NoName

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5/9/2025, 9:17:59 AM

あの星降る日、君に出会った。
腰まである、黒髪。艶艶と輝くその髪の毛は、いつも私を魅了させていた。世には、骨格ナチュラルといわれるであろう痩せこけた身体。肩幅があるというわけでもなかったが、痩せているせいで華奢なはずの君は、骨のようだった。
小さい頭は、整った顔のパーツを最大限に生かしていた。
大きな目に、ぱちぱちと目を瞑るたびに震える睫毛。
全てをひっくるめて、鈴のような声を発する君の喉は、美しくて、私のモノにしたかった。

だから、首を絞めた。
綺麗な君の顔が、少しずつ歪んでいくのをみて、私は口角が上がるほどの思いをした。
くるしい。やめて、と必死に私を訴えるその腕は、白くて細くて、かぶりついてみたい程だった。
少し時間が経った時、ようやく拘束が解けた。
ぐたりと寝そべる君に跨って、首についた私の手の跡を見つめる。これで、やっと私のモノにできた。このコはたまーに包帯やガーゼをつけていたし、きっと嫌なことも多かったんだよね。だから、私が解放してあげたんだ。
優しいよねー、うち。

あれから数日、せっかく君を手に入れたのに、まだ何か足りない。空いた手が、つながらないような感覚。
あれ、君を手に入れたと思っていたのに。
まだ、届かない。
君には、まだ届かない。

5/7/2025, 11:40:58 AM

「なんでこんなところで寝てんの?」

「…あ」
眩しい光に渋々目を開けると、目の前にジャージ姿の×××が立っていた。
「おはよう。そんなところで寝てると風邪ひくよ?」
そんなことを言いながら、薄くて細い指の手のひらをひらひらさせて構ってくる。
「…はよ、引かないよ。こんな、天気いいのに」
今日は珍しく快晴で、ふよふよと吹く優しい風が心地よい。
「あのねえ、晴れてるからなんて理由になんないの」
オカンみたいなことを吐き捨てて、俺の横に腰を下ろす。
イケメンは、何をしたってサマになるんだから羨ましいものだよ。ほんとに。
「もー、オカンはこれだから…ぁたっ」
口を尖らせて文句を言ったら頭にチョップが降った。
こいつは力加減ができないところがあるから大変だ。
「だまらっしゃい。せめて、ひなたに行けばいいのに」
ほら、と指を刺す方向をみれば、太陽がさんさんと降り注ぐ丘が見える。
「ひなたとか、暑いじゃん。嫌に決まってんでしょ」
「…そう?」
力いっぱいに顔を歪ませて、睨んでやる。
それをみて×××は、はあ、と大きなため息をついて寝転んだ。
「いや、お前も寝るんじゃん」
矛盾してるだろ、と訴えれば、澄ました顔で俺はいいんですー、と言ってくるので肘で軽くどついてやる。
「いたっ!…なにー?」
返事をせずに、目を瞑ると小鳥の囀りが耳を掠る。
「…ここの、木漏れ日好きなんだよな」
呟くようにそういうと、×××は、へぇ、なんか意外。と間抜けな声をだした。
「確かに、いいよね。形」
「形??」
意味わからないことを言ってるが、雰囲気がいいので流しておこう。
「おやすみ」
「げ、ねるの?」
もうちょっと寝ようかな。
×××を巻き込んでやろーっと。

5/6/2025, 10:57:25 AM

「何?この曲」
今どき、ラジオを片手に音楽を聴いてるやつは少ないだろうが、目の前にいるこいつはラジオを耳に当てて何かの曲を聴いている。
「曲じゃなくて、ソング、な」
「どっちも同じでしょ…」
こいつはいつも細かい。それなのに、大雑把で適当。 
ほんとに、困ったもんだよ。
「そんなに耳に近づけたらだめでしょ?耳悪くなるよ」
「ぅわっ!…もー、やめてよ」
ラジオを取り上げると、いとも簡単に取ることができた。
力が弱いわけではないはずなのに、どうしてだろう?
「…どした?」
背中を曲げて、目線を合わせてそう問う。
そっぽを向いて、何故か顔を真っ赤にする。気になったから、顎をつかんでやった。
「照れてんの?」
「うるさい」
頑なにこちらを向かないので、何故こうなったのかを考える。確か、ラジオを取り上げてから様子がおかしい。
…ってことは、このラジオが原因…??
「ちょっと、失礼」
「…ぉい!やめてっ!」
それを耳元に近づけると、ラブソングのようなものが流れていた。あれ、こいつは恋愛に興味ないって言ってたはず。
…なるほど。
「…へー?そっかぁ」
「くそ!やめてよ、顔がうるさい!」
そう言って、顔をぐいぐいと押してくる。
「ふふ」
「なんで笑ってんの、ばか!」
まあ、親友のことだしね。
応援してやるかあ
「デートはいつ?」
「だ、黙れっーーー!」


