一緒に暮らして、それなりに経っている。
けれど、隣で無防備に眠っている恋人は幼さを残している。先に目が覚めるた時に見られる彼女の寝顔はご褒美だ。
年齢的には彼女の方が年上だけれど、あどけなさを残していて夢見る少女のようだ。
彼女の頬に触れると、まぶたがぴくりと動き、ゆっくりと瞬きしてから俺を見つめる。俺を認識するとふわりと微笑んだ。
「おはようございます」
無垢な笑顔と眠気交じりの甘い声につい頬が緩む。その気持ちそのままに俺は伝えた。
「おはよ」
おわり
三八七、夢見る少女のように
六月に入ってから少しずつ雨の日が増えてきた。空に広がる灰色の雲から沢山の雫が落ちて身体も心重くさせる。今日はそんな日だった。
仕事が終わり、夕飯の買い物をしようと考えているとスマホが震える。そこには恋人からのメッセージが表示されていた。
『お疲れ様。仕事終わった?』
私はメッセージアプリを立ち上げて、彼に返信を送る。
『今終わりました。これから買い物してから帰ります』
そうメッセージを返し、ポケットにしまおうとする前に呼出音が鳴り響いた。もちろん、かけてきたのは彼だ。
「どうしましたか?」
『あ。ごめんね、突然』
相変わらず、気を回してくれる優しい彼だ。
私は自然と頬が緩む。
『まだお店?』
「はい。今、お店です」
『なら、迎えに行く』
「え?」
彼の仕事は時間的にシフト制で、今日は普通時間のシフトではない。だから、このタイミングの電話すら驚いていた。
『最近残業が多かったでしょ。休めって隊長と先輩たちに怒られてさ。調整で今日は終わりになったの』
救急隊の彼は、確かに残業が多くて彼の身体が少し心配だった。だから今日の夕飯は彼の好きな食べ物にしつつ、栄養が偏らないようにしようと考えていたんだよね。
『ダメ?』
「あ、いえ。嬉しいです」
『じゃあ、迎えに行くね』
そう言われて通話を終えると、彼が来てくれるのを待った。
正直ね。
雨の日は仕事が忙しいはずなのに、最近の彼の仕事の時間が長くて顔色が少しずつ悪くなっていたからホッとしちゃった。
私が夕飯を作っている間に休んでもらおうとか、リラックス出来る薬用入浴剤を使って身体を癒そうとか考えているうちに私の前に見慣れた車が停まってウィンドウが開く。
「お待たせ。さあ、行こう!」
嬉しそうな笑顔に吊られそうになるけれど、疲労感のある顔色をしている。私の目はごまかせないですよ。
私は車が来ていないのを確認してから、運転席のところに行くと、運転席側のウィンドウを開けてくれる。
「どうしたの?」
「迎えに来てくださり、ありがとうございます! 私、運転したいです」
引かないぞ。という気持ちを込めて笑顔を彼に向けると、少し驚きつつ彼は扉を開けてくれた。
私は彼に傘を向けながら出て私の傘を受け取ってくれる。そして私が運転席に乗ると、彼が助手席に向かってから乗り込んだ。
「さぁ、行きますよ!!」
「うん。お願い」
私はアクセルを踏む。彼の車だから安全運転で帰りのお買い物デートに向かった。
おわり
三八六、さあ行こう
少し前まで雨が降っていて、出張修理依頼の連絡が増える。私は実際に呼ばれて都市部の方に来ていた。
修理が終わった後、帰ろうと工具をしまいって車に乗ろうとした時に視界を奪われた。
水たまりに映る空。
曇天の中の隙間から青空の光が差し込む姿があまりにも綺麗で心を奪われた。
私はスマホを取り出して写真に収めて、迷わず恋人に写真を送る。
私たちの好きな空が水に反射して映る姿を愛しい彼におすそ分け。
おわり
三八五、水たまりに映る空
恋か、愛か、それとも――
そんな気持ちで迷うなんて思わなかった。
怪我しているところを助けた彼女。困ったように笑う姿が可愛い子だなと、なんとなく思った。
色々な出会いがあって、心が疲弊しまくった時に彼女に会う事が多かった。彼女と話しているうちに自分の心が軽くなっていて、いつしか彼女へ視線を送るようになっていく。
彼女の笑顔は、まるで暗闇の中に差し込む月の光のような透き通っていて心が惹かれるんだ。
この気持ちは恋か、愛か、それとも――
俺はゆっくりと瞳を開いた。
恋は、愛になって。
それから?
おわり
三八四、恋か、愛か、それとも
夕飯が終わった後のまったりタイム。
今日の片付け当番は私だけれどギリギリまで手伝ってくれた後に恋人の彼は珍しくソファに横になってスマホをいじり倒している。
私はソファの前の床に体育座りをして彼が空くのを待った。
五分、十分。
気がついたら三十分、放置された。
私の頬は自然と膨らむ。
そりゃ一緒に住んでいて、毎日顔を合わせているからふたりの時間を過ごしているんだけれど。
ひとりの時間を邪魔しちゃダメとは思うけれど。
さみしいー!!
私は彼のお腹にアゴを乗せて彼を見つめる。
「かまって欲しいですー」
彼はスマホから私を一瞬見つめる。けれどすぐにスマホへ視線が戻されてすいすいと操作に戻り、無気力な声が響く。
「あとでね」
私、まだ放置されちゃうの?
いや、ひとりの時間は大切だよ。私自身もひとりの時が必要な時があるからそれは分かるよ。
でもふたりでいる時間だよ。
そんなことを考えていると頬を膨らませてしまう。
「あとでかまってくれますか?」
「あとでね」
そしてまたスマホに彼の意識が戻っていく。
「約束してくれます?」
「約束するよ」
「約束ですよ!」
「うん」
私は彼のお腹に顔を乗せてグリグリと横に首を振った。
「約束ですからねー!!」
「うあっははははは! ちょ、待って。くすぐったい」
彼は反射で動き、足をバタバタさせる。スマホを持っていた腕も大きく動いていた。
「あー!!」
彼の大きな声にびっくりして顔を上げると、振っていた頭を止めてしまった。
彼はお腹を抑えながら、スマホをまた操作する。そして〝ポコン〟とスマホが小さく鳴った。
「なんの音です?」
思わず首を傾げて彼を見つめると、苦笑いして起き上がってから普通に座り直す。そして、大好きな太陽のような笑顔とスマホの画面を私に向けてくれた。
そこには彼のお腹に顔を乗せて頬を膨らませる私が映っている。みるみるうちに彼は悪い笑顔に変わっていった。
「撮ってたんですか?」
「うん、可愛かったから」
彼はスマホを置いて私を抱き寄せる。
「約束、まもるよ」
おわり
三八三、約束だよ