「ねえ」
「ん?」
「ペテルギウスって、何?」
「…習ったでしょ」
「それは小学校の話でしょ、今そんなの覚えてないよ」
「…はぁ、仕方ないね。ペテルギウスは、ほら…」
「うん」
「へえ、そうなんだ」
「なんか、こんな説もあるらしいね」
「…不思議だね」
「…そうだね?」
「うちら、勉強しなきゃだね」
「それはそっちだけだけどね」
「…そっか」
「はぁ…」
旅を始めてから数ヶ月。今まで行ったことのない場所に訪れて、したことない体験を沢山した。楽しいと思うこともあったし、辛くて、帰りたいと思うこともあった。でも、旅は続けた。
「でも、もうやめようかなぁ」
自分を高揚させてくれる体験もないし、ドギマギするようなこともなかった。なにせ、旅だけでは成長し続けることはできるのか、と日に日に思っていた。
「つまんな」
この海の浜辺を歩いて、あのカフェに入ったら。
もう、そこで。
「…あ?」
足に当たる冷たいなにか。
下に目線をやると、小さな貝殻。
この浜辺には人もいないのに、こんなに綺麗な貝殻があるのか?
「……なまえ?」
その貝殻を持ち上げて、じろりとそれを見ていると、薄い色で名前が書かれているのが分かった。
かなりの年月が経っているが、ところどころはまだ読める。
きっと、誰かの大切な宝物なんだろう。
持ち主は、今も困っているんじゃないかな。
「…やっぱり、旅続けようかなぁ」
貝殻をポケットに突っ込んで、すり足だった自分の足を、軽やかにスキップさせる。さっきまで、どんよりしていたけれど、今はすっきりして、爽快な気持ちだ。
自分には、旅を続ける理由が出来た。
これを、持ち主に届けるまで。
「旅を続けよう!」
「あ!」
「あ…」
ぼとり、足におちたのは、アイスクリーム型のキーホルダー。コンクリートに直撃していたら、間違いなく傷になっていただろう。良かった、靴の腕に落ちて。
「危なかった〜、ナイスキャッチ!」
そう言いながら、靴の上のキーホルダーをとられる。
「もー、危ないな。せっかく買ったんだから、無くさないでよね」
「うん。約束」
「…タイミング!」
「…ごめん」
「いつも言ってるだろ!何回言ったらわかるんだ?」
「ごめんってばー」
「はぁーーーーゆるさねぇ」
「ごめん」
「も許すよ
「…ないたの?」
頬をすりすりと撫でると、それに応えるようにふわふわな髪の毛が手をくすぐった。
「別に?」
「嘘だ。泣いたんでしょ、跡があるよ」
「…バレたか」
「当たり前でしょ?なんだと思ってんの」
「別に〜?」
「あ、またはぐらかして!もー、それお得意なんだから」
「べーだ」
「べーじゃない!!わかったら、早く顔を洗ってきて!それも、氷水みたいに冷たいのでね」
「はー?まじで??」
「まじだわばか!はやく」
「あーもう、仕方ねぇなぁ」
「…はぁ…」
「どうしたらいいかなぁ」