人形が試しに手をかけてみると簡単に開いた。

それは、手のひらに乗るほどの大きさの塊で中が透けて見える。
中には小さな木々や家が立っていて、風景が再現されているようだ。
つついても何も反応がないので危険性は低いと判断して取り出す。

揺れる衝撃のせいか、中で白い粉が動いてしまう。

(なんだこれは…)

人間相手では分からないが少なくとも人形にとっては、
白い粉も害はないようだ。

顔にちかづけ、ゆらゆらと振ってみる。
白い粉が舞い上がって、中が視認しづらくなった。

しばらくそのままにしていると、粉は下に落ちて中が晴れていく。
ゆっくりとした、その様はまるで雪だ。

(この風景はどこのものなのだろう。私が動かすことでその場所に影響はあるのだろうか)

戦時中に開発された兵器という可能性も考慮したが、
どうもこれは、その類ではなさそうだ。

ただ揺らして、降ってくる雪が落ち切るのを待つ。
それだけのようだ。玩具かもしれない。

何回か繰り返した✕‬‪✕‬‪✕‬は、そのように結論づけた。

(ただ玩具にしても雪を待つだけとは、戦前の人間は何を考えていたのだろう)

小さな雪景色を持って、人形はその部屋を出た。

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