夜空を見上げるとどうしても恋人を思い出してしまう。と言うのも彼女の名前には星をイメージする言葉が含まれているからだ。
無邪気で、少し天然も入っていて、笑顔が愛らしくて……いや、これは惚れた弱みかも。
夜の中に宝石を散りばめたような夜空はきらきらと輝いていて綺麗だ。
うーん。
名前で彼女を思い出すのもあるけれど、彼女の瞳もきらきらしているから、そっちもあるのかな。
きゅっと繋いだ手に力を入れられて、俺は視線を送ると星のようなきらきらした恋人の瞳が俺を捉えた。
「どうかしましたか?」
星空に心を奪われた俺を不安気な声で引き戻す。
白い肌にほんのりと赤い頬。あどけなさの残る表情。少し開いた桜色の唇。そして綺羅星のような瞳。
もっと明るいところで見るのも良いんだけれど……。
「きれいだなって……」
「へへ、ありがとうございますっ!」
星明かりの下で見る恋人は、いつも以上に……ときめいてしまうのに、この笑顔は反則でしょ。
やっぱり、惚れた弱みだなと苦笑いしてしまった。
おわり
三三九、星明かり
「どうかしましたか?」
ぼんやりと彼女の影を見て……いや見入っていた。そんな俺を見た恋人が不安そうな声で俺に話しかける。
振り返って見つめた彼女の姿は……肌色が多かった。
そう。
ライトが見せてくれた彼女の影姿は凹凸がしっかりある姿で……服特有の膨らみを感じられなかったから見入ってしまったワケです。
「……すごく……ラフな格好だね」
「え? 変ですか?」
彼女は腕を上げながら、自分の格好を確認している。
いや、ノースリーブに緩めのショートパンツに生足は……良いんだけれどビックリしてしまった。
「変じゃないんだけど……」
まあ……生まれたままの姿も見ているから別に動揺する訳じゃないんだけれど。
少し無防備過ぎじゃない?
俺は彼女の腰を抱き寄せて彼女の身体に顔を埋める。
「ん?」
「こんな格好、外でしてるの?」
「え、しませんよ!? これは部屋着です!」
彼女の香りを堪能しながら言葉を続けた。
「俺に襲われるって思わなかったの?」
視線だけを彼女の顔に向けると、彼女の目が合う。少し考える様子を見せた後に、彼女は俺の頭を抱きしめてくれた。
「それは私の望むところです」
彼女と俺の影はひとつになり、彼女の熱を堪能した。
おわり
三三八、影絵
私の物語の始まりは出会い……だと思う。
この都市に来て、家族のように思う人たちと出会えた。そして彼との出会いで私の物語は動きだして、始まった……と思っている。
彼に出会い、胸が高鳴って、知らない感情を知った。
私がこんな感情になるなんて思っていなくて……凄く戸惑うの。どうしたらいいのか分からない。一緒にいると嬉しくて、ほわほわして、彼の笑顔が見たくて。
気がついたら、彼に恋をしていた。
彼の仕事は救急隊で、お仕事が忙しそうだから気軽に声をかけにくい。だから偶然を装って会うのを期待してしまっていた。そんな偶然なんてある訳じゃないのに。
でも、彼は私の職場に来てくれた。
好きなものが同じことがあって話す機会が増える。時間を重ねる度に〝会いたい気持ち〟が大きくなった。
好きって気持ちが大きくなっていく。
自分でも戸惑うし、この感情をどうしていいか分からない。
私以外にも仲のいい異性がいて、それを見るたび胸に小さい痛みを覚える。
そして、思いもよらないことが起きた。
彼と想いが通じあって関係性が変わる。
太陽のような眩い笑顔を向けて、私に手を差し伸べる。私は誘われるままに彼の手を取り、私は彼の恋人として新しい物語が始まった。
おわり
三三七、物語の始まり
ソファに座っている彼の隣に座って、彼の肩に頭を乗せる。彼は抵抗するどころか、受け入れるように肩を少し下げてくれた。
彼の視線はスマホにあるけれど、私の身体を受け止めてくれる。
だいすき。
言葉にしないで、ただ身体を寄せる。
彼の体温は私を安心させてくれた。
しばらく彼は何も反応もしない。それでも私は彼の身体にも手を伸ばして絡みつくように抱きつく。
「あったかい」
彼がそうぽつりと呟いたと思うと、彼はスマホをローテーブルに置いて私を抱きしめてくれた。
かと思うと、膝と背中に腕を伸ばして、お姫様抱っこで持ち上げられて、ソファに沈められる。
「ふえ?」
そのまま彼の唇が落ちてきて、甘い時間がスタートされた。さっきまで特に構ってくれていたわけじゃなかったけれど、そばにいると手を伸ばして私を求めてくれる。
指と指が絡み合って、唇が重ね合っていく。
彼の熱が身体中に伝わった。
おわり
三三六、静かな情熱
この都市の大きなイベントでたくさん人が集まってくる。俺は自分の職場のメンバーとイベントに足を運んだ。
「賑やかだな!」
あまり交流のない人たちも集まっている。本当に大きなイベントだ。それぞれがそれぞれでグループを作り集まっていた。
俺の仲間たちも、外で知り合いになった人達にも声をかけて少しずつ輪を広げている。
色々な人が集まって談笑している中でも、ハッキリ聞こえてしまう彼女の声。
思わず振り返って視線を送ると、彼女も職場の人たちと一緒に来ていた。楽しそうに笑っている。
その無邪気な笑顔が他の誰かに向いていることに、チクリと胸が痛んだ。
自覚……したくない。
目を閉じていたい、この気持ち。
蓋を無理矢理したまま、今日のイベントを楽しむ。それが百パーセントの楽しみ方では無かったとしても、今できる全力で楽しんでいたんだ。
遠くに聞こえる彼女の声を聞きながら。
――
「そんなこと、ありましたっけ?」
「あったよ、あのイベントのこと忘れちゃった?」
正面には恋人になった彼女がいて、俺の思い出話を聞いて疑問を投げてくる。
実際にあのイベントで話はしていない。けれど、俺は彼女を目で追っていた。
「えー、話してくれれば良かったのにー!」
「会社の人も多かったから話しかけづらかったの」
「そっかー……」
頬をふくらませながら、彼女は俺の肩に頭を乗せ寄りかかってくる。
俺も身体を彼女に傾けて、寄りかかりやすい体勢を取りながら彼女の肩を抱き寄せた。
「今なら話しかけてくれますか?」
彼女の声は俺に甘えているみたいで、そっと耳打ちしてくれる。その距離はあの時と違って耳元までに近い。
「そりゃ、今は大手を振って話しかけられる立場だからね」
もう遠くの声じゃなくて、遠いならそばに行ける距離の関係、だからね。
おわり
三三五、遠くの声