【信号】
トントントンツーツーツートントントン。
窓から室内に信号機の黄色が光る。
安いアパートの深夜二時、俺は布団の中にいた。
俺は数年前に流行った曲を思い出す。
トントントンツーツーツートントントン。
SOS、助けて。
信号機を使って誰かが救難信号を出していた。
けれど、俺は動かない。
助けられるわけがない。
夢を追いかけ上京し、何者にもなれなかった俺が。
窓の外では怪獣とヒーローが戦っていた。
俺の夢見たヒーローが。
信号機は相変わらず光っている。
助けを求めている。
俺は目を閉じ、見ないフリをした。
【言い出せなかった「」】
言い出せなかった「さようなら」
【secret love】
「secret love」
あなたの口にした言葉は羽のように軽かった。
仕事を理由に私の前から消えようとしている。
その手には、私の全財産。
わかっている、これが嘘だと。
結婚詐欺だとわかっている。
それでも私は求めてしまう。
本当の愛を。
「さてと」
私は振り返り、足早にその場から離れる。
全財産といっても、失ったのは数十万円。
そして手にはその百倍のお金がある。
あなたの財布に、キャッシュカード。
暗証番号も酒の席で聞き出し、何度か引き出した。
たとえ気付いたとしても被害届は出せない。
自分の罪まで暴かれる可能性があるから。
「Money makes the world go round」
世の中、金だよ。
【ページをめくる】
止まらない。
ページをめくる手が止まらない。
いつの時代のどこの国の文字なのか、
どんな内容を伝えたいのかわからないけど、
ただひとつわかることがあるのなら、
読んだら死ぬという噂は、
本当かもしれないってことだけ。
【夏の忘れ物を探しに】
「ほんとーにあるの?」
あたしの質問を無視し、彼は山道を歩き続ける。
低い草木が浴衣越しに肌を刺し、サンダルを履いた足は土に塗れた。
夏の忘れ物を探しにいってくる。
祭りの途中でそんなことを言った彼を不思議に思って着いてきたけど、失敗だった。
「あった」
彼が見つけたのは今にも朽ちてしまいそうな小さな祠で、あたしは怒りを通り越して呆れた。
こんなもののためにここまで歩いたなんて。
彼は静かに祠を開けた。
中になにか入っているのかと覗き込み、ドンッと背中に衝撃が走った。
「え?」
あたしの体は前のめりになって、祠の中に、吸い込まれて。
気付けば目の前に闇が広がり、振り返ろうにも体は動かなくて。
夏の忘れ物って、祠への生贄ってこと?
そう聞きたかったけど、あたしは。