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11/13/2024, 8:42:51 AM

遅れました。お送りします。

▶12.「スリル」

11.「飛べない翼」
10.「ススキ」博士のルーツ
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬

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とある酒場でのこと。

「話している所をすまない。旅をしているのだが、ここに来たばかりなんだ。良ければ教えてほしい」

カウンター席で店主と親しげに話している旅装の男がいたので、街道について情報収集を試みた。

「おう、いいぜ」
「ありがとう。店主、彼が飲んでいるものを私と、彼にもうひとつ」
「分かってるな、お前。それで何が知りたいんだ」

情報収集には報酬に酒の一杯二杯奢るのが常。
ひと通り聞くべきことを聞いて終わろうとしたのだが、
ここでも旅の目的について聞かれた。


「世界を見る?ハッまだ若いなぁ」

「そうかもしれないな。ではあなたの旅の目的はなんだ」
「おっ、よく聞いてくれたぜ!」

手に持った杯の酒をぐいっと飲み干し、勢いに乗せてテーブルに置けば、小気味よい音と共に男の独壇場が始まる。

「俺の旅の目的は、そうスリルさ!」

スリルって分かるか?若僧。
生きてなきゃ感じられねえ、あれこそが人生よ。

そう断言した男の仕事は崖に生える香辛料やら森の奥に生えるキノコなど、簡単には手に入らない食材を専門にした仕入れ屋で、
食材をより早く届けるための近道や獣を避けて歩く方法に詳しいらしい。
スリルが目的と言いつつ仕事には芯があるようで、酔いつつも線引きはしっかりしていて教え方も丁寧だった。

生にも感情にも乏しい人形だが、
どんな人間に出会えるか楽しめるようになったら、それはスリルかもしれないと思考の隅に留め置いた。

11/12/2024, 8:40:43 AM

11.「飛べない翼」
保全報告にも読みたい気持ちを伝えてくださり、ありがとうございます。
本文できましたので、お送りします。なう(2024/11/13 12:45:57)



▶11.「飛べない翼」

10.「ススキ」博士のルーツ
9.「脳裏」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬

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30年振りに訪れた宿屋を後にして。
人形は町から出るため道を進んでいた。

すると並木に差し掛かったところで、ピィ、ピィとか細い声が
地面の方から聞こえてきた。

雛が巣から落ちたのだと認識した途端、
先ほど出てきた宿屋の主人が少年であった頃の記録が関連づけられた。

人間1人、鳥1羽。
その命に対する判断は人間によっても状況によっても、同じ条件下においてすら気分という曖昧なもので変わってしまう。

巣から落ちた雛を見つける。
自然に手を加えるのは人間のエゴだとも、情けこそ人間に必要とも。


今はまだ飛べない翼でも、いつか飛ぶ。
その希望的観測に基づいた選択が正解とするのが人間だ。


周りの人間がこちらに注意を向けていないことを確かめ、
ひなの体の下に手を差しいれる。
そっと、ゆっくりと持ち上げて巣に戻す。
こちらが人形であるせいか、抵抗は少なかった。

静かに巣から離れれば、
母であろう鳥が素早く巣に入り、餌を与え始める。
様子を見ていると落ちた雛にも同じく与えられたので、
落下は偶然の事故であったようだ。

‪✕‬‪✕‬‪✕‬は道に戻り、歩き始めた。

11/11/2024, 6:53:18 AM

▶10.「ススキ」博士のルーツ

9.「脳裏」
8.「意味がないこと」‪✕‬‪✕‬‪✕‬の目的
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬

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「この土地は‪✕‬‪✕‬‪✕‬には良い所だが、ススキが無いのが残念だ」
「ススキ?煤けた木ですか?」
「お前、それ外でやるなよ」

博士が言うススキは、
野原にたくさん生える草で、
頭に金色とも銀色ともつかぬ箒がついてて、
長いから風に揺れる。
博士の故郷にしか無いらしい。

人形は目覚めたばかりで学習が追いついていないため、記憶データの再生がロックされている。
博士の話からイメージを作るしかないが、それが正しいか見てもらう手段もない。

「それは、見に行くことができるのですか?」
「遠いからなぁ」

私は無理だな、と博士は軽く笑った。

「私の生まれた国で人形づくりは盛んだった。その技術を持った私が、こんな所まで流れてきたから‪✕‬‪✕‬‪✕‬は作れたんだ」

お前の髪色はススキの穂に似せたんだ。
風になびいたら綺麗だろうってね。

そう言って博士は人形の頭を撫で、話を締めくくった。

11/10/2024, 9:23:27 AM

加筆修正なう(2024/11/21 22:17:20)

