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11/8/2024, 8:04:42 AM

7.「あなたとわたし」
多忙と体調不良により今回保全とします。
もっと読みたいと伝えてくださった方、申し訳ありません。

保全報告にもたくさんの読みたいを伝えてくださって感謝します。
無事に書き終えました。なう(2024/11/08 22:25:24)


▶7.「あなたとわたし」の願い

6.「柔らかい雨」
5.夜を越す為の「一筋の光」
:
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬

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私の持てる全てを注いで作り出した人形。
まさか命まで持っていかれるとは…いや、
これは不養生のツケだ。

もはや旅に出られる体力はないが、
それさえ諦めれば残りを人形の仕上げに使える。


幾日も悩んだ末に、
人形の起動スイッチを入れた。
装置が作動し重低音が響く。

程なく無事に人形が目を開けた。

「おはよう、‪✕‬‪✕‬✕‬」


最初で最後の時を過ごそう、‪✕‬‪✕‬‪✕‬。
当初の予定より随分と短いのは許せよ。

そして共に探そう、自由を。

11/7/2024, 8:06:01 AM

▶6.「柔らかい雨」

5.夜を越す為の「一筋の光」
:
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬

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歩き始めた時、少しだけ雨が降っていた。
風もなく穏やかな気温のせいか、
雨の落ちる衝撃も柔らかく感じる。

✕‬‪✕‬‪✕‬は足を止め雨を見上げ浴びた。

雨はすぐ上がり、
人形は、また歩き出した。

博士の最期にセンサーが感じた温度のデータを再生しながら。


‪✕‬‪✕‬‪✕‬の目覚めから1年と半年程が過ぎた頃。
最初こそ試験と調整の連続だったが
その頻度も減り、人形は完成という言葉を待っていた。


だが、博士は倒れた。

(中略)

人形に医療の知識があれば、何かできたかもしれない。

✕‬‪✕‬‪✕‬は、失われていく命の温度を知るだけだった。


数ヶ月かけて博士の残した指示通りに書類や家を処分した後、
人形はあての無い旅へと出発した。










以下中略部分
センシティブな表現あり











だが、博士は倒れた。

その日の朝、歩行訓練と称した日課の散歩を共にしていた。
訓練という言葉が惰性に感じるほど、人形の歩き方は人間に近い。

隣を歩いていた博士の方から
ぐっ、という唸り声が聞こえ、‪✕‬‪✕‬‪✕‬は体を向けた。

その瞬間、口を手で抑えた博士の膝が抜け、即座に支える。
体が密着したところから、温度センサーが反応していく。

何度目かの咳のあと、
博士の口から柔らかい雨のようなものが降り注ぎ、
人形はそれを至近距離で浴びることになった。

(あたたかい)

その温度は人形の記録に強く焼き付く。

そろりと腕を動かして、下がっている方の手を握った。
博士の手は、冷たかった。


人形に医療の知識があれば、何かできたかもしれない。

✕‬‪✕‬‪✕‬は、失われていく命の温度を知るだけだった。

11/5/2024, 1:51:09 PM

▶5.夜を越すための「一筋の光」

4.「哀愁を誘う」人間のフリ
3.「鏡の中の自分」 ‪✕‬‪✕‬‪✕‬のモデル
2.「眠りにつく前に」考えること
1.「永遠に」近い時を生きる人形

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‪✕‬‪✕‬‪✕‬は光を瞳から取り込んでエネルギーにするため、
瞳孔は少し大きく、黒目がちに作られている。

晴れた日中は問題ない。
しかし光量の少ない雨の日や夜は、
じりじりと消費していくことになる。


そんな人形は‪今夜も宿屋のおかみから蝋燭を1つ買い上げ、
一日の汚れを落としてから火をつけた。

蝋燭が燃え尽きる頃、街の喧騒も落ち着く。
そうしたら人形も安全に休止形態に移行できるだろう。


部屋の中、暗闇を照らす炎。


ベッドに入り、
姿勢維持の必要がなく炎が見やすい横臥位を取る。

目を見開いた方が光を取り入れやすいが、
人形はエネルギーの残量を確認し、瞼を半分閉じた。
この方が負担は少ない。

閉じた分だけ映像処理用のレンズも塞がれ、
蝋燭の炎は細く見えるようになった。

風は吹いてないはずなのに
ゆらり、ゆらりと揺れる。

(まだ消えないで、ご飯)


階下の騒ぎを耳に入れながら、
‪✕‬‪✕‬‪✕‬は一筋となった光を見つめ続けた。

11/4/2024, 12:28:02 PM

▶4.「哀愁を誘う」人間のフリ

3.「鏡の中の自分」 ‪✕‬‪✕‬‪✕‬のモデル
2.「眠りにつく前に」考えること
1.「永遠に」近い時を生きる人形

---

‪✕‬‪✕‬‪✕‬は動力を光と熱から得ている。

なので食事の必要がない。
そもそも食物という不純物だらけの物質から
エネルギーを得るのは効率的ではない。


とはいえ人間に紛れて旅をしている関係上、
食事を摂らなければならないこともある。

博士は、そこの所をよく理解していた。

ほどほどの味覚センサー
防水消臭の食物タンク
非常用の排水と焼却システム

これのおかげで、

今夜のように野宿で商隊などと一晩共にすることになっても問題ない。

火を囲む人間たちは、
時に騒ぎながら笑顔で食事を摂っている。

‪✕‬‪✕‬‪✕‬も控えめながら、それに馴染むように振舞っている。


「あの…」

近くで声がしたので顔を上げると、
一人の人間が立っていた。

「これからも…一緒に旅をしませんかっ」

顔を赤らめ上擦った声。恋愛感情を伴った発言の可能性がある。

「あ…」

‪✕‬‪✕‬‪✕‬は、ほんの少し目を見開き言葉を止めた。
少々の間を開けたら目線を伏せ俯く。
そして食事の器をじわじわ握りしめる。

「すみません…誰かと一緒には旅をしたくないんです。まだ…辛くて」

あとは背中を丸めてじっとしておけばいい。
今回も人間の方が哀しみを感じたのか、
謝罪と挨拶をして立ち去っていった。

時々しつこいのもいるが、
周りの人間が止めてくれることも多い。



今の姿を博士が見たら何と言っただろう。

記憶データから答えは見い出せない。
博士の記憶は旅に出る前で終わっている。

11/3/2024, 12:33:46 PM

▶3.「鏡の中の自分」 ‪✕‬‪✕‬‪✕‬のモデル

2.「眠りにつく前に」考えること
1.「永遠に」近い時を生きる人形

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‪✕‬‪✕‬‪✕‬は旅の埃を落とすため浴室に向かった。
途中に小さな鏡があり、人形の顔が映った。

足を止め、自分の顔と向き合う。
人間と遭遇する確率が低いため表情はオフになっている。
長い旅の中で得た省エネのひとつである。

過分なトラブルを避けるために
しかし、人々との交流の一助となるように

博士曰く印象に残りそうで残らない
でも少し記憶に残る顔を目指したと。

眉は旅上手で話上手な叔父から
口元はよく笑う友人から
声は博士の不養生を叱った昔の恋人から
目元は博士自身から

記憶データとの紐付けと験担ぎとして選ばれたパーツは
それぞれ、ほんの少しだけモデルに似ている。

一人残すことになってすまない、と博士はよく言っていた。
元々は共に旅に出るつもりだったらしい。
しかし、その時に構想していたであろう肉体の顔は、
設計記録にも博士の記憶にも残っていない。

‪✕‬‪✕‬‪✕‬はデータの想起を止め、再度浴室へと足を向けた。

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