NoName

Open App
10/15/2024, 3:51:26 AM

高く高く


あとちょっと、手が届きそうで届かない。
んんーと唸りながら、必死に背伸びをして、腕を伸ばす、俺。

あ、届いたかも、なんて。
目的の本に手が届いた気がした瞬間。

体勢を崩した俺は、床に打ち付けられるのを想像して、目をきゅっと瞑る。

……けど、体が打ち付けられる気配は無い。
その代わりに、俺の体をぎゅっと逞しい身体が受け止めてくれていて。

シャンプーだろうか、柔軟剤だろうか、わからないけど、甘い香りがする。

俺が恐る恐る、目を開けると。

「無理しないで、脚立使えば良いのに」

と、皮肉なようなことを、俺の体を受け止めたヤツが言うから。

「うっせ、あのぐらい届くと思ったんだよ」

と、負けん気の強い俺が、跳ねるように言葉を返せば。

その身長でねぇ……なんて、助けてくれた男の目線が語っていた。

「良いだろ、俺のことなんかほっとけよ」

そう、俺が居心地の悪さから、その場を立ち去ろうとする……けど。

俺は足を止めて、ヤツへと振り返る。

そして。

「……まぁ、その、さっきは助かった、ありがと」

と、一応礼を言っておけば。

「へぇ、意外だね。キミ、どう見ても不良クンって感じなのに、お礼が言えるんだ」

それに、図書室に居るだなんて、本好きなのも面白い、なんて。

黙って聞いてりゃ、失礼じゃないか、コイツ。

「不良が図書室で本読んでじゃ駄目なのかよ」

そう、イラっと俺が返せば。
目の前の彼はニヤリと笑って。

「いいや、良いと思う。少なくとも俺はキミのことが気に入ったよ」

なんて言って、ズイズイと近づいてきたかと思ったら。
俺を本棚の端へと追い詰めてきて。

俺はヤツから逃げられない状況だ。

……気に入ったって何だよ。

俺はそんなヤツを、負けじと見上げて睨んでやるのだった。


                     End

10/14/2024, 2:38:51 AM

子供のように


「ねぇ、公園寄らない?」

「何だよ、いきなりどした?」

「うんと、ね。何か、急にブランコ乗りたくなってきたんだよね」

なんて。
学校帰りに、二人で歩いていると。
隣の彼がふとそんなことを言う。

季節的には、秋で少し肌寒くて。
空は薄暗くなってきていて。
俺としては、寄り道をするにしてもコンビニぐらいかな、とか思ったけど。

普段、人に合わせてばかりの彼から提案されるなんて、珍しいから。

俺は良いよ、と返して。
二人で公園へと歩いた。

そして、着いたのは俺達が子供の頃よく遊んだ小さな公園。

「なんか、懐かしいねぇ」

なんて、しみじみと彼が呟くから。

「お前は年寄りかよ」

そう、ツッコむ俺。

そんな俺の方に振り向く彼は穏やかに笑っていて。

「そうだよ。年を取ったんだよ、僕達」

もうここで遊んでた子供じゃないんだから、と。
大人びな表情をする彼は、俺が幼い頃から知ってる彼とは別人みたいに思えた。

それが、何だか怖くて。
彼が俺の知らない遠くに行ってしまいそうで。

そんなの気の所為だって思いたくて、俺は。

「ブランコ、どっちが高いとこまでいけるか勝負しようぜ」

と、子供の頃みたいな提案をして。
彼の返事も聞かずに先にブランコを漕ぎ出せば。

「もう、君のそういうトコ、全然変わらないね」

なんて。
呆れた様に言いながらも、彼もブランコに座って漕ぎ始める。

俺はブランコに揺られながら。
子供の頃の彼との思い出を振り返る。

もう俺達は、小さな子供じゃない。

……きっと、いつかは彼とこうして過ごす時間も無くなるのかもしれない。

…………そんなの。

「……嫌だな」

と、俺が心中で呟く前に、隣でブランコを漕いでいる彼が口にするから。
俺は思わず、彼の方を見た。

すると、彼は俺の考えてることなんか、お見通しだったのか、笑って。

「だから大丈夫。僕は君から離れたりしないよ」

「っ、そう、かよ」

俺は彼の言葉が嬉しいのに。
照れ臭くて、ぶっきらぼうに返事をするのが精一杯。

ただただ、高いところを目指して、ブランコを漕ぐのだった。


                     End


10/12/2024, 11:17:38 AM

放課後


いつもの様に、自分の教室で彼の迎えを待つ僕。

最後のホームルームなんかとっくに終わって、教室には僕一人だけ。

「……また、いつものかな」

机に突っ伏して、小さく呟いてみる。
その声は少し震えていて、自分が今不安なんだと思い知らされる。

僕の待つ彼は、背が高くて顔もかっこよくて見た目は完璧。
でもって、誰にでも優しいから中身も完璧。
ってことで、当然女の子から大人気の彼。

だから、放課後は女の子に呼び出されての告白が頻繁にあって。
しかも、一日に一人じゃなくて何人もいたりするから時間がかかる。

僕は彼を待つ、この時間が大嫌いだ。

だって、君が女の子に取られるんじゃないかって不安になるし。
取られたくない、なんて我儘な自分が嫌になるから。

