「髪長いね」
「そうでしょう?」
「でも、どうしてアタシの顔なの?」
「そんなの、アナタだからに決まってるじゃない」
「嘘だ。アタシはここにいるだろう?」
「今のアナタじゃない。昨日のアナタなのよ」
「おかしいよ。昨日のアタシは今日と変わらない」
「本当に、そうかしら?」
「何言ってんだ」
「あ、消えちゃった」
「待って!」
必死に手を掴んでやるけど、全く歯が立たない。
そりゃそうだろ、コイツ力つえーもん。
「だから、何!?」
金髪をふわふわ揺らしてこっちを向いたコイツの顔は、はちゃめちゃに歪んでてこわい。
「いや何、じゃねえし!なんでそんなに怒ってるの?」
「怒ってるも何も、お前が俺のプリン食べたんだろ!」
「それくらいいーじゃん!」
「だめだわアホ!」
まあ事の発端は俺がコイツのプリンを食べたから。なんだけども、それくらいよくない!?って思ってる。
べつに、悪かったって思ってるけど。
思ってるからね?
「あれ限定なんだよ」
「知ってる」
「知ってて食うなや!」
食べた後、シールを剥がそうとした時に限定って書いてあったんだもん。仕方無いでしょっ!
「…ごめん」
なんか怖くなったから、謝る。
そしたら、黙って睨んできた。
「また、いっぱい買うから」
「…仕方ねーな」
やった、お許しもらっちゃった。
「やったー!!また食べるね」
「馬鹿が!」
「いった!」
「話になんねー」
「あ、まって!」
「イヤだねばーか」
また、おにごっこがはじまる。
「…誰ですか」
目の前にいるのは、知らないヒト。
他人っていうか、自分。
そう、なんだけど。なんか違う。
俺じゃない。外見は一緒。絶対に俺、なはずなのに。
俺の本能が、コイツには近づくなと警告を鳴らす。
「…キミだよ」
口角を上げて、ほほ笑む。その下手な笑顔が気色悪い。
こんな顔、俺はしない。
「なわけないだろ。俺はここにいる」
俺のコイツの間には、よくわからない壁がある。透明だし、違和感もなにもないけど、触れられない。なんかの境だろうか。
「キミは俺だ。俺はキミ。それでわかる?」
くびをこてんと傾けて、そう語りかけられる。
「わかんねーし。お前は俺じゃない」
「そっか。まあ、今度わかるよ」
そう言って、消えた。
「なんで、なんで?」
目の前には、血だらけで、息も途絶えそうな×××の姿がある。可笑しい、そんなに難しい任務じゃなかった。
今までと比べたら、正直簡単な方でさえある。
それなのに、今彼は、自分の目の前で苦しんでいた。
「…いまっ、運ぶから」
地面に染み込んでいく血を見ながら、布を取り出して1番傷の深いお腹に巻き付ける。
いくら総統だからって、緊急処置くらいは身につけてる。
でも、傷はかなり深くて、血が止まらない。
急いで城に戻るために、×××を担ごうとした。
それなのに、出した手は防がれてしまった。
「…まって、」
「×××!?話せるの?どこが痛いの大丈夫なの!?」
うっすらと目を開けて、少し微笑んで見せる彼の顔は、いつもの笑顔じゃなくて、激痛に歪んでいた。
「今、城に運ぶからね、!大丈夫、治るよ」
頭を優しく撫でてやると、×××は首を振った。
「も、むり…だよ。そもそも、お、れのこと担げないくせに」
「そんなのやってみないとわかんないじゃん!」
「わかるよ、体のおおきさ、からちがうでしょ、?」
震える手を、俺の手にかぶせる。
ぽんぽんと、安心させるような手つき。
あぁ、やめて。
やめてよ。
「ごめん…」
「…なんにも、わるくない…。誰も、わるくない」
「ごめんね」
「わらってよ、どうせならさ」
「…っふ、これでいいの?」
「…あは、かんぺき」
そのままふたりで、笑いが収まるまで手を握り合っていた。
手放す勇気
この物語はノンフィクションです。