家に帰ってテーブルに座るとワンプレートに色とりどりのお料理が乗っていた。
小さいサイズのチキンライスにオムレツが添えてあって、ハンバーグ、サラダ、唐揚げ、オムレツ……これは!!
「お子様ランチ!?」
「違いますー、あなた用の大人様ランチです!」
そう、俺は子供舌だからお子様ランチに乗る食べ物が好きだと付き合う前に話したことがある。
「ふふ。この後はクリームソーダもありますよー」
ニコニコと楽しそうに笑う彼女を見ていると、首を横に傾げてしまった。
「今日、なにかあったっけ?」
彼女はきょとんとしたけれど、柔らかい微笑みに戻って自分の分を用意していた。
「なんにもないですよー」
いつも以上にテンションが高い彼女を見ていると、本当になにもなかったっかと不安になる。
でも思いつかないなー。
こういう日付は忘れないようにしているんだけどなー。
あまたの中で考えがぐるぐる回るけど、答えにたどり着きそうになかった。
それでも彼女の瞳は優しい瞳で俺を見つめてくれる。
「本当に特別な日じゃないですよー」
くすくすと笑うから、彼女が可愛くて考えるのをヤメた。
ただ、目の前にある美味しそうな大人様ランチにスプーンでチキンライスをすくった。
「んーーーーー、おいしいー!!!」
ほっぺが落ちそうとは、こういうことを言うんだろうな。
おわり
六一五、特別な夜
「もうおひさまが高いとこにいますよ〜」
甘い声に導かれて目を開けると、恋人が俺を見つめてくれていた。
「おはようございます。凄くよく眠っていましたね」
彼女から朗らかに言われて気がつく。
そう言えば、ひとりの時は夢を見て深く眠ることが少なくて、それが悩みのひとつだったな。
「おはよ。よく、眠れたみたい」
「うふふ、それなら良かったです」
まるで猫がゴロゴロと喉を鳴らして擦り寄るみたいに彼女が俺に寄りかかる。
ああ、この温もりが心地いい。
彼女を抱きしめながらもう一度瞳を閉じる。
「また寝ちゃうんですか〜?」
彼女の声が遠くなる。
甘やかな香りと体温に幸せを感じながら意識を手放した。
おわり
六一四、海の底
身体が疲れるのは別に構わないんたけどさ、精神的にツラい時のほうが堪えるんだよね。
変なことばかり考えちゃってさ。
表面的に取り繕った笑顔が剥がされそうになる。
好きな飲み物を飲んで癒されるけれど足りない。
それだけじゃ足りないんだ。
瞳を閉じて空を仰ぐ。
冷たい風が頬に当たって熱を帯びた頭が冷えてくる。
深いため息がこぼれ落ちた。
「あの子に会いたいなぁ……」
そんな言葉と一緒に。
おわり
六一三、君に会いたくて
恋人と一緒に住むために引越しをしている時、荷物のはしに小さなノートが出てきた。
少し色褪せているけど綺麗な形をした水色のノート。
俺と恋人が好きな水色。
俺に記憶がないものだから、きっと彼女のだ。
そう思って彼女の元へ持って行った。
「ねえねえ、このノートは君のであってる?」
何気なくそう伝えたけれど、そのノートを見た彼女の表情は固くて胸がチクリとした。
「あ、ありがとうございます」
どこか不安を隠したまま、ノートを受け取る。
そして寂しそうな目をしたまま、ノートを抱きしめた。
「大事なもの?」
すると首を横に振った。
「私には、もういらないもの……です」
ゆっくり俺を見つめると彼女は嬉しそうに笑ってくれた。
「あなたがいてくれるなら、もう大丈夫なノートです」
その笑顔は晴れやか、とは言えないものだった。
安心を滲ませた表情でホッとしたけど、彼女を抱きしめたくなって強く抱き締める。
「うん。私、もう大丈夫」
その声に力強さを安心して、心の底から嬉しくなった。
おわり
六一二、閉ざされた日記
ビルの隙間から風がひとつ流れる。
ビュウと鳴りながら砂とホコリが飛びまくっていた。
「もお、木枯らしなんて通り過ぎたろー!」
ビルの谷間に虚しく響く俺の声だった。
おわり
六一一、木枯らし