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1/8/2026, 11:55:55 PM

小学校の作品展、色とりどりの作品にあなたは何を思いましたか?


「想と茜って、昔からああなの?」

梶原が、牛乳を一気に飲み干したままの口で言った。
身長の低さを気にしているのか、放課後になると毎日欠かさず牛乳を飲んでいる。

「“ああ”って何が?」

「えー、なんか……変? てか変人? 奇人?」

「……」

「自覚なし? まあ、そういうとこ好きなんだけどね」

梶原は俯き、小さな声で言葉を足した。

「そういえば、小学校の作品展でさ、想と私だけ先生にめっちゃ怒られたことあったよね」

「なんで?」

「確か小六の図工で、“将来の夢の自分を粘土で作りましょう”って授業があったの。でも、想と私だけ飾られなかった」

「ほー」

「想はさ、粘土で“死んだ自分”を作ったんよ。題名が『愛おしい死』。作品展では色とりどりの作品が並んでたのに、あいつのだけ異質すぎて……先生、半泣きで怒ってた」

「想って、死そのものだよね」

「それな」

「で、茜は?」

「私は……辞退した」

「へぇ、茜らしい。なんで?」

「夢なんて、ないほうが“生きたい”って思えたから。
私、向上心を持って生きていくことができないんだよね。
だって、“明日のために今日生きる”ってことでしょ?
私は今日のために今日生きたいの。
そんな曖昧なものに縋ったら、“今は幸せじゃありません”って言ってるみたいでさ。
だから先生に『夢なんて私には存在しません』って言ったら、バカ怒られて、その日ずっと廊下に立たされてた」

茜はケラケラと笑った。

その笑い声の奥に広がる、彼女だけの世界に――
ふと入り込みたいと思う自分がいた。
                    色とりどり

1/8/2026, 1:57:07 AM

あなたの目に映る世界は何色ですか?




「茜は雪は好き?」

想が唐突に問いかけた。授業が終わったばかりの、二人きりの教室。窓の外では、ちらちらと白い粒が舞っている。

「嫌い」

茜は即答した。

「え、雪嫌いな人って初めて見たかも」

「だって雪って“冬”でしょ。冬の次は春が来るじゃん」

「……え、急に季節の話?」

「春が来るってことは、色んな選択肢を迫られるってこと。新しい年って、なんか苦手なんだよね」

「じゃあ春が嫌いなんじゃん」

「違うよ。春を急かしてくる“冬”が嫌いなの。で、その冬を連想させる雪はもっと嫌い。とりあえず、冬の具体例が全部嫌いなの」

「ははっ、“作用でございますか”」

想は大げさに頭を下げて、面白がるように笑った。

「茜、人は一人で生きているんだよ」

「? 人は一人じゃ生きていけないよ。寂しいじゃん」

「そういう意味じゃなくてさ――」

想は言いかけて、窓の外に視線を戻した。

「んーとね。俺たちが生きてる“世界”って、ひとつじゃないと思うんだ。人が違えば、見てる景色も、考え方も違う。みんな別々のメガネをかけて生きてるんだから、世界はその分だけあるってこと」

茜は黙って想の横顔を見つめる。

「でさ、その世界にはそれぞれの“善”がある。正しいって思える基準も、気持ちの基準も、人の数だけ違う」

ゆっくりと、想は茜の方を向いた。

「だからね、世界の外側に立って『こっちが正しい』って決めつけられる人なんて、この世にいない。そんな“神みたいな立場”の人間なんていないんだよ」

小さく笑って、想は続ける。

「だから茜は――茜がいいと思うほうを選べばいいんだよ。嫌いでも、怖くても、好きでも。茜の世界の話なんだから」

茜の睫毛がわずかに揺れた。窓の外では、相変わらず雪が静かに降っている。
                        「雪」

1/3/2026, 4:40:50 PM

もうすぐ学校が始まるのにやる気がでなさすぎる。テストも近づいているのに、、マジでほんまにヤバいです笑
行動しろ俺笑お正月がまだ抜けない、、
梶原と想の過去編エピソードです。


人を好きになるのって説明できないですよね。




中3の頃だった。
自分でも理由がわからないまま、胸の奥が熱くなって、ざらついて、黒いものが溢れてきた。
嫌だった。腹が立った。憎かった。
想が誰かと笑うたび、知らない顔を見せるたび、心がぎゅっと掴まれるみたいに痛んだ。
そしてある日、堪えきれずにぶつけてしまった。

「……梶原?」

「……っ、他の人と喋らないでよ。
俺より親しい人を作らないで。
楽しそうにしないで。
俺の知らないところで笑わないで……」

言葉にした瞬間、その重さに自分でも怯えた。
掴んだ想の手が小さく震えているのに気づき、はっとして離す。
「……ごめん。違う、こんなつもりじゃ……」

沈黙が落ちる。
だけど、想はいつもと同じ調子で笑った。

「梶原、日の出見に行こう」

家から少し離れた神社。
頂上から朝日がよく見える場所に、僕らは並んで座った。
想が買ってきたココアを渡してくれる。

「……心配?」

「え?」

「俺のこと心配してくれたんでしょ」

「……どうだろ。わかんない」

「そうだよ。心配してくれたんだよ」

想はココアの湯気をぼんやり見つめながら、いつものようにニヤッと笑った。
“平気だよ”って言うみたいに。
その余裕が、また胸を掻きむしった。

「……本当はさ。
誰でもよかったんだよ。
俺のことを一番に思ってくれる人なら、それでよかった。
でも……違うんだ。
ダメなんだ。想じゃなきゃ。茜じゃなきゃ……」

声が震えた。
言ってしまったら戻れない気がしたのに、止められなかった。

「なんだよそれー。
俺も茜も、梶原のこと好いてるよ」

優しくて、無自覚で、残酷な人。
胸の奥の黒い感情は、朝日が昇っても消えなかった。

12/25/2025, 2:58:30 PM

世界が歪んだ瞬間を見たことがありますか?


