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11/23/2024, 9:33:02 AM

遅くなりました。なう(2024/11/25 02:22:27)
▶22.「夫婦」

21.「どうすればいいの?」
20.「宝物」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬

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仕入れ屋との道すがら。
森の浅い部分は人の立ち入りが多く獣の類も少ない。

‪✕‬‪✕‬‪✕‬は、まだ話す時間はあると判断した。
「聞いてもいいだろうか」
「おう、なんだ」

「どうして薬草の場所を教えてくれるんだ」
「そんなことか。まぁ暇つぶしにはちょうどいいな」


仕事で言えば棲み分けできるからだ。俺の専門は食材で、しかもこれから行く所よりもっとやべえ場所に生えてるもんだ。だからあんたに教えても平気なんだよ。
俺の事情から言えば、俺には妻がいるんだがよ。
昔に高熱を出したことがあってな。
この辺の浅い場所に生えてる解熱の薬草じゃ効かなかったんだ。
薬師に連れてったら熱が下がらなきゃどうにもならねぇで死ぬって言われてよ。
今回の薬草は、その薬師から教わったんだ。森の深い所に生えるやつなら治るってよ。ただ取りに行くやつが少ねぇんだ。あんときは俺が取ってきた。

俺はあいつが死ぬのは嫌だった。
んで、そんなやつは他にもいるだろ?
だから薬草を取りに行けるやつが増えれば、困るやつが減る。
そういうこった。

「そうだったのか」


この国の人間の平均寿命は50〜60歳、
15歳で成人し3〜5人ほどの子供を持つ。
種の保存という観点から見れば、子が独立したあとまで夫婦が一緒にいる必要はないはずだ。

人形には、何故わざわざ夫婦という縛りを作ってまで他人と一緒に居ようとするのか分からなかった。

だが仕入れ屋の話から、添い遂げる相手というものが大切な存在なのだと‪✕‬‪✕‬‪✕‬は感じ取った。
もちろん1人の話から判断するのは早計だし、
何事にも例外はあるだろうが。


「あなたの奥方は、どんな人なんだ」

人形は、時間の許す限り夫婦について知ろうと話を聞き続けた。

11/22/2024, 8:18:26 AM

遅くなりました。
▶21.「どうすればいいの?」

20.「宝物」
19.「キャンドル」の値段
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬

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とある早朝、人形は酒屋の前に来ていた。
以前、ここでスリル大好き秘境珍味専門の仕入れ屋から情報収集した。
その時に、主な収入源である薬草採取で幅を持たせたいがどうすればいいのか相談をした所、
少し難易度が高いが実入りのいい薬草を教えてくれると言うので待ち合わせしているのである。

「おう!待たせたな!」
「今日はよろしく頼む」
「ああ。よし、行くか。言っとくが歩くぞ」
「問題ない」
「そう来なくちゃな」

初めて組む相手である。良好な関係を築くにはどうすればいいのか、
‪✕‬‪✕‬‪✕‬はつぶさに観察しながら、仕入れ屋について歩き始めた。

11/21/2024, 9:25:33 AM

遅くなりました。
▶20.「宝物」

19.「キャンドル」の値段
18.「たくさんの想い出」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬

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人形は宿屋の受付にいた娘から蝋燭を買い、部屋に戻ってきた。

日は傾いてきているが、
完全に沈むには、あと少しだけ時間がある。

蝋燭を机に置き、‪✕‬‪✕‬‪✕‬は部屋についている水場に向かった。
この国は水源が豊富で、安い宿屋でも身を清める程度の水は料金内に入っている。タンクに付けられたコックを動かし桶に水を出す。
濡らした布を使って体を拭いていく。人形は体表面の代謝がないため短時間で終わった。