5/4/2025, 10:15:09 AM

「だから、なんでそうなるわけ?」
こいつは怒ってる。キレやすいこいつは、いつも眉を歪ませて手を力強く握る。それでも手は出さない。そんな奴。
俺たちは5人組なわけだけど、その中でもこいつ以外誰もキレない。だから、キレるこいつが目立つ。
周りからは、「1人のために4人が無理してる」とか、「4人が1人を慰めてる」とか言われる。それをこいつは知ってるのに、気にする素振りを見せない。「まあ、俺以外怒んないし」って言ってるんだけどさ。
正直、なにも知らないやつが口出すんじゃねーよ、って思う。側から見れば、かわいそうだとか、あり得ないだとか。
そんな意見で溢れるところもあるんだろうけど、俺たちは違う。そう思ってないから、一緒にいる。
こいつは、人前で進んで提案したり、司会進行を務めたり1人で色々な計画を立てたり。忙しいことを沢山こなす。助けがなくても、自分でどうにかできる、そんな強みがある。
確かに、俺らと比べれば怒りやすいけど、それだけじゃない。それに、こいつは物に当たらないし、ちゃんとダメなことはダメだってわかってる。一線を超えない。
こいつの瞳は綺麗なんだ。沢山のことを経験してきた瞳。
俺らのことを引っ張ってってくれる瞳なんだよ。
こいつは、俺らにあり得ないほどの経験と、楽しみをくれる。そんな、すごい奴なんだ。
「はいはい、甘いもの食べる?」
「…食べる!」

5/3/2025, 12:58:55 PM

「まって、いかないで」

手を伸ばして、去ろうとするその足をとめる。
一瞬立ち止まってくれた足は、少し時間を置いてから前を向いて歩き始めてしまう。
「なんで」
そう小さく呟いても、何も聞こえなかったかのように君は、足を止めてくれなかった。
青色が好きで、トレードカラーはもちろん青。
青ぺんぎんのキーホルダーを鞄につけてる君は、作るのが苦手な笑顔をいつもこっちに向けてた。
定期的に服から垣間見えるようになる包帯と、ガーゼ。
理由を聞いても、怪我しやすいんだよね、ドジだから。なんて言って笑ってたけど、それも嘘だったんだよね。きっと、そうだよね。
「ごめんね」
自分が何も気づけなかったから。おかしいよ、君は何も悪いことしてないのに。


「ごめんね」
なんで君が謝るの?君は何も悪いことしてないのに。自分が不甲斐ないだけなのに。
君といる時間はとっても楽しい。
ひとりでいるときよりも、家にいるときよりも。
君のゼンブが、俺の宝物だよ。
一緒にショッピングに出掛けて、そこでみつけた青色のペンギンと、白色のパンダのキーホルダー。せっかくだからって、お互い相手のキーホルダーを買って、プレゼント交換なんてした。その時の君の弾けるような笑顔は、見惚れてしまうくらいに凄かったんだからね。
そこからは、青色のペンギンのキーホルダーを鞄につけて、毎日過ごした。息が詰まりそうになるくらい辛かった場所も、このキーホルダーのお陰でなんでもできる気がして、心強かった。キーホルダーが絶対に傷つかないように、取れないように、大事に扱った。人とプレゼント交換をするなんて初めてで、嬉しかった。
ある日、運悪く顔面を殴られて、湿布をつけて君に会いに行ったときは、大きな目をまんまるに開いて、驚いていた。大丈夫なの、と泣きそうになって焦って聞いてくるもんだから、思わず笑っちゃったよ。でも、そんな君が好き。心の芯から優しい人なんだなってわかるからね。
俺は、君のせいだなんて一ミリも思ってない。
そんなはずないでしょ。
君のお陰で俺は、あの地獄から抜け出せたんだよ?
だから、お願い。ずーっと、君のままでいてね。


「ごめんね」
そういうと、君は振り返って、僕を見つめた。
いつもの、苦しそうな笑顔なんかじゃなくて、心から笑ってる笑顔。あぁ、これだ。俺は、君のそんな顔が見たかったんだよ。もう、苦しくないんだね。よかった。
ゆらゆらと軽やかに揺れる、笑顔の青ぺんぎんと、君の笑顔を見比べる。
「…嘘嘘。僕がそんなの言うわけないでしょ?」
「言うけどさー、やっぱ、笑顔つくんの下手だね」

君って、やっぱり青い。





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