▶9.「脳裏」

8.「意味がないこと」‪✕‬‪✕‬‪✕‬の目的
7.「あなたとわたし」の願い
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬

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カラン、コロン

とある昼下がり。ドアに付けたベルが来客を知らせる。
「いらっしゃいませー」

やる気もそこそこに顔を向けると、一人の若者が入ってきた。

「1人分で2泊頼みたい。部屋はあるだろうか」
「はい、ございます。前払い、食事無しなら銀で5。朝夕ありで6。サインをこちらに」

ずい、と台帳を押し出すとすんなりと書き始める。
「無しでいい。確かめてくれ」

支払いも手際がいい。全ての客がこうだといいんだけどな。
食事やら何やら説明し、カギを渡した。
「毎度ありがとうございます。どうぞ、ごゆっくり」

客の背中を見送り、台帳の名前をじっくり見る。

(これは…)
主人の脳裏に過去の出来事が駆け巡る。



できるだけ力を入れなかったのだが、
バタン、と築年数相当の音を立てて部屋のドアは閉まった。

(あの主人は…)

もう少し期間を空けて来るべきだったか。
ひとまず旅装を解きながら考える。

人形は容姿が変えられないため、ひとつの所に長くいられない。直接関わりができた場合には、10年単位で期間を空けるようにしている。
しかし今回は、

(子供の記憶力は予想がつかない、と)

新しく得た学びである。

昨日のことを覚えていないと思いきや、30年前の出来事を覚えていたりする。

(さすが宿屋というのか、顔ではなく字に反応した)

人形が世に紛れる上での弱点。
‪✕‬‪✕‬‪✕‬は少々字が綺麗すぎる。

主人が名前でなくサインと言ったのもそうだ。
字が書けない者は自身を表わす印のようなものを持っている。

博士と過ごすのには何の支障も無かったのが災いした。
旅に出てから気づいてはいたが、
人形は抽象化が苦手であった為、作れずにいた。


(人間らしい行動、というのが誤りだったのか)

30年前、あの日。宿で出す食事の仕入れを任された少年。手間取ったとかで人出の多い時間を過ぎての夜道。物取りに襲われているところを助けた。

少年と、当時の宿屋を経営していた夫婦には感謝されたが。

正か、誤か。
人形に脳はないが、思考の隅でめぐる。


結果として、
再度主人と顔を合わせた時、30年前のことを聞かれ、
自分は当時助けた者の子だ、話は聞いたことがあると話した。

それでもと感謝され、あたたかい食事を出してくれた。
食材そのものはエネルギーにできないが、
その温かさは人形の体にしみていった。

11/8/2024, 1:30:03 PM

加筆修正なう(2024/11/09 12:24:13)
▶8.「意味がないこと」‪✕‬‪✕‬‪✕‬の目的

7.「あなたとわたし」の願い
6.「柔らかい雨」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬

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日の出が近い時間になり、
人形は自動的に休止形態から待機形態へと移行を始めた。


宿のように一定以上の安全が保証された場所では
1度バラした自分をまた組み上げるように、
時間をかけて、ひとつひとつ異常がないか点検しつつ移行する。

その間、‪✕‬‪✕‬‪✕‬の記録や博士の記憶データが不意に再生されることがある。
人間でいうところの夢に近い。


人形は薄く作られた目蓋越しに朝日を検知し、目を開けた。

自由を求めていた博士。

人を害さず、人に害されず。
その上にある自由とはどんなものなのか。

答えが記録されていない問いに‪✕‬‪✕‬‪✕‬は答えられない。
よしんば答えを見つけられたとしても、報告する相手は既に無い。


夜、人形は情報収集のため酒屋に来ていた。
旅に必要な知識は博士の叔父のデータから入手していて、現在と齟齬がないか確認するためである。

人間と話せば、旅の目的は何か聞かれることも多い。

‪✕‬‪✕‬‪✕‬は、最初こそ自由のかたちを探していると正直に答えていた。

すると当然のように、
「それ、意味あるのか?」
と返される。酒の入った人間は容赦がない。

人形は最初こそ「意味がある」「旅は私の使命だ」などと真面目に反論していたが、革命家か何かと怪しまれることも多かったため、

今は、「世界を見たい」と答えるようにしている。


人形は安全に旅を続けるために、自分の行動について軌道修正する機能は備わっているが、
自身の存在意義について問うことは博士より「意味がないこと」として禁止されている。

今の‪✕‬‪✕‬‪✕‬は博士に禁止されているからと言って、できない訳では無いと推察している。

しかし、答えが見つかっていない問いに✕‬‪✕‬‪✕‬は答えられない。

人形に出来ることは、
ただ旅をして人と触れ合い
増えた記録の検証と分析を行う
これだけである。

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