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7/4/2024, 11:20:10 PM

神様だけが知っている


僕は天使だ。
神様だけが知っている、人間達の寿命。
その寿命が尽きる人を天界へと導く為に、人間の世界に迎えに行くのが、僕ら天使の使命で。

今夜も、僕は神様に告げられた人間を迎えに行った帰りなのだが。

「ねぇ、君って天使みたいだな」

俺を迎えに来たんだろ?
なんて、突然、一人の青年がベッドから、僕の方をしっかりと見て言うから。

「……君、僕のことが見えてるの?」

空を白い羽で飛ぶ僕を見ても、不思議そうにしない彼は。
自分の死期が近いことをわかっているみたいだ。

けど、それは間違いじゃなくて。
確かに、人間に僕ら天使が見える時というのは、天界から迎えが来た時や。
稀に、迎えが来る時期が迫っている者にも見える場合がある。

多分、彼は後者なんだろう。

だから、俺は彼へと笑ってみせる。

「それは神様だけが知ってるんだ」

どうか、彼がその時を安らかに受け入れられますように、と願って。

そんな俺の気持ちが伝わったのか。
彼も俺へと微笑むと。

「だとしたら、最後の時は君に迎えに来てもらいたいな」

「……それはどうして?」

「君みたいな綺麗な天使が迎えに来てくれたなら、きっと幸せな終わりになると思うからさ」

なんて。

どうしてかな、俺の顔が熱いし。
胸も苦しくなってきた気がする。

天使は病気にならない筈なのに。

これも、神様なら知ってるんだろうか。


                    End

7/3/2024, 11:34:02 PM

この道の先に


学校帰り。
いつもの帰り道だけど俺の隣には、今日転校してきた彼がいて。

同じ方向だから、何となく一緒に帰る流れになったのだった。

「授業の進み具合とか、前の学校と違うかったりする?」

「ううん、そこまで違わないから助かったよ」

「そっか。移動教室の場所とかは?ちゃんと覚えられた?」

「それはちょっと自信ないかな。一人じゃ迷いそう」

「じゃあ、明日から移動する時、一緒に行こうか?」

「ほんとに?ありがとう、助かるよ」

なんて。
お互いに探り探りの会話が擽ったいけど。
不思議と嫌じゃないというか……寧ろ、何だか心地良いというか。

まぁ、そんな風に思ってるのは、僕だけかもしれないんだけど。

でも、今日初めて彼と会って、自分でもよくわからないけど。
彼と話してみたいって思っていたから。

だから、この時間がもう少しだけ長く続けば良いのに。

なんて、俺が思っていたら。

「あ、俺の家、この道の先を曲がった所なんだ」

「そっか。じゃあ、ここでバイバイだね」

「うん、また明日。一緒に帰れて楽しかったよ、ありがとう」

そんな彼の何気無い一言が、嬉しいから。
僕もだよ、と言いかけて。

でも、このまま別れるのは名残惜しくて。

「あ、明日からも一緒に帰らない?」

なんて、声が少し裏返ってしまったのが、恥ずかしいけれど。

……なんとか、言えた。

たったそれだけの一言に、緊張して。
まだ、心臓がドキドキしてる。

そんな俺とは、正反対に。
君はあっさりと。

「良いよ」

そうOKしてくれて。

「あ、ありがとう」

じゃあ、また明日、と。
俺が舞い上がって、手を振って帰ろうとした時だ。

待って、と君に呼び止められて。

「ちょっとだけ、俺の家寄ってかない?」

今日暑いし、お茶でも出すよ。
なんて、さっきまでの何でもなさそうな様子とは違って。

彼はちょっとだけ、頬を赤く染めて。
俺を見つめる目が緊張しているように見えたから。

……あぁ、もしかして、君も僕と仲良くなりたいって思ってくれてるのかな。

だとしたら、嬉しいな。

そう思うと、自然と笑顔になって。
俺は君の言葉に頷いた。


                    End

7/2/2024, 11:39:52 PM

日差し

一日の始まりに、太陽の日差しを浴びるのが良いってよく聞くけど。
それはそうだ、って俺は毎朝実感してる。

まぁ、俺の太陽は。

「おはよう!朝だぞ、起きろー!」

なんて。
朝からはつらつとした笑顔が眩しい、彼なんだけど。

あぁ、今日も元気で可愛いな。

と思う気持ちを何とか抑えて。
まだ眠いフリをして、抱えていた掛け布団と一緒に寝返りを打ってみせた。

「……ん、まだ寝る」

「だーめ。これ以上寝てたら遅刻だぞ」

……ちょっと待て。
今の、『だーめ』可愛過ぎないか。

もう眠気なんてとっくに覚めていて。
彼への溢れる気持ちで、胸が高なっている。

けど、まだ起きるには、俺のときめきの日差しが足りないんだ。

だから。
俺が最後の抵抗とばかりに、抱き抱えていた掛け布団を頭から被れば。

起きろー、と彼が布団を剥がしてくる。
ほんとはここで起きても良いんだけど。
まだ、目を瞑っていれば。

「ったく、しょーがないなぁ。お前ってヤツは」

と、いつもだったら、ここで彼からの擽りの刑が始まる筈で。

でも、今朝は何故か、彼がフッと笑って。

「起きなきゃ、キスしちゃうぞ」

……え、えぇ?!

