ポツポツ、ポツポツポツポツ……。
小さく地面を叩く音が聞こえた。
彼女、傘持っていったかな。
俺は窓から灰色の空を見上げる。
少し前に恋人から帰宅の連絡を貰ったばかりだった。
俺はスマホを取り、彼女へ電話をかける。
少しの呼び出し音の後に元気な声が聞こえた。
『はい、どうしましたか?』
「うん。雨、降ってきていたでしょ。傘、ある?」
『あー……ないです』
「迎えに行くよ」
少し息を飲む声が聞こえた。
『ふふ。ありがとうございます。今……』
彼女が今いる場所を教えてもらい、俺は傘と車のキーを持って玄関を出る。
――
車で彼女の指定した場所に向かう。
雨足は強くなっていて、迎えに行くと伝えて良かった。傘が無い状態だったらびしょ濡れになっちゃうな。
彼女反対車線のお店の軒先に雨を避けて彼女は立っていたのを見かけて、迂回して向かい徐行して彼女に近づいた。
雨の中にいる彼女は、肌の白さがより際立って目を惹いた。
ああ、俺の恋人はきれいだな。
おわり
四七九、雨と君
学校をコンセプトにしたカフェができて、それなりに経つ。
彼女の職場に近いから、カフェが始まる前に待ち合わせ場所にさせてもらっていた。
今日もそんな感じで彼女を待つ。
このカフェはガラス張りで教室が外からもよく見える。賑わっているのが見えて楽しいけれど、今はまだカフェは始まっていない。
がらんとしたお店は誰もいない教室みたいで、少しだけ寂しく感じてしまう。
「お待たせしましたー!!」
明るく元気な声が後ろから響く。
振り返ると愛しい彼女が笑顔で俺に向かって走ってきてくれていた。
彼女の顔を見ると一気に胸が暖かくなる。
さっきの寂しさが嘘のようだな。
おわり
四七八、誰もいない教室
出張修理に呼ばれて会社のメンバー数人と依頼された病院に車で向かっていた。
信号が赤になりゆっくりと車が止まる。
早く行ってあげたい気持ちにもなるし、私も早く行きたい。
私の恋人は今から修理に向かう病院に務めているから、仕事をしている彼を少しでも見られたら嬉しいと思ってしまった。
彼の邪魔になるから〝会いに行く〟なんて出来ないけれど、ちょっとだけ見られたら、それで良かった。
くんっと身体に重力がかかる。信号が青になって社長が車を発車させていた。
慣れた街並みを横目に病院に進んでいく。
病院の車両を修理するから、気軽に会えるわけじゃないけれど、彼と同じ場所にいられるだけでいい。
家に帰ればいつでも会えるけれど、職場でちょっと見られる姿は少し特別だよね。
車がゆっくりとスピードを落として止まる。
早く病院に行って修理したいのに、中々進めさせてくれない信号を、思わず睨みつけてしまった。
おわり
四七七、信号
勇気を出そう。
いつも行っている修理屋さんの女性が可愛くて、密かに想いを寄せているんだ。
くるくる変わる表情もいいし、実はシゴデキだろと思う気づかいが良くて。領収書にくれる一言も癒されたんだ。
仕事で疲弊した自分には、彼女の笑顔に心を奪われるのに時間はかからなかった。
実は狙っているって人もそれなりにいるのは知っていた。
だからちょっと焦っていたんだ。
両想いになれるなんて思っていないけれど、気持ちを伝えたい。そう思ったから勇気を出そうと思ったんだ。
そう思って彼女が一人になる時を狙っていた。
仕事が一段落して客が落ち着いた時に声をかけようと足を一歩踏み出すと彼女は誰かを見つけて手を振った。
「お待ちしてましたー!!」
声のトーンとその笑顔を見て固まってしまった。
だって見たこと無かったんだよ、そんな笑顔。
胸が痛くなったのと一緒に奈落の底に落ちていくような浮遊感に襲われた。
足の力が抜けて転びそうになったけれど、音が出そうだから何とか踏ん張った。
しばらくすると車が入ってきて彼女の前で止まって、見たことがある青年が降りてきていた。
病院に務めている人で、自分もお世話になったことがある。とてもいい先生。
彼女と話をしている姿を凝視してしまう。そして気がついてしまうんだ、ふたりの距離感の近さに。
確かに自分と彼女は店の人と客の関係だけれど、彼女を見ていたからはっきり分かる。
他の客にも一線を引いているって青年と一緒にいる姿を見て尚更そう思った。
それほど、彼女の笑顔が眩しくて、青年の顔が優しくてふたりにしかないものがそこにある。そう感じてしまったんだ。
言えるわけない。
彼女が困る姿は見たくない。
自分は苦しいけれど、悲しいけれど彼女を苦しめるのはもっと嫌なんだ。
俺は震える足に力を入れて、音を立てないようにゆっくりとこの場を立ち去った。
おわり
四七六、言い出せなかった「」
いつの間にか、彼への気持ちを隠すようにしていた。
それというのも。
私の気持ちが彼にとって、迷惑になってしまうんじゃないかという気持ちがある。
それに彼は誰にでも優しくて、色々な人から好意を向けられていると思ったんだ。
彼を見ている視線に私が持っている〝それ〟と同じだと分かったから。
更に言うなら私たちの周りにいる人たちが、恋愛方面の話を賑やかに盛り上げる人達が多いんだよね。
変なひやかしはしないようにしているけど、私もこっそり恋バナは好きだからね。なおさら気持ちを隠すようになっちゃった。
私の気持ちはいいんだ。
彼と時々会えた時に、笑って話してくれればいいの。
だから、胸がどれほど痛くても、彼への気持ちを奥に奥にしまった。
おわり
四七五、secret love