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世界ってさ、結局は混合物だと思いませんか。
なのに、人は“純度”なんてものを勝手に作って、そこから外れたものを嫌う。



お風呂先にありがと。
「あ……はい」
その返事に、自分でもわかるほど変に緊張していた。湯上がりで少し幼く見える髪、ほんのり赤い頬。旅館の浴衣さえ、彼には不思議なほどよく似合っていた。
「急に降ってきたね」

「……ね」

「……茜、緊張してる?」

「まあ、少し」

「はは、手出さないよ。茜は経験豊富なんでしょ?僕が初めてなわけじゃないんだし」

「そうなんだけどね……。ねえ、人種差別って、なんで生まれたと思う?」

「ん?急だねその質問。んー……人は誰かを見下すことで自分を保とうとした、とか?」

「……人種差別って、“嫌い”とか“見下す”とか、そんな単純な感情じゃないと思うんだ。
世界って、いつの間にか“触れていいもの”と“触れちゃいけないもの”に線を引くでしょ?
体にウイルスが入ると良くないっていうあの感覚を、社会にそのまま拡げたみたいにさ。
違う顔、違う声、違う文化を、“汚れ”とか“混ざっちゃいけないもの”に分類して……。
本当はただの違いなのに、一度“前提”になってしまうと、人の形さえ曖昧にされちゃう。

私ね、小さい頃からずっと、自分の顔は“世界から排除される側”の顔なんだって思ってた。
だから、拒む人と一緒にいるほうがむしろ楽だったんだよ。
排除する人と、される私。役割が最初から決まってるから。
……でも、あなたは違った。
境界を引かないで近づいてくる人って、人生で初めてだった。
そういう人に触れられることが、いちばん怖いんだよ」

「……遠まわしだね。つまり?」

「だから……緊張してるの」

「茜は僕の顔、好きだからね」

そう言って、彼はそっと手を伸ばし、私の頬に触れた。
そして、さっきまで揺れていたキャンドルの火を静かに摘むように消す。
闇と雨の音だけが、ゆっくりと私たちを包んでいった。
                  
                  揺れるキャンドル

12/24/2025, 3:56:53 AM