高く、高く。
ふわふわと、プカプカと、まるで天に昇る風船みたいに。
何処までも浮いてしまいそうなほど、地に足をつけている感覚が無い。
私を地上に引き留めてくれる命綱が、何処にも存在していない。
手を伸ばしても、誰も私の手を掴んではくれない。
ずっと、自らの足で地を踏み締める人たちと同じようには歩けないの。
高く、高く。浮いて、浮いて。
いつか惨めに地に墜つその時まで、私は独り昇り続けるのだろう。
夕陽が照らす二人分の影が、付かず離れずなことが我ながらもどかしかった。
家が近くて付き合いが長かったから。ただそれだけの理由でいつも同じ道を並んで帰った。
次第に遠くなる運動部の掛け声や吹奏楽部の楽器の音が、夜を迎える街に溢れゆく喧騒が、他愛も無い日々の会話の後ろに流れていたことを覚えている。
放課後、家に着くまでのほんの十数分の距離。
実際に触れ合ってなんていないのに、少し大きく腕を振れば影同士は触れ合うみたいに重なって。
視線を交わし合わずとも。影だけは、確かに互いを見つめていた。
覚えている。
シロツメクサの上を舞う、モンシロチョウの群れのあどけなさを。
覚えている。
自らの足で踏み荒らしたクローバーの中から、強く育った四つ葉を見付けて喜んだあの無邪気さを。
覚えている。
爪先の鱗粉も、擦れる翅の感触も、小さな生命が掌の中で静かに終わる、その刹那も━━幼気な残虐さの前では、ただの玩具に過ぎなかったことを。
明日世界が終わるなら、「また明日」なんて挨拶も意味の無いものになるんだろう。
それでも昨日と同じにこの言葉を繰り返すのは、明日も同じ日常が続けば良いと願ってしまうから。
明日も当然のように、今日と同じ君に会いたいから。
「世界が終わる瞬間も一緒に居たい」なんて口に出せない臆病な私だから。
せめて昨日と同じ笑顔で、君と明日の約束をしたいんだ。
出逢いは人を変えるなんてよく言うけれど、どうして私は変われないのだろう。
君がどれだけ笑顔でいても、私は同じもので笑えない。
君がどれだけ泣いていても、私はそれを慰める言葉が解らない。
君がどれだけ怒っていても、私はその原因を理解する術を持たない。
君がどれだけ想ってくれていても、私は同じ気持ちを返すことが出来ない。
君と出逢っても、私の世界は変わらなかった。
ただひとつ、
私と出逢って変わってしまった、君の気持ちを羨む心以外。