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3/27/2023, 4:10:39 PM

しとしとと雨が降り続く中
君は約束通り花見の名所へ連れて行ってくれた
桜色の傘を半分に分け合って歩き
君は時々立ち止まっては
綺麗、と桜を愛でていたけれど
僕の胸の高鳴りは違う方向へ向いていた
ああこの時の何と儚く美しいものか
これほどまでに離れ難いものかと
一人こっそり永遠を願ったものだ
泣きそうなくらいに幸せだったのだ


願わくば
僕の心がいつか灰になった時
何も知らぬままに泣いてください
そのために今の僕の胸の痛みがあるのです

3/26/2023, 1:36:23 PM

週末久しぶりに君に会った
君は見たこともないくらい髪を短くしていて
赤茶色の毛色も相まって本当によく似合っていた
直視する事さえ難しいほどに可愛いと思った

同じソファに君は腰掛け、僕は寝そべり本を読み
笑う君の振動をソファ伝いに感じた時
これ以上の幸福はこの世に存在しないと
確信してしまえるこの中身が、狡さが
やっぱりどうしようもないほど嫌いだ
そういった中身を自分自身で直視する時
いっそこの汚い胸中を身体ごと貫いて欲しい、
なんて思ってしまう事もある


性別が変わってしまえば、と
思った事も一度ではないが
そんな簡単な話ではない事は
自分が一番よく知っている
普段はとても履けないと思ってしまうスカートも
日によっては履いてみたいと思えるし
自然と目で追ってしまうのは異性が多いが
心の底から戸惑い、愛らしいと思うのは君だけだ
そもそも異性になったとしたら
君とこうして並ぶ事も無かったかもしれないが
今の僕は自分の外見と立場を
うまく利用し続けている偽善者のように思えて
結局思考は上手く纏まらないまま
堂々巡りするのである

正常、とは一体どんな感覚なのだろうか
君を愛しているうちはきっと知り得ないのだろうが

3/21/2023, 4:00:42 PM

二人にしか判らない言葉で話す時
二人にしか知り得ない思い出を語る時
ふと「二人だけでいいよ」と
そんなふうに思ってしまう
僕をどうか詰ってほしい
なぜなら君は僕とは違うから
君と離れてしまった途端
上手く生きられなくなった僕と違う
君はきっと僕無しでも、
なんて言ったら君はきっと本気で怒って
口を聞いてくれなくなるだろう


どうして君は僕にこだわるの?
どうして僕を選んだの?
どうしてそんなに優しくするの?
本当に分からないんだ
分からないから不安なんだ
痛いんだ
いつか君がふっと僕に飽きてしまうような妄想が
確かに幸せなのに常に脳裏から離れないんだ


いつかに君が失恋をした時
一緒にカラオケで散々歌った
突然君は持ち込んだプチシューを
「口開けて」と言って僕の口に突っ込んだ
目を白黒させながら噛み締めたそれは
ラズベリーの味だった
君は椎名林檎の歌を自棄になって歌っていた
僕は口の中の甘酸っぱさを噛み締めていた

3/18/2023, 5:52:56 PM

不条理、という言葉を聞いて
僕は一番に『家』を想像する


僕の家は昔、それなりの金持ちだった
父親がギャンブルにハマり、多額の借金が発覚したのは
僕が中学に上がる前の春休みの事だった
いつもの様にリビングで漫画をダラダラと読んでいると
突然母親が怒り狂って発狂し
視界に入った物を手当たり次第に投げ始めた
それが最初だったように思う

それから数年が経ち
母から当時の事を詳しく聞いた事があった
結局彼女は現在まで父とは別れていない
別れられるほどの財力が自分にはなく
どうしようもないからだと言う
涙ながらに話す彼女を見て
正直僕は吐きそうになった
それなら何故見抜かなかったの
何故末っ子の僕を産んだのと
今思えばくだらない罵詈雑言ばかりが浮かんだ


しかしこの歳まで生きてみると
様々な価値観を持つ友人ができた
「子供は親を幸せにする道具じゃない」
「親を反面教師にして生きる事が
 最大の親孝行だと思う」
各々複雑な家庭環境の中で育った彼等の
そうした言葉には本当に救われた
『家』は確かに不条理な人間社会ではあるが
それが全てではない事を知った

3/17/2023, 4:04:05 PM

君とはもうかれこれ
20年近くの付き合いになる
いつも明朗で優しい君が
はらはらと泣いている姿を僕は見たことはないけれど
一度だけ君の目が赤く潤んでいた時の事は
未だに脳裏に焼きついている


それは部活終わりの放課後
何故か僕らは昔の話をしていた
その昔僕は虐められていて
君はそれを傍観していた
子供の小さな世界の中で
強者に逆らう事がどれほどの意味を持つか
想像には難くない
もうそれは仕方なかったと
僕が君に言った時
君はぽつりと「ごめんね」と溢した
気にしないでと返そうと君の方を向いた時
僕は目を見張った
君の目に涙が浮かんでいるのを
その時初めて見たからだ

虐められていた当時の事を
誰かに謝られたのはそれが最初で最後だった
復讐心も憎悪も特段持ってはいなかったが
その時確かに僕は何かに区切りをつけた
区切りをつける事ができたのだ

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