「……茜が死んだんだ」

その一言を聞いた瞬間、胸の奥がひやりと冷えた。
急いで現場へ向かった俺の視界に飛び込んできたのは、動かない茜の身体と、床に座り込んだ想の姿だった。
その顔には涙も焦りもなく——
犯人というより、看取りを終えた“遺族”のような静けさがあった。
だが、検視結果はその曖昧な印象を容赦なく切り捨てた。
争った形跡なし。
抵抗痕なし。
首には、ゆっくりと締められた痕跡。
——抵抗していない。
つまり、茜は“受け入れていた”。
捜査会議の空気が一気に張りつめた。
“自殺幇助”か、それとも“同意殺人”か——
どの項目に当てはめても、そこにあるのはひとつ。犯罪だ。
俺は想を取調室に呼んだ。

「……想。あの日、何があった?」

想は長い沈黙のあと、諦めたように口を開いた。

「茜が……言ったんだよ。
『もう生きたくない』って。
何も感じないし、誰にも届かないって。
それで……“終わらせてほしい”って頼まれた」

喉の奥がひきつれるような感覚があった。
想は言葉を続ける。

「断ったんだ、何度も。
でも茜は、僕じゃなきゃ嫌だって……
“想なら怖くない”って言った。
僕は……目を閉じても、手を離せなかった」

取調室の空気が重く沈む。
感情ではなく、事実だけが突き刺さる。

「……想。茜が望んだとしても、それは殺人だ。
お前は止めるべきだった」

想は小さく震えながらうなずいた。

「わかってる……全部。
でも……茜を一人で死なせたくなかった。
せめて最後は、僕がそばにいたかった」

しばらくして、想は顔を上げた。

「梶原……お願いがある。
茜の物語を、書き終えさせてほしい。
生きてるうちに間に合わなかったから……
せめて最後に、約束だけは果たしたい」

刑事として許すべきではない。
だが、目の前の友の声はあまりに切実だった。
長い沈黙のあと、俺は答えた。

「……三日だ。
三日後、必ず警察に出頭しろ。
そのときは、俺が全部受け止める。
逃げたら——俺が必ず捕まえる」

想は静かに頭を下げた。
「……ありがとう、梶原」
その声は、祈りにも、遺言にも聞こえた。
たぶん僕が想と茜を愛したことは罪であったと。
                
                   祈りを捧げて

12/24/2025, 3:56:53 AM

世界ってさ、結局は混合物だと思いませんか。
なのに、人は“純度”なんてものを勝手に作って、そこから外れたものを嫌う。



お風呂先にありがと。
「あ……はい」
その返事に、自分でもわかるほど変に緊張していた。湯上がりで少し幼く見える髪、ほんのり赤い頬。旅館の浴衣さえ、彼には不思議なほどよく似合っていた。
「急に降ってきたね」

「……ね」

「……茜、緊張してる?」

「まあ、少し」

「はは、手出さないよ。茜は経験豊富なんでしょ?僕が初めてなわけじゃないんだし」

「そうなんだけどね……。ねえ、人種差別って、なんで生まれたと思う?」

「ん?急だねその質問。んー……人は誰かを見下すことで自分を保とうとした、とか?」

「……人種差別って、“嫌い”とか“見下す”とか、そんな単純な感情じゃないと思うんだ。
世界って、いつの間にか“触れていいもの”と“触れちゃいけないもの”に線を引くでしょ?
体にウイルスが入ると良くないっていうあの感覚を、社会にそのまま拡げたみたいにさ。
違う顔、違う声、違う文化を、“汚れ”とか“混ざっちゃいけないもの”に分類して……。
本当はただの違いなのに、一度“前提”になってしまうと、人の形さえ曖昧にされちゃう。

私ね、小さい頃からずっと、自分の顔は“世界から排除される側”の顔なんだって思ってた。
だから、拒む人と一緒にいるほうがむしろ楽だったんだよ。
排除する人と、される私。役割が最初から決まってるから。
……でも、あなたは違った。
境界を引かないで近づいてくる人って、人生で初めてだった。
そういう人に触れられることが、いちばん怖いんだよ」

「……遠まわしだね。つまり?」

「だから……緊張してるの」

「茜は僕の顔、好きだからね」

そう言って、彼はそっと手を伸ばし、私の頬に触れた。
そして、さっきまで揺れていたキャンドルの火を静かに摘むように消す。
闇と雨の音だけが、ゆっくりと私たちを包んでいった。
                  
                  揺れるキャンドル

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