好きな人が出来ました。
誰にでも優しくて、太陽のようなキラキラした笑顔が素敵で、どうしようもなく目を奪われてしまう。
でも、私以外にも同じように思った人が……多分いるんだろうな。
だって誰の心の中にスルッと入って、「困ったことはない?」って聞いてくれるんだよ。
人懐っこくて幼さを残す表情は心の壁を簡単に壊しちゃうんたから!
ある時、彼が女の子と二人きりで楽しそうに話していたところを見てしまった。
友達かもしれないのに胸がチクチクして痛い。
彼の気持ちは分からないけれど、女の子の瞳に私と同じ気持ちが入っているのが分かる。
それが余計に胸をえぐった。
見なかったことにして仕事に戻る。
心に刺さる棘を見ないふりして仕事を進めるけれど、うまく笑えていたかな?
いつも楽しい仕事が少しつらいし、周りの景色の色がモノクロに見えてしまう。
こんなの私らしくない。さすがに切り替えなきゃ。
そんなことを考えて拳をギュッと握って周りを見た時に見慣れた車がお店に来て私の前に止まった。
「ごめん、修理お願いできる?」
そうやって出てきたのは想いを寄せている彼だった。
ああ、やっぱり好きだな。
そんなことを思いながら彼を見つめていると不思議そうな顔をされる。
「お願いしても、平気?」
「あ、はい。すみません!」
「良かった!」
私は慌てて彼の車を修理が出来るスペースに案内した。
「良かった、君が店にいてくれて」
「え、どうしてですか?」
「だって、君は俺の専属メカニックだと思ってるから!」
ニカッと歯を見せて笑ってくれる彼の表情は、やっぱり太陽のようなキラキラした笑顔で。男性なのに綺麗で私の胸を高鳴らせる。
やっぱり、私は彼が好きだな。
おわり
三九〇、美しい
愛しい彼女が命がけで産んでくれた天使を初めて見た時の感動は忘れられない。
そんなことを胸にしながら、彼女と天使に会いに行く。
天使に会いに行った後、彼女の顔を見に行くと俺に向ける笑顔がいつも以上にキレイで……。恋に落ちた時よりも胸がときめいてしまう。
母親になった彼女の美しさに目も心も奪われる。
昼間だから窓からの光が入り込んでいて、より彼女の神々しさが増していた。
「どうしました?」
俺が彼女に魅入っていたのをボンヤリしているように感じたのか、首を傾げて言う。
俺は首を横に振り、彼女の傍に近づいて手を取った。
「お母さんになった君が綺麗で愛しくて」
驚いて見せる顔は、俺がよく知っている恋人の顔。
それなのに、間を置いて微笑んでくれる表情は恋人とは違う笑顔なんだ。
やっぱりキレイだ。
まだ出産直後しか天使と一緒にいる姿は見ていないけれど、二人一緒に居るところを見たら幸せなのは間違いない。
「退院したら、一緒に頑張ろうね」
「はい!」
――
色々と話し合ったあとに病院を後にする。
ひとりになるのは寂しいけれど、退院したらふたりで天使との生活が待っている。
俺はそれが待ち遠しい。
帰り道を見つめるとキラキラしているように見えた。
どうしてもなにもない。
この世界は俺の愛しいもので溢れてる。
そう思うと口角が上がり、ステップを踏みながら家路に着いた。
おわり
三八九、どうしてこの世界は
一緒に暮らしてそれなりに経ち、籍を入れた。
そこから家族が増えると知って、引越しを検討している。
この都市に来た時は独りだった。そこから彼女と出会って、恋に落ちて、愛を育んだ。それが実を結んでお父さんになる。
だから、寂しいけれど引っ越すことにした。
今住んでいるところから近いところに、ちょうど良い家を見つけたから、仕事へ行く道や遊びに行く道に代わりがない。
「お待たせしました!」
いつもの待ち合わせで彼女を待っていると、彼女から声がかかった。
顔を上げると穏やかな笑顔を俺に見せてくれる。
俺も同じように口角を上げる。と言うか、自然と上がっちゃうよ。君に会えて俺は幸せをたくさん貰ったんだ。
俺が手を差し伸べると、嬉しそうな表情で俺の手を取って歩き出す。
君と歩いた道は、これからもふたりで歩いていく道。
おわり
三八八、君と歩いた道
一緒に暮らして、それなりに経っている。
けれど、隣で無防備に眠っている恋人は幼さを残している。先に目が覚めるた時に見られる彼女の寝顔はご褒美だ。
年齢的には彼女の方が年上だけれど、あどけなさを残していて夢見る少女のようだ。
彼女の頬に触れると、まぶたがぴくりと動き、ゆっくりと瞬きしてから俺を見つめる。俺を認識するとふわりと微笑んだ。
「おはようございます」
無垢な笑顔と眠気交じりの甘い声につい頬が緩む。その気持ちそのままに俺は伝えた。
「おはよ」
おわり
三八七、夢見る少女のように
六月に入ってから少しずつ雨の日が増えてきた。空に広がる灰色の雲から沢山の雫が落ちて身体も心重くさせる。今日はそんな日だった。
仕事が終わり、夕飯の買い物をしようと考えているとスマホが震える。そこには恋人からのメッセージが表示されていた。
『お疲れ様。仕事終わった?』
私はメッセージアプリを立ち上げて、彼に返信を送る。
『今終わりました。これから買い物してから帰ります』
そうメッセージを返し、ポケットにしまおうとする前に呼出音が鳴り響いた。もちろん、かけてきたのは彼だ。
「どうしましたか?」
『あ。ごめんね、突然』
相変わらず、気を回してくれる優しい彼だ。
私は自然と頬が緩む。
『まだお店?』
「はい。今、お店です」
『なら、迎えに行く』
「え?」
彼の仕事は時間的にシフト制で、今日は普通時間のシフトではない。だから、このタイミングの電話すら驚いていた。
『最近残業が多かったでしょ。休めって隊長と先輩たちに怒られてさ。調整で今日は終わりになったの』
救急隊の彼は、確かに残業が多くて彼の身体が少し心配だった。だから今日の夕飯は彼の好きな食べ物にしつつ、栄養が偏らないようにしようと考えていたんだよね。
『ダメ?』
「あ、いえ。嬉しいです」
『じゃあ、迎えに行くね』
そう言われて通話を終えると、彼が来てくれるのを待った。
正直ね。
雨の日は仕事が忙しいはずなのに、最近の彼の仕事の時間が長くて顔色が少しずつ悪くなっていたからホッとしちゃった。
私が夕飯を作っている間に休んでもらおうとか、リラックス出来る薬用入浴剤を使って身体を癒そうとか考えているうちに私の前に見慣れた車が停まってウィンドウが開く。
「お待たせ。さあ、行こう!」
嬉しそうな笑顔に吊られそうになるけれど、疲労感のある顔色をしている。私の目はごまかせないですよ。
私は車が来ていないのを確認してから、運転席のところに行くと、運転席側のウィンドウを開けてくれる。
「どうしたの?」
「迎えに来てくださり、ありがとうございます! 私、運転したいです」
引かないぞ。という気持ちを込めて笑顔を彼に向けると、少し驚きつつ彼は扉を開けてくれた。
私は彼に傘を向けながら出て私の傘を受け取ってくれる。そして私が運転席に乗ると、彼が助手席に向かってから乗り込んだ。
「さぁ、行きますよ!!」
「うん。お願い」
私はアクセルを踏む。彼の車だから安全運転で帰りのお買い物デートに向かった。
おわり
三八六、さあ行こう