とある恋人たちの日常。

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6/2/2025, 2:56:58 PM

 
 ポツポツと傘に当たる雨が音楽を奏でている。
 粒が大きいのか、音が思ったよりも大きくて、都会の喧騒より雨音の方が耳に入った。
 
 駐車場からお店までの短い距離だから、恋人とふたり相合傘でお店へ向かう。
 
 彼を見つめると雨が当たっているのか、水気を帯びて、その……セクシーだ。
 
 彼に目を奪われているけれど、自分がそんなに濡れていないことに気がつく。よく見れば彼の肩も濡れていた。
 
「傘、もう少しそっちに寄せてください」
「濡れて風邪ひいたら嫌だからダメ」
 
 間髪入れずにそんな返答をされてしまい、私は頬をふくらませる。すると彼は、私の肩を抱き寄せて額に暖かいものが当たり、小さなリップ音が私の耳に入った。
 私は額を抑えて彼を見上げると、ほんの少し頬が紅く見える。
 
「濡れた姿を他の男に見られたくないからダメ」
 
 その声は傘の中にしか聞こえないくらい小さく、周りの雨音は大きかった。
 
 私は彼の独占欲に胸がときめいてしまう。
 そして、彼の照れた顔は私だけのものだ。
 
 傘の中と言う小さな世界の、私達だけの秘めゴト。
 
 
 
おわり
 
 
 
三八二、傘の中の秘密

6/1/2025, 12:49:35 PM

 
 べったりとした空気が気持ち悪くて、身体に張り付いたような湿気は心を重くなるな。
 
 雨はバイク乗るのが危なくなるし、修理が多くなるから嫌だ。
 修理屋の私としては仕事が増えるの。それはいいけれど、それって事故ってるってことでしょ。
 救急隊で働いている恋人も「雨の日は怪我人が多い」とは言っていた。
 
「みんな安全運転して欲しいな」
 
 そんなことを思いながら、店先に出て空を覗くと曇天がまだ広がっていた……けれど、遠くから鮮やかな色が見えていた。
 
 雨、あがってほしいな。
 
 誰も怪我をしないでくれたらいい。そんなことを思いながら私は仕事に戻った。
 
 
 
おわり
 
 
 
三八一、雨上がり

5/31/2025, 12:48:11 PM

 
 俺の恋人は可愛い人です。
 彼女の眉が八の字になって俺を見上げられると、どうしても負けてしまうんだ。
 
 時にはとめなきゃいけない時もあるんだけれど、惚れた弱みと言いますか、無理なんです。
 
 表情や仕草に幼さと無垢さを残す彼女なだけに、あんな曇りなき眼で見られたら断るなんてできないんだよ。
 
「可愛いのズルい!!」
 
 一度、彼女にそう言ったことがある。
 すると彼女は少し考えてから、ふわっと微笑んでくれた。
 
「それなら、あなたもズルいですよ?」
 
 俺は何を言っているか分からない。
 俺の表情を読み取ったのか、俺の頬に手を乗せてから口を開いた。
 
「私から見たら、あなたが可愛くてズルいです」
 
 少しだけ困った笑顔で俺を見つめる。俺が心の底から弱い、愛しい彼女の表情。その視線は俺を捉えていて、これは彼女の思いも俺と同じ……なのかな?
 
 そう気がつくと、なんだが勝ち負けなんてどうでもいいやって気持ちになった。
 
 
 
おわり
 
 
 
三八〇、勝ち負けなんて

5/30/2025, 12:32:04 PM

 
 お付き合いしてそれなりに経ちました。
 お互いに寄り添いあって過ごしていたから、割とあっという間だったな。
 
 私は隣にいる彼に視線を向けると、それに気がついた彼が私を見つめてくれた。この優しい瞳が大好き。
 
「どうしたの?」
「んーん、好きって思って」
 
 彼は一瞬驚くけれど、すぐに満面の笑顔になり抱きしめてくれた。
 
「俺も大好きだよ」
 
 彼の温もりが愛おしくて迷わずに抱きしめ返す。
 
 ああ、本当に幸せだな。
 
 まだまだ私たちの物語は終わりそうにない。
 
 
 
おわり
 
 
 
三七九、まだ続く物語

5/29/2025, 1:30:44 PM

 
 アパートの入口の上の隅に盃のような茶色いものがあった。
 なんだろうと見入ってしまう。
 しばらくすると、鳥が入ってきて中に入ると、中からもっと高い鳴き声が聞こえる。それも複数。
 
 もしかして、赤ちゃん……雛鳥がいるのかな?
 
 そんなことに気がついてから毎日、アパートの入口を見つめる習慣ができた。
 
 どうやら五羽ほど雛鳥がいるみたい。
 
 くちばしだけ見えるのがなんとも愛らしくて、毎日見ているのが嬉しくて。家に帰ったら毎日恋人に様子を話すのが日課になった。
 それを聞いてくれる彼の瞳も優しくて、大好きな時間になっていた。
 
 二週間ほど経った頃だろうか。
 むちむちになった雛鳥たちは巣から溢れそうになっている。こんなにむちむちしていると落ちないか心配になっちゃう。
 
 さらに数日経った頃。雛鳥たちが見えなくなっていた。
 
「え、落ちたの!?」
 
 慌てて周りを見るけれど、落ちた様子はなかった。
 
 しょんぼりしながら家に帰って彼にそのことを伝えると、彼は優しく私の頭を撫でてくれる。
 
「巣立ったんじゃないかな」
「あ、そうか」
「うん。それなら、また来年来てくれるかもね」
 
 慈しみの瞳を私に向けて言ってくれた彼の言葉は私の胸に染み渡る。
 
 そっか。
 また来年来てくれるかもしれないんだ。
 
 あの子たちじゃないかもしれないけれど、また来年会えるかもしれないと思うと嬉しくなった。
 
 
 
おわり
 
 
 
三七八、渡り鳥

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