とある恋人たちの日常。

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10/10/2025, 1:20:48 PM

 
 数日前に、彼女の職場先でもらった一輪のコスモス。
 俺たちの家には花瓶がないから、透明のグラスに水を入れて差していた。
 
 俺たちはどちらかと言えば青系が好きなふたりだから、コスモスの色合いは珍しい。
 
 それでも、花が部屋にあるのは心を華やかにさせてくれる。それは彼女も同じだったみたいで、切り花がどうしたら長く咲くのか調べていた。
 
 少しずつ短くなったコスモスはしおれかけていて、少し寂しく感じる。
 
 だから今日は帰りに一輪の花を買って帰ることにした。
 
――
 
「ただいま!」
「おかえりなさい!!」
 
 いつものハグをした後に居間に向かうと、コスモスがキリッと背筋を伸ばして色合いが変わっていた。
 
 俺は自然と笑みを浮かべてしまう。
 
「同じこと、考えてたみたいだね」
 
 そう言いながら彼女の前に一輪のコスモスを差し出した。
 
 
 
おわり
 
 
 
五一二、一輪のコスモス
 
 
 

10/9/2025, 1:51:40 PM

 
 少しずつ気温が下がって、木の葉の色が褪せてきていた。
 そんな色の街路樹を、俺は彼女の手を取って歩いていく。
 
「過ごしやすい季節になったね」
「はい!」
 
 満面の笑みを向けてくれる愛しい彼女。
 薄着の多かった時期から、軽く羽織ってくれるこの時期はちょっとだけホッとする。
 
 彼女の視線は、横切るお店に書いてある季節の食べものに移っていた。
 
「何か食べる?」
「食べる!!!」
 
 えらい食い気味な返事に笑いが込み上げてしまう。
 
 食べ歩きができそうな季節限定のクレープをみっつ分買って公園で食べることにした。
 
 カボチャ、栗、さつまいも。
 選べなかったんだよね。俺じゃなくて彼女が。
 
 ふたりで分けて食べていくんだけれど、口いっぱいに頬張る姿はやっぱりハムスターみたいだな。
 
「んん?」
 
 俺の視線に疑問を持ったのか、無垢な瞳で俺を見つめて首をかしげる。
 やっぱり食べ物を口に含んだ彼女は愛らしさが増して可愛らしい。
 
 やっぱり、いっぱい食べる君が好き。
 
 
 
おわり
 
 
 
五一一、秋恋
 
 
 

10/8/2025, 12:42:18 PM

 
 俺には恋人がいます。
 正直、将来も考えるくらい大切な人です。
 
 人に気持ちを押し付けられまくった中で、彼女は俺を大切にしてくれた人。
 そこから彼女を知って、どんどん知って、彼女から視線を外せなくなっていった。
 いつの間にか、彼女の笑顔を見ているうちに癒されて行く自分に気がついたんだ。
 
 恋人になった時は嬉し過ぎて舞い上がったなー。
 
 俺の仕事に時間に余裕がなくて、まあまあ時間が取れないのと、恋人になったからこそ一緒にいたくてさ。一緒に住むのも早かったです。
 
 ケンカ……はあまりしたことない。
 怒らせることはある。
 俺が俺自身を大事にしないと怒る。それはもうしっかり怒られる。
 怒る理由は俺のことを愛してくれている。だから怒ると思うと嬉しくなるんだけれどさ。
 
 彼女に怒られることも、泣かれることも俺には弱点なんだなと改めて痛感した。
 
 俺は。
 彼女の想いに応えたいから、俺自身を大切にすると決めた。
 
 だって、彼女が泣くのも怒るのも見たくないから。
 
 
 
おわり
 
 
 
五一〇、愛する、それ故に
 
 
 

10/7/2025, 12:50:29 PM

 
 騒々しい都会の中で静寂を探すのは難しい。
 二十四時間車の音や、人の音が溢れている。
 家の中にいても時計の音や電子音なんかも聞こえてくるからね。
 なにより、静寂の中心に居ても〝静寂の音〟が聞こえる。
 
 やっぱり静寂を探すのは難しい。
 
 寝室に戻ると、先に眠っていた恋人がタオルケットにくるまって眠っていた。
 
 彼女の隣に横になると、すうすうと寝息が聞こえる。
 
 ほら、静寂を探すのは難しい。
 
 俺は自然と口角が上がる。愛しい寝息を子守唄にして瞳を閉じた。
 
 
 
おわり
 
 
 
五〇九、静寂の中心で
 
 
 

10/6/2025, 2:04:36 PM

 
 最高気温が少し前に比べてグッと下がり、すっかり秋めいてきていると思った。
 
「涼しくなりましたね」
「そうだねぇ」
 
 俺は隣に並んでいる恋人の手を取る。
 彼女は一瞬驚きはするけれど、柔らかい笑みを向けてくれた。
 
「手を繋いでも問題ない季節になってきたね」
「はい」
 
 ふたり、足を止めて空を見上げ、涼しさに色を変えてきた葉っぱを見つめた。
 
「本当に秋めいてきたねぇ」
「はい。赤い葉っぱになりますかねぇ」
「なるといいねぇ。そうしたら葉っぱ集めて焼き芋作ってみたいねぇ」
「焼き芋!!」
 
 目がキラキラしている。
 うーん、食欲の権化。それが可愛いから全力で頷いちゃう。
 
 まあ、実際に紅葉を集めて焚き火と焼き芋をするのはこの都心部だと難しい気はするけれど。キャンプなら行けるかな。
 
 そうか、キャンプか……。
 
「どうしましたか?」
 
 俺が固まっていたからか、彼女が不安そうな顔をして俺を見つめてきた。
 
「ううん。焚き火で焼き芋を作れるところ、今度探して行こうね」
「はい!」
 
 赤く萌える葉を見つめて、それを集めてのんびり過ごす。そんな秋もいいかもしれないな。
 
 
 
おわり
 
 
 
五〇八、燃える葉
 
 
 

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