恋から愛に変わる瞬間ってどんな時なんだろう。
彼女のことを好きになったのは、外見ではなくて、荒んだ心を優しく見守ってくれてたんだ。
それ以上に俺のことを大切にしてくれたから。
守りたいと思ったけれど、気がついたら俺の前にいて人の手を差し伸べられる人になっていて……。
ちょっとだけ尊敬してしまった。
でも俺は彼女の店には行かないようにした。彼女のお店で彼女と俺との関係をお客さんが茶化していて、困っている彼女を見たから。
だから修理が必要であっても別の会社に連絡して、彼女と顔を合わせないようにしたんだ。
その期間は少し長かった。
でもね、俺は会いたかったんだよ。
偶然でもいいから会いたいって何度も思ったんだ。その気持ちを〝今が楽しければそれでいい〟という気持ちで押し殺して見ないフリをしてたんだ。
だからね。
「あ、お久しぶりです!!」
変わらない笑顔で手を振ってくれる彼女を見た時に、胸が熱くて締め付けられた。
いつも通りの表情を作っていたけれど、溢れる感情に戸惑いながら笑って手を振った。
「久しぶりだね!」
長い時間会えなかったからこそ、嬉しくてたまらない。
もっと、もっと一緒にいたい。
俺は恋をしていると改めて実感した。
これが愛に変わる時って、どういう感じなんだろう。
おわり
四〇五、小さな愛
「あっつ……」
俺は空を見上げると真っ青な空が広がっていた。
雨の季節に入ってから曇り空ばっかり見ていたので、こんな青空は久しぶりだ。
でもその分暑い。
救急隊の俺としては熱中症の患者も増えてしまうから、忙しくなっちゃうだろうけれど、天気はなんとも晴れやかだ。
嵐の前の静けさだったら嫌だなあ。
そんなことを考えながら、プシュッと炭酸飲料のキャップを開けて迷わずに口に含んでゴクゴクと飲む。
喉に冷たい炭酸が流れていき、シュワシュワとした感覚が喉に気持ちいい。
でも、たくさんは飲みきれない。
ポコン。
スマホから通知音が鳴る。俺はスマホを覗くと恋人からのメッセージが入っていた。
『暑いから熱中症に気をつけてくださいね』
相変わらず俺を気遣う言葉と共に彼女から写真が送られていた。
それは彼女の会社から見た青空の写真。
雲ひとつない晴れやかな青。
こんなにも広くて自由な空がそこにあった。
俺も思わず自分の目線で空の写真を撮り、彼女に送り返す。
「離れていても同じ空だね、っと」
広くて、自由で、キミと繋がっている空。
おわり
四〇四、空はこんなにも
子供の時はひとりで、誰かに頼れることはなく、誰かに手を差し伸べられることはなかった。
人見知りや泣き虫であることが悪い方向に行ってしまって、より孤独になってしまった。
自分に出来ることも少なくて、他人に手を伸ばすことも出来なくて。
だから、子供の頃から家族を持つことが私の夢だった。
人を、好きになりたい。
ひとりでいたくない。
ここでは私が一歩踏み出すことが難しくて、別の都市に行くことにした。
辿り着いた都市で勇気を出したの。
変わりたかったんだ。
偶然から大切な人立ちに出会えた。
そして私は今、ひとりで暮らしていない。
私の隣には愛しい恋人が無防備な顔で眠っている。彼の手は私の手の上に重ねられていて離してくれそうにない。
でも、これが嬉しくて満たされた気持ちが胸に広がる。
それと――
私はお腹をさする。
昨日、新しい命が宿ったことを知ってふたりで喜んだ。
もう、独りじゃないんだ。
おわり
四〇三、子供の頃の夢
人とのお別れが嫌い。
寂しさを見ないふりして、みんなの前で平気な顔をする。
でも心に空いた穴は塞がることはなくて。
別な人とのお別れがあると一気に広げられてしまう。
いやだよ。
つらいよ。
かなしいよ。
また会える。
もちろんそういう人もいるけれど、もう二度と会えない人だっているんだ。
その人にとっては私の存在は大したことは無いけれど。
小さくても心に残る存在だったんだよ。
先日、この都市を離れると言ったお世話になった人達は、きっともうここには戻ってこない。
あの晴れやかな笑顔で別れを言われたら、もう会えないって分かるんだ。
お世話になった人達だけでこれなんだもん。大好きな人だったらどうなっちゃうか分かんない。
会社の社長とか、友達とか、恋人とか。
布団にくるまって体育座りをしながらそんなことを考えていたら、布団の上から抱き締められる。
こんなことをしてくれるのは一人しかいない。
一緒に住んでいる大好きな恋人。
布団を捲り上げて私の顔を見つめる。眉を八の字にして正面から抱き締めて背中を優しくポンポンとしてくれた。
彼の行動に涙はもっともっと溢れて止まらなくなる。
お願い。
あなただけは、どこにも行かないで。
おわり
四〇二、どこにも行かないで
俺の恋人は、おっちょこちょいで、あわてんぼうなところがある。
初めて会った時はろうそくの火みたいに軽い息で消えてしまいそうな人だと思っていた。
だから、俺が守らなきゃって思ったんだ。
でも、それが間違いだって気がついた。
彼女は仕事にひたむきで、気がついたら専門的なことを理解して正しくプロになっていた。
後輩に指導している姿を見て、彼女の背中が頼もしくて、俺も負けられないと思ったんだ。
だから、彼女の仕事に前向きな姿は俺にも影響を与えてる。
お客さんには笑顔で誰とでも楽しく話せるから人懐っこさがあると思っていたんだけれど、仕事意外だと人との距離を測っていて甘えるのがヘタだと気がついた。
でも、ふたりになると俺の隣に来て俺の体温を求めてくる甘えんぼう。
仕事で頼りにになって格好いいのに、こんな可愛い姿は俺しか知らないのは少し優越感です。
おわり
四〇一、君の背中を追って