崩壊するまで設定足し算

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▶47.「とりとめもない話」
46.「風邪」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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年月不明
とある技術者の手記

○月‪✕‬日
研究所での日々を記録として残していく。
とりとめもない内容もあるだろうが、個人的な記録だから問題ない。
今日、私はフランタ国の山中にある専門技術研究所の局長に就任した。
我がイレフスト国とフランタ国、サボウム国の三つ巴戦争が激化したことによるものだ。戦争は嫌だが、フランタ国の自律思考回路は徹底的に調べてみたいと思っていたのだ。この機会をものに出来て良かった。しかし、戦争以前は技術革新に切磋琢磨し合う関係だったはずなのだが、どうしてこうなったのだろう。

△月○日
フランタ国に来て初めての冬が来た。乾燥と吹き降ろしの風が強いが、研究所内の人間関係はあたたかい。とりとめもない話にも花が咲いている。
イレフスト側では大量の雪が降っていたから、両国の間に連なる山々に雲がぶつかっているということだろう。この乾燥こそがあの繊細な技術を可能にしているのだ。このまま解析をどんどん進めていこう。

□月○日
研究は順調だ。夢中になりすぎてクリ・ス・マスをすっかり忘れていた。局員の1人など同じ日に誕生日を迎えるというのに。来年は盛大に祝おう。

‪✕‬月△日
最近、局員たちの間で郷愁の念が強くなっているようだ。研究所の雰囲気が暗い。戦争はいつ終わるのだろう。地下通路で我が国と繋がっているとはいえ、研究を放って行く訳にはいかない。局員を励ますにも限界がある。

○月△日
そうだ、クリ・ス・マスだ。次こそは盛大にやろうと思って、毎年キリが悪くてお流れになっていた。今年こそ、今こそやろう。プレゼントは、ちょうど出来上がったばかりの研究内容を応用すれば良いものができそうだ。技術の横流しにあたるかもしれないが普段国のために働いてくれているのだから、このぐらいいいだろう。

○月‪✕‬日
みな私の提案に賛同してくれた。本人に知らせるかどうかで少し揉めたが、内緒で準備を進めていくことになった。久しぶりの祝い事に局員たちに笑顔が戻って、私も嬉しい。本人には悪いが、フォローしてくれると言っているのだ、信じよう。

○月□日
研究所に最初の頃の雰囲気が戻ったことで気が緩んだのだろうか、風邪をひいたみたいだ。しかしここで水を差したくない。このくらいすぐに治るだろう。当日が楽しみである。

○月○日
風邪は中々良くならない。それどころか悪化しているようだ。幸い、局員たちに感染している様子はない。それより、戦争の様子が変わってきている。場合によっては研究の破棄も考えられる。より一層の情報収集に努めなければ。

日付未記入
最悪、最悪だ。一体私たちは何のために。直ぐにここを撤収しなければ。研究は破棄するしかない。仕方ない。やるせない。局員への誕生日プレゼントはまだ持ち出せない。時間が必要、ということは破棄?いやだ。あれには、みなの気持ちが詰まっている。いつか、いつか取りに来られるかもしれない。これだけは残していこう。私の体では国までとてももちそうにないが、みなを国に帰せるだろうか。いや、弱気はいけない。必ず帰すんだ。

12/17/2024, 1:19:06 PM