あなたの目に映る世界は何色ですか?
「茜は雪は好き?」
想が唐突に問いかけた。授業が終わったばかりの、二人きりの教室。窓の外では、ちらちらと白い粒が舞っている。
「嫌い」
茜は即答した。
「え、雪嫌いな人って初めて見たかも」
「だって雪って“冬”でしょ。冬の次は春が来るじゃん」
「……え、急に季節の話?」
「春が来るってことは、色んな選択肢を迫られるってこと。新しい年って、なんか苦手なんだよね」
「じゃあ春が嫌いなんじゃん」
「違うよ。春を急かしてくる“冬”が嫌いなの。で、その冬を連想させる雪はもっと嫌い。とりあえず、冬の具体例が全部嫌いなの」
「ははっ、“作用でございますか”」
想は大げさに頭を下げて、面白がるように笑った。
「茜、人は一人で生きているんだよ」
「? 人は一人じゃ生きていけないよ。寂しいじゃん」
「そういう意味じゃなくてさ――」
想は言いかけて、窓の外に視線を戻した。
「んーとね。俺たちが生きてる“世界”って、ひとつじゃないと思うんだ。人が違えば、見てる景色も、考え方も違う。みんな別々のメガネをかけて生きてるんだから、世界はその分だけあるってこと」
茜は黙って想の横顔を見つめる。
「でさ、その世界にはそれぞれの“善”がある。正しいって思える基準も、気持ちの基準も、人の数だけ違う」
ゆっくりと、想は茜の方を向いた。
「だからね、世界の外側に立って『こっちが正しい』って決めつけられる人なんて、この世にいない。そんな“神みたいな立場”の人間なんていないんだよ」
小さく笑って、想は続ける。
「だから茜は――茜がいいと思うほうを選べばいいんだよ。嫌いでも、怖くても、好きでも。茜の世界の話なんだから」
茜の睫毛がわずかに揺れた。窓の外では、相変わらず雪が静かに降っている。
「雪」
1/8/2026, 1:57:07 AM