崩壊するまで設定足し算

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▶45.「雪を待つ」
44.「イルミネーション」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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人形が作動させた、あの大きな機器は主要な役割を果たしているのだろうか。
足元に明かりがつき歩きやすくなったので、‪✕‬‪✕‬‪✕‬は暗視を止めて探検を始めた。

長い年月が経っている割りには、全体的な劣化は少ない。
ただ部屋の所々に朽ちた家具であろうものが転がっている。
左右からひとつずつ廊下がのびていて、人形は右から入ることにした。
天井や壁をよく見ると、足元や最初の部屋でぶら下がっていた明かりに似たものが半分埋め込まれている。ここには何か足りないものがあるのだろう。

廊下は緩やかなカーブになっていて、人形は扉があるたび中を覗いていく。
劣化が激しいものもあるが、ここで生活していたことが窺えた。
どうやら共同生活のようで、つくりの似た部屋が続いている。
途中で大きい部屋もあったが、食堂か台所のようだった。

そのまま進んで、もうすぐ元の部屋に出る頃になって、
今度は先程よりも小さな機器が並んでいる部屋を見つけた。
それでも、この国の中枢からしたらどれほどの価値があるのか。
人間の欲望はいつも人形の想定を上回り、追いつくことがない。

(どこがとは分からないが、博士の研究室と似ている)

この部屋は元の部屋よりも劣化が進んでいるようで、
稼働しているものは一つだけだった。

小さく透明な扉の奥に、何かが置かれている。
人形が試しに手をかけてみると簡単に開いた。

それは、手のひらに乗るほどの大きさの塊で中が透けて見える。
中には小さな木々や家が立っていて、風景が再現されているようだ。
つついても何も反応がないので危険性は低いと判断して取り出す。

揺れる衝撃のせいか、中で白い粉が動いてしまう。

(なんだこれは…)

人間相手では分からないが少なくとも人形にとっては、
白い粉も害はないようだ。

顔にちかづけ、ゆらゆらと振ってみる。
白い粉が舞い上がって、中が視認しづらくなった。

しばらくそのままにしていると、粉は下に落ちて中が晴れていく。
ゆっくりとした、その様はまるで雪だ。

(この風景はどこのものなのだろう。私が動かすことでその場所に影響はあるのだろうか)

戦時中に開発された兵器という可能性も考慮したが、
どうもこれは、その類ではなさそうだ。

ただ揺らして、降ってくる雪が落ち切るのを待つ。
それだけのようだ。玩具かもしれない。

何回か繰り返した✕‬‪✕‬‪✕‬は、そのように結論づけた。

(ただ玩具にしても雪を待つだけとは、戦前の人間は何を考えていたのだろう)

小さな雪景色を持って、人形はその部屋を出た。

12/15/2024, 1:34:47 PM