高く高く
あとちょっと、手が届きそうで届かない。
んんーと唸りながら、必死に背伸びをして、腕を伸ばす、俺。
あ、届いたかも、なんて。
目的の本に手が届いた気がした瞬間。
体勢を崩した俺は、床に打ち付けられるのを想像して、目をきゅっと瞑る。
……けど、体が打ち付けられる気配は無い。
その代わりに、俺の体をぎゅっと逞しい身体が受け止めてくれていて。
シャンプーだろうか、柔軟剤だろうか、わからないけど、甘い香りがする。
俺が恐る恐る、目を開けると。
「無理しないで、脚立使えば良いのに」
と、皮肉なようなことを、俺の体を受け止めたヤツが言うから。
「うっせ、あのぐらい届くと思ったんだよ」
と、負けん気の強い俺が、跳ねるように言葉を返せば。
その身長でねぇ……なんて、助けてくれた男の目線が語っていた。
「良いだろ、俺のことなんかほっとけよ」
そう、俺が居心地の悪さから、その場を立ち去ろうとする……けど。
俺は足を止めて、ヤツへと振り返る。
そして。
「……まぁ、その、さっきは助かった、ありがと」
と、一応礼を言っておけば。
「へぇ、意外だね。キミ、どう見ても不良クンって感じなのに、お礼が言えるんだ」
それに、図書室に居るだなんて、本好きなのも面白い、なんて。
黙って聞いてりゃ、失礼じゃないか、コイツ。
「不良が図書室で本読んでじゃ駄目なのかよ」
そう、イラっと俺が返せば。
目の前の彼はニヤリと笑って。
「いいや、良いと思う。少なくとも俺はキミのことが気に入ったよ」
なんて言って、ズイズイと近づいてきたかと思ったら。
俺を本棚の端へと追い詰めてきて。
俺はヤツから逃げられない状況だ。
……気に入ったって何だよ。
俺はそんなヤツを、負けじと見上げて睨んでやるのだった。
End
10/15/2024, 3:51:26 AM