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誰かのためになるならば


「みんなのためになるなら、俺は喜んで死ぬよ」

なんて。
微笑む君はそう、あっさりと言ってみせる。

僕達の住む世界は、謎のウイルスに支配され。
毎日大勢の人々が死んでいっている。
そんな絶望的な状況の中。
何故か、そのウイルスに免疫があるらしい君が。
世界の唯一の希望で。
君はその期待に応えたいと考えているみたいだけれど。

……そんなの、僕は納得がいかない。

医者や学者が君の体の中を調べる手術をするらしく。
何が起こるかわからないし、場合によっては彼は命を落とすことになるかもしれないのだと聞かされた。

それでも、世界のために。
明日、君はその手術を受ける。

でも、僕は絶対に嫌だ、君が死ぬなんて。

だから。

「君の言うみんなに、僕は入ってないんだね」

「どうしてそんなことを言うの?俺の体を調べれば、君だってウイルスに怯えて暮らさなくて済むようになるかもしれないのに」

さっきはみんな、なんて言ったけど、俺が一番助けたいのは君なんだよ?
わかってよ、と。

真剣な表情の君に。
僕も真剣な顔をして、静かに首を左右に振った。

「それで君がいなくなるなら、僕は君が生きてる今の世界のままの方が幸せだよ」

だから、どうか、お願い。

「みんなのためじゃなく、僕だけのために行動して」

そう言って、僕は戸惑う君へと、手を差し出した。

「僕とここから逃げよう」

君をみんなのためになんて死なせない。

僕だけのために生きてほしいんだ。

そんな僕の思いが伝わったのか。
君はゆっくりと、でもしっかりと僕の手を握った。


                    End

7/27/2024, 4:42:08 AM