俺の恋人は可愛い人です。
彼女の眉が八の字になって俺を見上げられると、どうしても負けてしまうんだ。
時にはとめなきゃいけない時もあるんだけれど、惚れた弱みと言いますか、無理なんです。
表情や仕草に幼さと無垢さを残す彼女なだけに、あんな曇りなき眼で見られたら断るなんてできないんだよ。
「可愛いのズルい!!」
一度、彼女にそう言ったことがある。
すると彼女は少し考えてから、ふわっと微笑んでくれた。
「それなら、あなたもズルいですよ?」
俺は何を言っているか分からない。
俺の表情を読み取ったのか、俺の頬に手を乗せてから口を開いた。
「私から見たら、あなたが可愛くてズルいです」
少しだけ困った笑顔で俺を見つめる。俺が心の底から弱い、愛しい彼女の表情。その視線は俺を捉えていて、これは彼女の思いも俺と同じ……なのかな?
そう気がつくと、なんだが勝ち負けなんてどうでもいいやって気持ちになった。
おわり
三八〇、勝ち負けなんて
お付き合いしてそれなりに経ちました。
お互いに寄り添いあって過ごしていたから、割とあっという間だったな。
私は隣にいる彼に視線を向けると、それに気がついた彼が私を見つめてくれた。この優しい瞳が大好き。
「どうしたの?」
「んーん、好きって思って」
彼は一瞬驚くけれど、すぐに満面の笑顔になり抱きしめてくれた。
「俺も大好きだよ」
彼の温もりが愛おしくて迷わずに抱きしめ返す。
ああ、本当に幸せだな。
まだまだ私たちの物語は終わりそうにない。
おわり
三七九、まだ続く物語
アパートの入口の上の隅に盃のような茶色いものがあった。
なんだろうと見入ってしまう。
しばらくすると、鳥が入ってきて中に入ると、中からもっと高い鳴き声が聞こえる。それも複数。
もしかして、赤ちゃん……雛鳥がいるのかな?
そんなことに気がついてから毎日、アパートの入口を見つめる習慣ができた。
どうやら五羽ほど雛鳥がいるみたい。
くちばしだけ見えるのがなんとも愛らしくて、毎日見ているのが嬉しくて。家に帰ったら毎日恋人に様子を話すのが日課になった。
それを聞いてくれる彼の瞳も優しくて、大好きな時間になっていた。
二週間ほど経った頃だろうか。
むちむちになった雛鳥たちは巣から溢れそうになっている。こんなにむちむちしていると落ちないか心配になっちゃう。
さらに数日経った頃。雛鳥たちが見えなくなっていた。
「え、落ちたの!?」
慌てて周りを見るけれど、落ちた様子はなかった。
しょんぼりしながら家に帰って彼にそのことを伝えると、彼は優しく私の頭を撫でてくれる。
「巣立ったんじゃないかな」
「あ、そうか」
「うん。それなら、また来年来てくれるかもね」
慈しみの瞳を私に向けて言ってくれた彼の言葉は私の胸に染み渡る。
そっか。
また来年来てくれるかもしれないんだ。
あの子たちじゃないかもしれないけれど、また来年会えるかもしれないと思うと嬉しくなった。
おわり
三七八、渡り鳥
この前美容院に行ったんだけれど、その時の美容院で使ってもらったシャンプーがあまりにも心地よくて思わず買ってしまった。
美容師さんからシャンプーの仕方から教えてもらって使ってみたら、やっぱり髪の毛がさらっさらになったの!
自分の髪の毛だけれど、触り心地良くて気持ちいい!!
シャンプーはもちろんだけれど、ドライヤーもスタイリング剤も大切なの。
この辺りは忘れそうと伝えたら、配信で教えてくれる動画も用意してくれていて、やってみたら本当にさらっさら!
当然、美容師さんほどって訳じゃないけれど、それでも違いがハッキリ分かるんだから凄いよね。
そんな感じで、上機嫌でいつものおかえりなさいのハグを恋人にすると、彼が頭を撫でてくれた。
それがいつもの撫で方じゃなくて、ずーっと撫でてくれる。
「ど、どうしましたか?」
「あ、ごめん。髪の毛、気持ち良くて……」
ほんの少しだけ、彼が頬を染めてそう言ってくれたから、結構高いし手間もかかっているけれど、頑張って良かった。
おわり
三七七、さらさら
「ふふふ〜」
ソファに座ってニヤニヤしていると、恋人が呆れた顔して私を見てくる。
「どうしたの、ニヤニヤして」
頬が緩んで引き締まらなくて、ずーっとニヤニヤが止まらない。
「だって嬉しいんだもん」
難しい書類を間違えずに書いて、大切な人達にお願いをして書いてもらって準備は万端!!
明日はこの書類を役所に提出する。
「そんなに嬉しい?」
そんな彼も嬉しそうに見えて、私の頬は更に緩んでしまう。
えへへ。
彼は私の頬を下から優しく持ち上げて、もにゅもにゅと顔をいじくる。
「ふにゃー」
「だって緩みすぎだよ」
「ふれしひの!」
頬から手を離して、ゆっくりと私を抱きしめてくれた。
明日、私は彼のお嫁さんになります。
大好きな苗字だけれど、この苗字は今日で……これで最後。
おわり
三七六、これで最後