春一番という言葉があるように、風の強い日が最近風が強い日が多いなぁ。
俺が働いている場所は都市部にあってビル風もまあまあ吹くから、春が理由だけとは言い難い……かな?
そんなことを考えながら、彼女と待ち合わせ。
行きたい場所をふまえて俺の職場に近いところを集合場所にしていたんだけれど……遅いな。
「遅くなってすみません、お待たせしましたー!!」
風の吹く方向から彼女の声が響く。その風は向きを変え、走って来る彼女の横へ向けて激しい風が横切った。
「わっ!!」
風と共に登場した彼女だけれど、その風は方向を変えたかと思うと彼女のスカートを持ち上げる。
彼女は普段から短いスカートを履くもんだから、俺の視界にも……まあ、それが入りました。
その時の俺の行動は早かった。上に羽織っていたシャツを脱いでそれはもう素早く彼女の腰に巻いた。
「え、はやっ!?」
「はや、じゃないでしょ。短いスカート、可愛いけれど家以外は嫌だって言ったのに」
「うぅ、ごめんなさい」
彼女はしょぼんと顔を下げてしまう。いや、こんな顔を見たいわけじゃないんだけれど……やっぱり他人に見られたくないじゃない。
「可愛いって自覚して」
俺は彼女の耳元に囁いた。
一瞬、言葉に詰まって頬を紅くして俺を見上げる。
八の字の眉、下から見上げてくる困ったような表情は……ごめん、やっぱり可愛い。
「スカート履くなら、他にもなんか履いて。俺の方がもたないから」
俺の言葉を聞くと、ふわっと微笑んで頷いてくれた。
本当に、自分が可愛いこと無警戒なの自覚して!
おわり
三五〇、風と
一緒に暮らすようになって、スマホの画像フォルダには彼との写真が沢山ある。
彼への気持ちを自覚した時にイベントで彼が写っていた写真。こっちを向いているわけじゃないけれど、私にとって数少ない彼の写真。
そこから一緒に遊びに行くようになって、写真が増えていく。今ではデートする度に写真を撮っていた。
そんな写真をデジタルフォトフレームに格納してある。
たくさんの笑顔、たくさんの大好きな彼。
「なに見てるの!?」
後ろから私の手元にあるデジタルフレームを覗き込んだ。そこには、まだ彼とは知り合いくらいの頃のイベントの写真。
「え、こんな頃の写真?」
「はい! 私の宝物です」
胸を張って彼にそう言い返すと、くすっと笑ってくれる。
「ねえ、いつから俺のこと好きだったの?」
彼が何気なく聞いてくれる質問に私は満面の笑みでデジタルフレームを彼の前に突き出す。
「もちろん、最初からです!!」
驚く彼。
だけど、嬉しそうな顔で私を抱きしめてくれた。
このデジタルフレームには私たちの想いの軌跡がつまっているんだから!
おわり
三四九、軌跡
好きな彼女に想いを告げたんだけど……鳩が豆鉄砲を食らったような顔で俺を見つめ返してくる。
だめ……かな。
沈黙が続けば続くほど恐怖で背中に冷や汗が滝のように流れてた。
「えっと……俺のこと、好きになれない?」
「いえ……嫌いになれません」
それだけ言って、俺の胸に飛び込む。俺は嬉しくなって口角が上がった。
俺の肩を掴んだかと思うと、背伸びして俺の耳元から小さく囁いてくれる。
「わたしもだいすきです」
彼女の言葉に今度は俺の方が驚いて彼女を見つめ返した。
してやったり。と言わんばかりの彼女の微笑みが更に俺の心をときめかせる。
「だから嫌いになんてなれません」
おわり
三四八、好きになれない、嫌いになれない
明日が休みだから恋人と徹夜で映画を見るぞー!と息巻いて色々準備して映画を見ていた。ふたりが気になる映画をチョイスして見ていくうちに夜が明け、ふたり揃って寝落ちしていた。
いや、この映画は面白くてエンドロールまで辿り着いた記憶がある。
その時は彼女も起きていた……のに、ふたりともエンドロール中に寝落ちとか。
仲良いにも程がある。
なんて思いながら、俺に寄りかかって眠っている彼女を見つめた。
このまま寝かせよう。
俺は彼女を傾けて立ち上がろうとした。するときゅっと腕が絡まる。
「ごめん、起こした?」
「ん……」
目は開かない。うつらうつらしながら俺によりかかって元の体勢に戻される。
「ベッド行こ。それとも起きる?」
すると、やっぱりむにゃむにゃしながら俺の耳元に小さく囁いた。
「んーん、そばにいる」
俺の欲しい回答ではなかったのだけど……ハートを鷲掴みにした言葉をもらってしまい、俺は諦めて彼女に寄りかかり眠る体勢をとる。
夜は明けたけれど……おやすみなさい。
おわり
三四七、夜が明けた。
ぼんやりと彼女と一緒にいると、彼女がとても綺麗で目が離せない時がある。
色素の薄い髪色が光を透き通らせる。
ふとした瞬間に見せる笑顔を見ていると、いつだって胸がときめくんだ。
「どうしましたか?」
無垢な笑顔が俺を捕えた。俺は手を伸ばして彼女の頬に手を添える。
「好きだよ」
それだけ伝えると、徐々に彼女の頬が紅くなって俺から視線を逸らした。あわあわと慌てていたけれど、一息ついてから俺を見つめ直して笑顔をくれた。
「私も……です」
おわり
三四六、ふとした瞬間