とある恋人たちの日常。

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 ポツポツと傘に当たる雨が音楽を奏でている。
 粒が大きいのか、音が思ったよりも大きくて、都会の喧騒より雨音の方が耳に入った。
 
 駐車場からお店までの短い距離だから、恋人とふたり相合傘でお店へ向かう。
 
 彼を見つめると雨が当たっているのか、水気を帯びて、その……セクシーだ。
 
 彼に目を奪われているけれど、自分がそんなに濡れていないことに気がつく。よく見れば彼の肩も濡れていた。
 
「傘、もう少しそっちに寄せてください」
「濡れて風邪ひいたら嫌だからダメ」
 
 間髪入れずにそんな返答をされてしまい、私は頬をふくらませる。すると彼は、私の肩を抱き寄せて額に暖かいものが当たり、小さなリップ音が私の耳に入った。
 私は額を抑えて彼を見上げると、ほんの少し頬が紅く見える。
 
「濡れた姿を他の男に見られたくないからダメ」
 
 その声は傘の中にしか聞こえないくらい小さく、周りの雨音は大きかった。
 
 私は彼の独占欲に胸がときめいてしまう。
 そして、彼の照れた顔は私だけのものだ。
 
 傘の中と言う小さな世界の、私達だけの秘めゴト。
 
 
 
おわり
 
 
 
三八二、傘の中の秘密

6/2/2025, 2:56:58 PM