NoName

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7/16/2025, 12:49:07 AM

 数奇な境遇を共有出来た時、独りぼっちだった世界に君が入って来た。
 世界は僕ら二人と、それ以外だった。

 君は言った。自分以外の人間は、僕にとっての敵だと。
 だからいつだって君の傍に居なくちゃいけないのだと、君は無邪気な顔で笑っていた。

 でも僕は知ってしまった。
 僕を愛してくれる人間は、君以外にも居たんだってことを。
 この世界は、敵だらけじゃなかったことを。

 僕にとっての世界じゃない。
 君にとっての世界こそが、僕と二人だけで成り立っていたということを。

7/6/2025, 5:38:07 PM

 終わってみれば、なんて呆気ない。
 蓋を開けてみれば、中身なんて何も無い。
 とても空虚で、ただのハリボテ。

 それでも胸を空くこの想いは、確かに私にとって"恋"だった。

6/22/2025, 11:59:49 PM

 みっともなく泣き喚いて、泣き叫んで、どこにも行かないでと縋り付くことが出来たなら、なんて。
 そんなもしもを考える時がある。

 馬鹿で、愚かで、矮小で、こんなどうしようもない私のことなんか、振り返らなくていい。
 脇目も振らずにひた走る、そんな貴方が好きだったから。

 貴方の進む妨げにしかならない、私を置いていってくれる貴方で良かった。

6/17/2025, 5:07:39 PM

手を伸ばしても、伸ばしても、手に入れることは出来ない。

アスファルトに揺れる陽炎のように、雨上がりに架かる虹のように、水面に浮かぶ蜃気楼のように、夜空に瞬く星のように。

届かないのに、求めてしまう。
指を擦り抜ける、泡沫のまやかし。

12/29/2024, 10:03:58 PM

 深爪。
 オレンジに染まった爪先が醜く見えて、爪を噛む。
 血の滲む痛みよりも、爪先に詰まった異物が不快だった。

 それじゃあ痛いでしょ、と君は少し呆れた顔で笑った。
 温かな手が私の手を取り、歪な爪先に優しく触れる。
 皮を剥く度にそんな顔をするならと、口元に果実が差し出される。
 その表情が癪に障って、差し出された指先ごと齧り付く。
 瞬間、ニヤけた口元と力の籠った指先に気付いた時にはもう手遅れ。

 あ、食べられる。
 口の中で弾けたみかんと共に、君の血の味がじんわりと広がった。

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