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10/14/2024, 8:14:58 PM

 高く、高く。
 ふわふわと、プカプカと、まるで天に昇る風船みたいに。

 何処までも浮いてしまいそうなほど、地に足をつけている感覚が無い。
 私を地上に引き留めてくれる命綱が、何処にも存在していない。
 手を伸ばしても、誰も私の手を掴んではくれない。
 ずっと、自らの足で地を踏み締める人たちと同じようには歩けないの。


 高く、高く。浮いて、浮いて。
 いつか惨めに地に墜つその時まで、私は独り昇り続けるのだろう。

10/12/2024, 7:03:45 PM

 夕陽が照らす二人分の影が、付かず離れずなことが我ながらもどかしかった。

 家が近くて付き合いが長かったから。ただそれだけの理由でいつも同じ道を並んで帰った。
 次第に遠くなる運動部の掛け声や吹奏楽部の楽器の音が、夜を迎える街に溢れゆく喧騒が、他愛も無い日々の会話の後ろに流れていたことを覚えている。

 放課後、家に着くまでのほんの十数分の距離。
 実際に触れ合ってなんていないのに、少し大きく腕を振れば影同士は触れ合うみたいに重なって。
 視線を交わし合わずとも。影だけは、確かに互いを見つめていた。

5/10/2024, 2:26:29 PM

 覚えている。
 シロツメクサの上を舞う、モンシロチョウの群れのあどけなさを。
 覚えている。
 自らの足で踏み荒らしたクローバーの中から、強く育った四つ葉を見付けて喜んだあの無邪気さを。
 覚えている。

 爪先の鱗粉も、擦れる翅の感触も、小さな生命が掌の中で静かに終わる、その刹那も━━幼気な残虐さの前では、ただの玩具に過ぎなかったことを。

5/6/2024, 4:54:51 PM

 明日世界が終わるなら、「また明日」なんて挨拶も意味の無いものになるんだろう。
 それでも昨日と同じにこの言葉を繰り返すのは、明日も同じ日常が続けば良いと願ってしまうから。
 明日も当然のように、今日と同じ君に会いたいから。

 「世界が終わる瞬間も一緒に居たい」なんて口に出せない臆病な私だから。
 せめて昨日と同じ笑顔で、君と明日の約束をしたいんだ。

5/5/2024, 6:10:00 PM

 出逢いは人を変えるなんてよく言うけれど、どうして私は変われないのだろう。

 君がどれだけ笑顔でいても、私は同じもので笑えない。
 君がどれだけ泣いていても、私はそれを慰める言葉が解らない。
 君がどれだけ怒っていても、私はその原因を理解する術を持たない。
 君がどれだけ想ってくれていても、私は同じ気持ちを返すことが出来ない。

 君と出逢っても、私の世界は変わらなかった。
 ただひとつ、
 私と出逢って変わってしまった、君の気持ちを羨む心以外。

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