なんて。
まさかのびっくり発言に。
俺が思わず、目を開くと。

「よっしゃ、起こすの成功だな」

と、ニコニコ顔の、いつもの眩しい彼。

それでも、今はその笑顔が一段と輝いて見えて。

俺の中に、一日のやる気というか、エネルギーがチャージされるのを感じた。

……もし、あの時、直ぐに目を開けなかったら、彼は俺にキスしてくれたんだろうか。

明日の朝、試してみようかな。


                    End

7/1/2024, 11:01:43 AM

窓越しに見えるのは


窓際の席になって、最初にラッキーだと思ったのは、校庭で走る彼を見つけた時だ。

体育の授業で走る君のフォームが綺麗で見惚れてしまったんだ。
その綺麗な走りに、俺はてっきり彼が陸上部なんだと思い込んでいたんだけど。

放課後、一緒に帰る友人の用事を待つ間に、ぶらぶらと校内を歩いていた時。

美術室の窓から、君の姿が見えて。
キャンバスに向かう、真剣な横顔が綺麗で見惚れてしまったから。
あの、走るフォームが綺麗な彼と同一人物だとは、直ぐには気が付かなかったぐらいだ。

そして、君が美術部に所属していることを知って。
俺は、授業中に校庭で走る君を眺めるだけでは満足出来ず。
帰宅部なのに態々、放課後まで残って、美術室の横を通りながら。
窓から見える、絵を描く君の姿を見つめてしまう程で。

いつの間にか、俺は、彼の動作の全てに心が奪われていた。

……あぁ、いつか、窓越しじゃない、綺麗な君の姿をこの目に映したいな。

そうすれば、俺がこんなにも君に惹かれる理由がわかる君がするんだ。

なんて。

俺が考えながら、美術室の横を通り過ぎた時だ。
ガラリと、美術室の扉が開いて。

俺が驚いて振り返ると、そこには。

俺が窓越しに見つめていた彼が居て。
窓越しじゃない君の姿を、俺の目が捉えた瞬間。
呼吸をするのを忘れるぐらいに、君に見惚れて。

そして。

「……好き、です。ずっと君のこと見てました」

と、口から気持ちが勝手に溢れていた。

当然、俺の突然の告白に驚いた様子の彼。
目を見開いて、息を呑む様子でさえ、綺麗に思えて。
俺は目が離せない。

「……え、っと、友達……からでも良い?」

なんて。
辿々しかったけれど、返事をくれたことが嬉しくて。

何より、君と友人になれるなら。
もう、窓越しに見つめなくても良いんだと思うと。
それが、嬉しくて堪らないから。

「っ、はいっ。是非お願いしますっ!」

そんな、盛大に頭を下げる俺に。
彼が思わずといった感じで、笑い声を上げた。

窓越しじゃなくて、しかも初めて見た、君の笑顔。

俺は胸の高鳴りが抑え切れなくて。
咄嗟に制服の胸の辺りを強く握る。

勿論、その間にも一瞬だって、君から目を離したりはしなかった。


                    End

6/30/2024, 11:35:48 PM

赤い糸


「俺、彼女出来たんだ」

「……部活のマネージャーの子?」

「うん、そう」

そっか、それなら良かった……。

「おめでとう」

俺はホッとして、そう言えた。

「うん、ありがとう」

目の前の彼は幸せそうに笑うけど。

俺は知っている。
その幸せが長く続かないことを。

俺には、運命の赤い糸が見える。
自分のも見えるし、彼のも見えていて。
俺のも彼のも、誰に繋がっているのか、その先はわからないけれど。

でも、少なくとも。
最近付き合い始めたという、マネージャーの子と彼の赤い糸が結ばれていないことは、見えていて知っている。

そして、俺と彼の糸が繋がっていないこともわかってる。

もし、彼の糸と繋がった運命の相手が現れて。
彼に幸せそうに紹介されたとしたら……。

俺はその時も笑って、おめでとうと言えるのかな。

俺に運命の赤い糸が見えるだけじゃなく……切ることも出来るとしたなら、俺は。

彼と結ばれた、運命の相手の糸を引きちぎってしまいそうで怖いんだ。

それで、彼が幸せになれなくても。
俺と彼が絶対に結ばれないとわかっていても。

俺は君を愛しているんだ。

こんな身勝手な俺にも、赤い糸が繋がった運命の相手は、ちゃんといるのだろうか。

だとしたら、どうか。
早く現れてほしい。

俺が、彼の幸せを断ち切る、なんて愚かな罪を犯してしまう前に。


                     End

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