みっともなく泣き喚いて、泣き叫んで、どこにも行かないでと縋り付くことが出来たなら、なんて。
そんなもしもを考える時がある。
馬鹿で、愚かで、矮小で、こんなどうしようもない私のことなんか、振り返らなくていい。
脇目も振らずにひた走る、そんな貴方が好きだったから。
貴方の進む妨げにしかならない、私を置いていってくれる貴方で良かった。
手を伸ばしても、伸ばしても、手に入れることは出来ない。
アスファルトに揺れる陽炎のように、雨上がりに架かる虹のように、水面に浮かぶ蜃気楼のように、夜空に瞬く星のように。
届かないのに、求めてしまう。
指を擦り抜ける、泡沫のまやかし。
深爪。
オレンジに染まった爪先が醜く見えて、爪を噛む。
血の滲む痛みよりも、爪先に詰まった異物が不快だった。
それじゃあ痛いでしょ、と君は少し呆れた顔で笑った。
温かな手が私の手を取り、歪な爪先に優しく触れる。
皮を剥く度にそんな顔をするならと、口元に果実が差し出される。
その表情が癪に障って、差し出された指先ごと齧り付く。
瞬間、ニヤけた口元と力の籠った指先に気付いた時にはもう手遅れ。
あ、食べられる。
口の中で弾けたみかんと共に、君の血の味がじんわりと広がった。
閉塞的で、酷く古ぼけた小さな街だった。
田舎特有の柵の多さと、排他的な思想が息苦しかった。
前に倣えで同調を求められる。
求められた枠組みを外れた途端に迫害される。
思想を統一される危うさを、誰も疑問に思いやしない。
偏った思考を強要される街で、全てを覆うような雪だけが、平等に冷酷だった。
厳しい寒さに、偏見を向ける厭らしい相貌は屋内に引き篭もる。
非難と否定の囁き声が路傍から消える。
思想に染められる前の無邪気な子供たちの喧騒を遠ざける。
灰色の腐った街を、白く、白く、覆い隠してくれる。
目を逸らしているだけとわかっている。
それでもまだ、この街から逃げ出すことの出来ない幼い自分は、他力本願に雪を待つ。
そのまま春すら来なければ良いのにと、刻を覆う雪を待つ。
道を行き交う人たちの、イルミネーションを見て楽しそうに笑う気持ちがわからなかった。
ただ木々が人の都合で電飾を巻かれ、それが季節の風物詩のようになっている光景が不思議だった。
その輝きの美しさがわからなかった。
……漠然と、何かを変えたかったのかも知れない。
寒空の下、一際大きな木の一番上。
イルミネーションの一番目立つ場所。
輝く星に、手を伸ばしたの。
それが作り物だと、わかっていたけれど。
その星を指差して何が楽しいのか、無邪気に笑う人を何人も見たの。
そんな光を手に入れられたら何かが変わるかもなんて、愚かで短絡的なことが過ってしまったの。
人に紛れられない私でも、街を照らす輝きの一部に紛れられる気がしたの。