窓を見ると空は赤から紺へのグラデーションを描いている。
人形はそのまま、日が沈み暗くなっていく様子を眺めることにした。

この国は光源を専ら炎に頼っており、太陽と共に寝起きしている。
日没後2刻も経てば、大抵の住民は眠りについているだろう。

そうなれば人形は安全に自己修復機能が作動する休止形態に移行できる。
蝋燭は、それまでの繋ぎなのである。

日没を確認した‪✕‬‪✕‬‪✕‬は、蝋燭に火を灯した。
今までと異なり、ほんのりと甘い香りが部屋に漂う。

しかし炎の大きさや勢いには差がないようで、
人形が取り込むエネルギーも同様である。


‪✕‬‪✕‬‪✕‬は椅子に腰掛けて、蝋燭の炎を見つめる。
取り込めるエネルギーが変わらないなら、価格の安い方が良い。
決まりきった結論である。

しかし、この香りは宿屋の娘の✕‬‪✕‬‪✕‬に対する思いやりそのものだ。

(この宿にいる間は、この蝋燭にしよう)

香りがデータとして記録されていくのを感じながら、
人形は甘い香りの蝋燭を宝物と定めた。

11/20/2024, 8:45:13 AM

遅れましたが、書けました。

▶19.「キャンドル」の値段

18.「たくさんの想い出」
17.「冬になったら」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬

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宿屋の娘視点

食堂に夕食を食べに来た宿泊客への対応が落ち着いた頃。
外に出ていた客がひとり戻ってきた為、私は受付に戻ってきた。

「おかえりなさいませ」
「ああ。忙しい所すまないが蝋燭が1本ほしい」

この町に住んでる人は日没後ほどなくして眠りにつく方が多いのに、目の前の客は頻繁に蝋燭を買い求めるから、少し珍しく感じる。

「大丈夫ですよ。銅の6いただきます」
「確かめてくれ」
「はい。ちょうどですね」


3日に1回は買っている。
眠れなくて、しかも暗闇が怖いのだろうか?
この人、旅人って言ってたけど、それでやっていけるんだろうか。

客に興味を持つのは良くないことだけど、なんだか心配になる。
お母さんは金払いが良い客だって喜んでたけど。

(あ、そうだ)

「すみません、ちょっと待ってもらえますか」
「わかった」

(いつも出している蝋燭、ちょっと臭いんだよね)

私は奥に入り、少し高い値段の蝋燭を取り出してきた。

「あの、もし良かったらでいいんですけど、こっちの蝋燭を試してみませんか」
「ふむ」

差し出すと受け取って蝋燭を眺めているが、その表情は怪訝そうにしている。

「あなた、よく蝋燭を買うから。もしかして眠れないのかなって。値段はそのままでいいから!使ってみて!」

客の反応に慌てた私は、素の言葉づかいに戻ってしまった。

「そういうことか。気遣い感謝する」
「え、じゃあ…!」
「しかし差額は払わせてもらおう」

(なんで!?)

「その様子だと、この申し出はあなたの独断だろう。だとすれば、あなたがここの主人である親御さんに叱られてしまうかもしれない。それは避けたい」

この旅人さん優しい。もしかして優しすぎて不眠になっちゃったの?

「でも…」
「いいんだ。この蝋燭は香りが良さそうだから使いたい。いくらなんだ?」

「あと銅が2と鉄40…」
「わかった。手を出せ」

じゃらじゃらと私の手の中にお金が落ちてくる。
銅2と大鉄4だ。

「私は不要なら断る。だから、そんなに気にしなくていい。薦めてくれてありがとう」

そう言った旅人さんは、部屋に入っていった。
私はお金を握り締めたままボーッとしていたみたい。
結局お母さんには叱られた。


でも、旅人さんがその後も高い蝋燭を買ってくれたから、
気づいたお母さんが、よくやったって、ご褒美に1本あたりの差額分と同じ、銅2と大鉄4をくれた。

嬉しいけど、ちょっと思ったのと違ったなぁ。

11/19/2024, 4:36:49 AM

▶18.「たくさんの想い出」

17.「冬になったら」
16.「はなればなれ」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬

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今夜は花街にて。
‪✕‬‪✕‬‪✕‬は子猫という女と過ごしていた。