君と僕は、ただの幼馴染。
普通の友達よりちょっとだけ仲が良いだけ。

だから、君は僕のものじゃない……のに。

「……たまには女の子達じゃなくて、僕を優先して」

なんて。
僕の我儘が口から溢れる。

すると。

「そんなこと、いつも思ってたの?」

と、机に突っ伏す僕の頭上から、突然、彼の優しい声が降ってきて。

「っ!いや、それはっ、その…そう、じゃなくて」

弾かれた様に顔を上げた俺が、動揺の余り狼狽えながら、咄嗟に否定してみせるけど。

彼は相変わらず、優しく笑っている。

「ちゃんと言ってよ。ちゃんと聞くから」

「…………」

僕は昔から、彼の優しい笑顔に弱いから。
少し躊躇った後。

「僕を優先してほしい……寂しいから」

と、正直に白状すれば。
よく言えました、と彼が頭を撫でてくれる。

そして。

「うん、約束する。これからはホームルームが終わったら、真っ直ぐに君を迎えに行くよ」

「え……良い、の?」

女の子達が彼をほっとくワケないし。
君は優しいから、それを無視出来ない筈なのに。

なんて、俺の思ってることが伝わったのか。
彼が困った様に笑って。

「俺、君が思ってる程優しい人じゃないよ」

好きな人のお願いなら、何よりも優先したくなるんだから。

そんな、彼から俺の耳元で囁かれた言葉は、俺の願望からくる幻聴だったりはしないだろうか。

さっきまで不安で憂鬱だった気持ちは吹き飛んで。
俺はドキドキと煩い心臓の音で、何も考えられなくなって。

ただただ、独り占めしたいと思う彼を見つめるのだった。



                    End

7/27/2024, 4:42:08 AM

誰かのためになるならば


「みんなのためになるなら、俺は喜んで死ぬよ」

なんて。
微笑む君はそう、あっさりと言ってみせる。

僕達の住む世界は、謎のウイルスに支配され。
毎日大勢の人々が死んでいっている。
そんな絶望的な状況の中。
何故か、そのウイルスに免疫があるらしい君が。
世界の唯一の希望で。
君はその期待に応えたいと考えているみたいだけれど。

……そんなの、僕は納得がいかない。

医者や学者が君の体の中を調べる手術をするらしく。
何が起こるかわからないし、場合によっては彼は命を落とすことになるかもしれないのだと聞かされた。

それでも、世界のために。
明日、君はその手術を受ける。

でも、僕は絶対に嫌だ、君が死ぬなんて。

だから。

「君の言うみんなに、僕は入ってないんだね」

「どうしてそんなことを言うの?俺の体を調べれば、君だってウイルスに怯えて暮らさなくて済むようになるかもしれないのに」

さっきはみんな、なんて言ったけど、俺が一番助けたいのは君なんだよ?
わかってよ、と。

真剣な表情の君に。
僕も真剣な顔をして、静かに首を左右に振った。

「それで君がいなくなるなら、僕は君が生きてる今の世界のままの方が幸せだよ」

だから、どうか、お願い。

「みんなのためじゃなく、僕だけのために行動して」

そう言って、僕は戸惑う君へと、手を差し出した。

「僕とここから逃げよう」

君をみんなのためになんて死なせない。

僕だけのために生きてほしいんだ。

そんな僕の思いが伝わったのか。
君はゆっくりと、でもしっかりと僕の手を握った。


                    End

7/15/2024, 1:26:35 AM

手を取り合って


俺達が信じられるのは、お互いだけ。
だから、これからも手を取り合って。
この厳しい現実を生きていく。

「なぁ、今日、暑くね?」

「ほい、水盗ってきたぞ。これ飲んで元気出せ」

なんて、太陽が照りつける、暑い日も。

「あぁー、今日はさみーじゃん」

「そんじゃ、こっち来いよ。俺が温めてやる」

なんて、凍える風の吹く、寒い日も。

隣にはいつも、お前がいて。
こんな状況をつい嘆いてしまう、俺に。
お前はいつだって笑って。
手を握ってくれるんだ。

だから、俺だって、お前に何か返したいから。

「なぁ、お前は俺にしてほしいことってある?」

水盗って来ようか?
それとも、毛布?
あ、雨降ってきたし、傘か。

なんて。
俺が、彼の力になりたくて。
あれこれと必死で言葉を並べるけど。

お前はそれに、悲しげに笑って。
首を左右に振る。

そして。

「お前は何も盗って来なくて良いよ。俺みたいなことしなくて良い」

「っ、けど、それじゃあ、俺ばっか助けられてる」

俺はお前と支え合って生きていく、って決めたのに。

「そんなこと無いよ。お前が傍にいてくれるだけでさ……お前の存在に助けられてっから」

そんなの……俺だって、おんなじだ。

俺だって、お前が傍にいてくれることが、一番の支えになってるんだよ。

だから。
俺は、そんな思いを込めて。
彼へと手を差し出すと。
お前は柔らかく微笑んで。
俺の手を取った。

そして。
本格的に降り出した雨から、逃げる様に。
俺と彼は手を繋いで、走る。

二人で休める場所を探して。


                    End

Next