とある恋人たちの日常。

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 アパートの入口の上の隅に盃のような茶色いものがあった。
 なんだろうと見入ってしまう。
 しばらくすると、鳥が入ってきて中に入ると、中からもっと高い鳴き声が聞こえる。それも複数。
 
 もしかして、赤ちゃん……雛鳥がいるのかな?
 
 そんなことに気がついてから毎日、アパートの入口を見つめる習慣ができた。
 
 どうやら五羽ほど雛鳥がいるみたい。
 
 くちばしだけ見えるのがなんとも愛らしくて、毎日見ているのが嬉しくて。家に帰ったら毎日恋人に様子を話すのが日課になった。
 それを聞いてくれる彼の瞳も優しくて、大好きな時間になっていた。
 
 二週間ほど経った頃だろうか。
 むちむちになった雛鳥たちは巣から溢れそうになっている。こんなにむちむちしていると落ちないか心配になっちゃう。
 
 さらに数日経った頃。雛鳥たちが見えなくなっていた。
 
「え、落ちたの!?」
 
 慌てて周りを見るけれど、落ちた様子はなかった。
 
 しょんぼりしながら家に帰って彼にそのことを伝えると、彼は優しく私の頭を撫でてくれる。
 
「巣立ったんじゃないかな」
「あ、そうか」
「うん。それなら、また来年来てくれるかもね」
 
 慈しみの瞳を私に向けて言ってくれた彼の言葉は私の胸に染み渡る。
 
 そっか。
 また来年来てくれるかもしれないんだ。
 
 あの子たちじゃないかもしれないけれど、また来年会えるかもしれないと思うと嬉しくなった。
 
 
 
おわり
 
 
 
三七八、渡り鳥

5/29/2025, 1:30:44 PM