な子

Open App
2/2/2025, 7:40:28 PM

隠された手紙

隠された手紙があったことを知ったのは、母の一周忌のときだった。長らく手つかずだった遺品整理をしているときに、それはあった。
可愛らしいキャラクターの描かれたお菓子の缶だった。中には開封済みの封筒が入っていて、すべて差出人の名前はなかった。私は一番上にあった封筒を手に取る。三つ折りにされた紙から甘い匂いがした。
「百合子へ」
その一文から始まる手紙は、内容からして離婚した父のものだった。消印は十年前。私が小学生のときに両親は離婚したから、そのあとから出したものだとわかった。一年に一度、送ってきていたらしい。生存確認のようなものだろうか。現代において電話ではなく、手紙を使うところが、その古めかしさが嫌になったと生前、母は言っていた。
遺品整理に疲れていた私は休憩と称して手紙を読み続けた。今に近づくにつれだんだんと文字が崩れ、内容が狂気じみてきていた。父は母に、私を実家に連れてくるよう呪いのように書いていた。
そして最新の手紙を読んで、私は父のもとに行こうと決めた。手紙の最後に書かれていた住所は新幹線を使っても半日以上はかかる。
私はありったけの武器をキャリーケースに詰める。
ずっと手掛かりがなかった。
母を殺した犯人の。
年齢を重ねたとはいえ、元忍者の母がそう簡単にやられるわけがなかった。
その答えがこんなところあったとは。
仏壇に手を合わせる。
お母さん、いってくるね。
全滅は無理だろうけど。
せめて敵討ちくらいは。

2/1/2025, 9:02:23 PM

バイバイ

「バイバイ」
君はいつものように別れの言葉を告げて、まるで明日も会えるかのようで、そのくせこれから何が起こるのかわかってるくせに笑顔で、私は何も言えなかった。
偉い人たちがいう世界が滅ぶとか正直どうでも良くて、それが君の犠牲でなんとかなるとか意味わからなくて、実は宇宙人なんだとか天気でも話すみたいに軽く君は言って、もうなにがなんだかわからなくて。
私がもっと大人だったら?
私にもっと勇気があれば?
なにかが変わったのかな。
「好き、だからさ」
気づけば口から言葉が漏れてて、でも独り言のように小さくて、それでも宇宙人の君は足を止めて振り返って。
「また明日も、会いたいなーなんて」
最後のほうはもう声にはなってなくて、視界が歪んできて、それが涙だってわかっていたけど、君を困らせたくなくて、私は笑って、そしたら君も笑ってて。
「そうだね、また明日」
神様がいるのなら、どうか明日がありますように。

1/31/2025, 8:36:51 PM

旅の途中

まだ旅の途中だった。なのに、そいつは現れた。
「なんでって顔してるなぁ?」
そいつは笑った。フードを目深にかぶって顔は見えないが、俺にはわかった。
「時間切れだよ」
そいつは虚空を掴んだかと思うと、そこから大きな鎌を引っ張り出した。そして、間髪入れずに俺に振り下ろす。
逃げても無駄だった。俺はただ立ち尽くす。
グサッ。
痛みはない。
薄れていく意識の中、声が聞こえた。
そいつの、死神の笑い声だった。

1/30/2025, 8:22:20 PM

まだ知らない君

君は眠っている。部屋の真ん中に敷かれた布団の中で、いびきをかくことなく、寝息をたてながら。どんな夢を見ているのかわからない。時折、笑っていた。
私はそんな君の頬に手を押し当てた。
もにゅ、という音がした気がした。肉球とは想像以上に柔らかかった。
夜勤から帰る途中だった。月が輝いたかと思ったら、身体が小さくなっていた。いや、正確にいうのなら。
猫になっていた。
家まであと少し、そして鍵の掛けない不用心な君のおかげで、なんとか帰宅することはできた。そして朝の情報番組でやっていた。何万もの人間が突然、猫になったと。
君は眠っている。
まだ何も知らない君。
目覚めた時、果たして僕だと気づいてくれるかな。

1/28/2025, 10:25:10 PM

帽子かぶって

「今日はどうしよっかな~」
クローゼットに並んだ服を眺めながら彼女は呟いた。今日は大学時代の友人たちに会うらしい。あまり派手すぎないほうがいいのでは、と進言すると笑っていた。
「帽子かぶっていけば、わからないから大丈夫」
彼女が帽子をかぶった瞬間、顔が変わる。最近はメイクではなく、帽子で顔を変えるのがブームらしい。

Next