隠された手紙
隠された手紙があったことを知ったのは、母の一周忌のときだった。長らく手つかずだった遺品整理をしているときに、それはあった。
可愛らしいキャラクターの描かれたお菓子の缶だった。中には開封済みの封筒が入っていて、すべて差出人の名前はなかった。私は一番上にあった封筒を手に取る。三つ折りにされた紙から甘い匂いがした。
「百合子へ」
その一文から始まる手紙は、内容からして離婚した父のものだった。消印は十年前。私が小学生のときに両親は離婚したから、そのあとから出したものだとわかった。一年に一度、送ってきていたらしい。生存確認のようなものだろうか。現代において電話ではなく、手紙を使うところが、その古めかしさが嫌になったと生前、母は言っていた。
遺品整理に疲れていた私は休憩と称して手紙を読み続けた。今に近づくにつれだんだんと文字が崩れ、内容が狂気じみてきていた。父は母に、私を実家に連れてくるよう呪いのように書いていた。
そして最新の手紙を読んで、私は父のもとに行こうと決めた。手紙の最後に書かれていた住所は新幹線を使っても半日以上はかかる。
私はありったけの武器をキャリーケースに詰める。
ずっと手掛かりがなかった。
母を殺した犯人の。
年齢を重ねたとはいえ、元忍者の母がそう簡単にやられるわけがなかった。
その答えがこんなところあったとは。
仏壇に手を合わせる。
お母さん、いってくるね。
全滅は無理だろうけど。
せめて敵討ちくらいは。
2/2/2025, 7:40:28 PM