NoName

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12/29/2024, 10:03:58 PM

 深爪。
 オレンジに染まった爪先が醜く見えて、爪を噛む。
 血の滲む痛みよりも、爪先に詰まった異物が不快だった。

 それじゃあ痛いでしょ、と君は少し呆れた顔で笑った。
 温かな手が私の手を取り、歪な爪先に優しく触れる。
 皮を剥く度にそんな顔をするならと、口元に果実が差し出される。
 その表情が癪に障って、差し出された指先ごと齧り付く。
 瞬間、ニヤけた口元と力の籠った指先に気付いた時にはもう手遅れ。

 あ、食べられる。
 口の中で弾けたみかんと共に、君の血の味がじんわりと広がった。

12/15/2024, 11:42:07 PM

 閉塞的で、酷く古ぼけた小さな街だった。
 田舎特有の柵の多さと、排他的な思想が息苦しかった。

 前に倣えで同調を求められる。
 求められた枠組みを外れた途端に迫害される。
 思想を統一される危うさを、誰も疑問に思いやしない。

 偏った思考を強要される街で、全てを覆うような雪だけが、平等に冷酷だった。

 厳しい寒さに、偏見を向ける厭らしい相貌は屋内に引き篭もる。
 非難と否定の囁き声が路傍から消える。
 思想に染められる前の無邪気な子供たちの喧騒を遠ざける。
 灰色の腐った街を、白く、白く、覆い隠してくれる。

 目を逸らしているだけとわかっている。
 それでもまだ、この街から逃げ出すことの出来ない幼い自分は、他力本願に雪を待つ。
 そのまま春すら来なければ良いのにと、刻を覆う雪を待つ。

12/14/2024, 4:45:51 PM

 道を行き交う人たちの、イルミネーションを見て楽しそうに笑う気持ちがわからなかった。
 ただ木々が人の都合で電飾を巻かれ、それが季節の風物詩のようになっている光景が不思議だった。
 その輝きの美しさがわからなかった。

 ……漠然と、何かを変えたかったのかも知れない。

 寒空の下、一際大きな木の一番上。
 イルミネーションの一番目立つ場所。
 輝く星に、手を伸ばしたの。
 それが作り物だと、わかっていたけれど。

 その星を指差して何が楽しいのか、無邪気に笑う人を何人も見たの。
 そんな光を手に入れられたら何かが変わるかもなんて、愚かで短絡的なことが過ってしまったの。
 人に紛れられない私でも、街を照らす輝きの一部に紛れられる気がしたの。

12/13/2024, 4:26:52 PM

 惜しみない愛を注いでもらっても、
 それを溜める器が無いの。

 満ちる器も無いくせに、
 満たされることを望んでいるの。

 注がれる愛を肯定出来るほど、
 自分自身を肯定出来やしないのに。

 安易に愛されることばかりを模索して、
 愛の注ぎ方がわからない、醜く滑稽な獣。

11/9/2024, 1:56:19 AM

 意味がないと断じていたことで、楽しそうに笑う君が、
 眩しくて、羨ましくて、嫉ましい。

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