な子

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2/5/2025, 8:53:32 PM

heart to heart

「heart to heart?」
目の前のソレは言った。そのあとにも言葉が続いたが、生憎オレにはわからない。残念。ここは日本だからさ。英語は通じないんだよね。まあ、心と心をどうにかしたいんだろうけどさ。
「無理に決まってんじゃん」
だって、オレはヒーローで、お前は侵略者だから。
街を破壊しといて、今更なにを言ってるの?
心と心を通わせたところで。
「てめぇを倒す未来に変わりねぇんだよ!」

2/4/2025, 8:16:02 PM

永遠の花束

「今回もまたダメだった」
机の上に置かれた鉢には、土だけが残されていた。つい先日まで植物があったのに。芽が出て喜んでいたのに。息子はただ呆然と立ち尽くしていた。
「これで満足よ」
私は手に持っていたものを見せた。永遠の花束。この中にある花は自由に選ぶことができ、また枯れることもない。息子が初任給で贈ったくれたものだ。
「そんなの、所詮作り物じゃんか。本物の花を、かあさんに」
「あなたもわかっているでしょ?」
この地下世界では植物が育たないこと。
地上は温暖化の影響でとても人間が住めないこと。
そして私の命が永くないこと。
「けど、そうだね」
この言葉を告げれば、息子を縛る気がした。
これからの人生をすべて捧げる気がした。
それでも、あまりに悔しそうで。
私を、母を忘れて欲しくなくて。
「いつか本物の花を見せてちょうだい」

2/2/2025, 7:40:28 PM

隠された手紙

隠された手紙があったことを知ったのは、母の一周忌のときだった。長らく手つかずだった遺品整理をしているときに、それはあった。
可愛らしいキャラクターの描かれたお菓子の缶だった。中には開封済みの封筒が入っていて、すべて差出人の名前はなかった。私は一番上にあった封筒を手に取る。三つ折りにされた紙から甘い匂いがした。
「百合子へ」
その一文から始まる手紙は、内容からして離婚した父のものだった。消印は十年前。私が小学生のときに両親は離婚したから、そのあとから出したものだとわかった。一年に一度、送ってきていたらしい。生存確認のようなものだろうか。現代において電話ではなく、手紙を使うところが、その古めかしさが嫌になったと生前、母は言っていた。
遺品整理に疲れていた私は休憩と称して手紙を読み続けた。今に近づくにつれだんだんと文字が崩れ、内容が狂気じみてきていた。父は母に、私を実家に連れてくるよう呪いのように書いていた。
そして最新の手紙を読んで、私は父のもとに行こうと決めた。手紙の最後に書かれていた住所は新幹線を使っても半日以上はかかる。
私はありったけの武器をキャリーケースに詰める。
ずっと手掛かりがなかった。
母を殺した犯人の。
年齢を重ねたとはいえ、元忍者の母がそう簡単にやられるわけがなかった。
その答えがこんなところあったとは。
仏壇に手を合わせる。
お母さん、いってくるね。
全滅は無理だろうけど。
せめて敵討ちくらいは。

2/1/2025, 9:02:23 PM

バイバイ

「バイバイ」
君はいつものように別れの言葉を告げて、まるで明日も会えるかのようで、そのくせこれから何が起こるのかわかってるくせに笑顔で、私は何も言えなかった。
偉い人たちがいう世界が滅ぶとか正直どうでも良くて、それが君の犠牲でなんとかなるとか意味わからなくて、実は宇宙人なんだとか天気でも話すみたいに軽く君は言って、もうなにがなんだかわからなくて。
私がもっと大人だったら?
私にもっと勇気があれば?
なにかが変わったのかな。
「好き、だからさ」
気づけば口から言葉が漏れてて、でも独り言のように小さくて、それでも宇宙人の君は足を止めて振り返って。
「また明日も、会いたいなーなんて」
最後のほうはもう声にはなってなくて、視界が歪んできて、それが涙だってわかっていたけど、君を困らせたくなくて、私は笑って、そしたら君も笑ってて。
「そうだね、また明日」
神様がいるのなら、どうか明日がありますように。

1/31/2025, 8:36:51 PM

旅の途中

まだ旅の途中だった。なのに、そいつは現れた。
「なんでって顔してるなぁ?」
そいつは笑った。フードを目深にかぶって顔は見えないが、俺にはわかった。
「時間切れだよ」
そいつは虚空を掴んだかと思うと、そこから大きな鎌を引っ張り出した。そして、間髪入れずに俺に振り下ろす。
逃げても無駄だった。俺はただ立ち尽くす。
グサッ。
痛みはない。
薄れていく意識の中、声が聞こえた。
そいつの、死神の笑い声だった。

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