John Doe(短編小説)

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3/17/2023, 9:19:49 AM

レコードの針とあなたと


私はレコードをかける。
華やかな音楽が流れ、憂鬱な夜がロマンチックなものに変わる。
いつの間にか、あなたが部屋にいた。
私の手を取り、ダンスへと誘導する。
私は踊れない。
それでも構わないと、あなたは私をリードする。
あなたはとても暖かい。
あなたの温もりを感じていると、つい足を踏んでしまった。
気にしないでくれ、とあなたは微笑む。
レコードの針のノイズ音がとても切ない。
曲が終わってしまうことが悲しい。
でも、いつまでも踊り続けることはできない。
曲が終わりに差し掛かる頃、私は踊るのをやめて、あなたの腕の中へと身体を預けた。
あなたは微笑んだ。
私は何度も何度もあなたの名前を呼んだ。
素敵な夜だった。

















レコードは、もう鳴らない。
針は折れてしまっている。
道路の真ん中で私は横たわっていた。
頭から血だまりができている。
遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。
あなたが誘導してくれるのを、待っていた。

3/15/2023, 1:57:13 PM




僕は浮き沈みを繰り返す。
左に、右に、上に、下に。
とても気持ちが良いんだ。
感じるのは恍惚だけ。
僕の身体は、とっくに朽ちたんだ。

悲しみの果てに、涙は川になった。
僕はそこをずっと流れている。
透明な涙の川に、僕の真っ黒なハートが溶け込む。
そして川は黒く染まっていく。
全て混ざり合っている。
脳も、心臓も、神経も、細胞も。
ここはいたって平和だよ。
もう失うものは何一つないから。

母親の子宮の中にいるようだ。
この切ないような安心感を、僕は覚えている。
そこは羊水に満たされていた。
世界でいちばん安全な場所だった。
ああ、母さん。懐かしい響きがする。
母さん。母さん。
声を出そうとしても、泡が水面へと昇るだけ。
心が溶けてしまいそうだ。
大勢の人間が僕を覗き見ている。
その中に、彼女の姿。
その中に、幼い僕自身の姿。
僕を愛してくれたたくさんの人々。
さようなら。
でも、もう会いたくないかな。二度と。

僕は流れていく
僕は流れていく
僕は流れていく
僕は流れていく
僕は流れていく

緩やかに。

3/14/2023, 1:42:44 PM

クレイジー・ガール


「ねぇ、“愛”って何だと思う?」
私は自分に対して質問する。
しばらくして、風が答えてくる。
『その難病のことよ。ガール』

君を愛し過ぎて、好き過ぎて、死んじゃいそう。
でも、私の声は、気持ちは君に届かない。
クラスのチアガール達の方がずっと君にはふさわしいだろうから。
可愛くて、輝いてる彼女達。
シャイでダウナーな私なんか、興味ないよね。

だから、私は君を影で応援してるね。
でも、ああ、君を気にしないように思えば思うほど、気持ちが苦しくなってきちゃう!
愛って残酷。
世界が逆さまになればいいのに。
神様が私に振り向けばいいのに。

昼休み。
君は女の子達とカフェテリアに行く。
私は教室でママが作ったお弁当を一人で食べる。
こっそりロリポップも持って来たのは、私は甘いものが大好きだから。
君にあげようなんて、絶対絶対思ってないから!

でも、もし世界が、神様が私に味方してくれたら。
その時君にこのロリポップをあげてもいい。
君に告白すればこの病気は治るのかな?
私に誰かを愛する資格なんてあるの?
君を幸せにできるの?
本当に?

チアガール達と君が教室に戻ってきた。
君が私に微笑んだ気がする。
ううん、きっと気のせいね。
もうすぐ授業が始まる。
胸が気持ち悪い。
やっぱり私、クレイジーだ。



3/13/2023, 1:33:55 AM

シティ・ライツ・エンディング


毎日みすぼらしい服で。
どこか思い詰めたような顔で。
ふらふらと出かけては街の灯りに嫌気が差し。
暗い住みかへと戻る。
満足に食事もせず。
誰にも愛されず。
自分の存在に疑問を感じ。
どこかに居場所を探し。
無意味で空虚な一日を繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し……。
そのうち心が苦しくなって。
薬は必然的に増えていって。
もはや人間の尊厳すら見失い。
周りの人間を恨み、人生を呪い。
そんな自分自身を誰よりも嫌悪し。
そして今、人生のエンディングを準備し始める。
テレビの画面の向こう側で。
「街の灯」のチャップリンが悲しそうに笑った。
僕は今、この映画のチャップリンと同じ顔をしているのだろうか。
僕に向けてチャップリンは笑っているのだろうか。
彼は何を思って笑ったのだろう。
白黒の世界で。
笑いの世界で。
泣きたいような、笑いたいようなそんな顔だ。
そして。映画はエンディングに入る。
僕は泣いていた。
街の灯りが、涙で滲んでいた。
僕のエンディングが、始まる。




3/12/2023, 12:54:42 AM

彼女


夢の中で、僕は彼女と出会った。
彼女の名はシャーリー。
すごく綺麗で元気な子だ。
僕が眠れば、彼女は必ず夢の世界でスタンバイしている。それが何より嬉しかった。

僕はシャーリーと何度も旅をした。
旅をやめることは怖かった。
シャーリーは僕が夢を見ていることを知らない。
触れ合い、愛を感じているこの現状は、現実だとしか思えないからだ。

シャーリーはとても優しかった。
話をしているとき、時間を忘れさせてくれる。
シャーリーはお菓子が好きだった。
僕に手作りのお菓子をくれた。
でも、僕は怖かった。

この世界は現実じゃない。
こう伝えたら、彼女はどうなってしまうんだろう。
すべてが崩れてしまうのだろうか。
それだけは避けたかった。
シャーリーのそばにずっといたかった。

でも、ある日僕は言ってしまった。
「この世界は僕の夢なんだ」と。
シャーリーは驚かなかった。
いつものように笑っていて、その日はいつもと何も変わらなかった。
僕はほっとして、彼女に愛を告げると、シャーリーはとうとう泣き出した。
そして、夢の世界が終わろうとしたその時、彼女は自分の部屋に帰っていった。

間もなく、彼女の部屋から銃声がした。
そしてそれ以降、僕はシャーリーに会ってない。


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