「はぁ、山で一人暮らし。いいんじゃないの?あなた涼しい顔して毎年冬は大変そうにしてるものね。あ、もうちょっと上」
「そうか、ではこの案で進める。もうちょっととは…ここだろうか。」

子猫は人形であることを知っており、体のメンテナンスに付き合ってくれたり人間社会に馴染むための助言をしてくれたりしている。

「んふ、そう…あぁ少し強くして」
「む…良いところで教えてくれ」

負荷が掛からないようじっくり強めていく。

「あはぁ…いいわぁ…そのまま続けて」
「わかった」

人間の体に触れる機会の少ない人形は、子猫の体が傷つかぬよう細心の注意を払ってマッサージを施していく。
男であった博士とは違う体に触れること、また子猫の幼少期から縁があり、その成長過程を期間は空きつつも直接見られることは、✕‬‪✕‬‪✕‬にとって貴重な機会であった。

「ねえ、博士ってどんな人だった?」
「人形づくりに長け、この国の戦乱前の技術収集に熱心であり」
「違うわよ、そんな上っ面じゃなくて…何か思い入れのある話とかないの?」
「私の記録は平等に積み重ねられている」

「はぁ…あなた。それでよくバレないわね」
「あなたの前で人間を装う必要性がない。他ではもっと人間らしい言動に思考領域を割いている。そして今、私の思考領域の大半は子猫、あなたの体に縛られている」

「あら、私のカラダってそんなに魅力的?‪いえ、愚問だったわ…✕‬✕‬‪✕‬に性欲なんて無いものね。丁寧に扱ってくれてありがとう」
「こちらからも肉体データ収集の協力に感謝する」

子猫は少し考える様子を見せ、改めて話し始めた。

「んっ…それじゃ、私から質問するから答えてちょうだい」
「わかった」

そうねぇ…好きな食べ物は?
-いつもパンと育てた葉野菜、家畜化した鳥の卵を食べていた。食事の時間になるたびに飽きた、魚が食べたいと言っていた。

魚ってこの辺にはあまり無いわね…博士ってどこの国から来たの?
-遠くにあるとだけ聞いている。

博士とはどんな風に一日を過ごしていたの?
-朝は歩行訓練、博士の朝食後から昼まで私の体の調整、昼食後は日によって買い出しや言葉の練習、表情の作り方…主に人間に馴染むために必要なことを教わっていた。

博士って、この国の人達と違うところはあった?
-博士は体が小さかった。知識量にはかなりの開きがある。言動に関しては、抑圧されていた過去がある者特有の開放感が出ていたが、おおむね理性的であり、他者に配慮をする心があり、そこはこの国の人間と変わらない。

一緒に暮らしたのは1年半くらいだったんだっけ
-そうだ。そして博士は突然吐血し倒れ、3日後に死亡した。

子猫はハッとしたように顔を上げて振り向いた。人形は捻れた体勢に合わせるように力を弱めた。

「そのとき、言葉を交わせたの?」
「ああ。博士には、お前の生に対して本当に短い間しか一緒にいられなくてすまない、旅では色々なものを見聞きして、人間とは何か自由とは何か探してほしいと言われた。なので私は、私にとって時間の経過は苦痛にならない。博士が言うものをできる限り探すと答えた。博士は、そのとき安心した顔をしたように見えた」

「もう私との付き合いの方が長いのね…マッサージも質問もありがとう、もういいわ」
「了解した。最後に全体をさすり血流を整えてから終了する」

子猫は脱力し、再びうつ伏せになった。‪✕‬‪✕‬‪✕‬は、肌を擦らないように手を動かし、整えていく。


「ねぇ…答えられればでいいけど私との思い出で、そうね…1番あなたが重要視しているものはある?」
「重要視という意味であれば、私が人形であることを知った子猫の反応だ。人間を装うモノに遭遇した時に人間は嫌悪を抱くはずだが、あなたにはそれが全くなかった。興味深いデータである」

この後も女の話は転々と移り尽きず。いつも通りに夜は更けていく。
積み重ねられていく、たくさんの想い出という名の記録。

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